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 ふう。

 いかんな、少しばかり脱衣の波動に飲まれて調子に乗ってしまった。お祖母ちゃんに『アンタはお調子者だから、やり過ぎに気を付けるんだよ』っていわれてたのにな。

 けど、昔から『飲んだら乗るな、乗るなら飲むな』って言うけど、飲まれた場合の対処法は聞いたことないんだよな。自分でなんとかするしかないってことか? 気をつけよう。


 まぁ、そこそこ楽しめたよ、うん。やっぱ女の子と遊ぶのは楽しいね。

 もう男か女か分からない、シワシワの骨と皮に戻ってるけど。拳の聖者。

 一応、死んではいない。気絶してるだけ。殺すと後始末が面倒臭そうだから。

 死体はいいんだよ、【毒生成】で溶かしちゃえばいいだけだから。

 でも、遺族の人たちの恨みつらみは簡単には溶けなさそうじゃん? いつまでも芯が残ってそう。

 だから今回の侵略でも、できるだけ兵を殺さないようにしている。無用な恨みは買いたくないからな。

 それでも運悪く死んじゃった奴はいるだろうけど。

 でも、それは仕方がない。普通に生きてても不慮の事故は起こり得るんだしさ。

 まして戦場なんていう、殺し合いが日常の場所でならなおさらだ。マジで運が悪かったと思って諦めてくれ。

 なんて、こんな言い訳、遺族には通じないんだろうなぁ。俺が殺さないように努力してるなんて、思いも寄らないだろう。

 はぁ、恨みを買うのは大魔王の宿命か。世界は悪役に厳しい。


「ぐおっ!? くっ、まだだ、まだワシは戦える!」


 だからさ、そろそろアンタも降参してくれないかな、弓の聖者のオッチャン?

 もう刺さった矢でハリネズミになってるじゃん。剣山けんざんじゃん。お花生けられそうじゃん?

 これ以上は本当にヤバいと思うよ? 無駄に(?)ゴリマッチョだから致命傷にはなってないみたいだけど、早く手当てしないと出血多量で死んじゃうよ?

 オッチャンはよく頑張ったよ。このゴブリンアーチャーズ三十体を相手にひとりで応戦してさ、よくここまで保ったと思うよ、うん。

 まぁ、俺が殺さないように手加減してたからなんだけどさ。


 いや、弱くはなかったよ? 俺が相手じゃなければ、普通の兵士が相手であれば無双できたんじゃないかな?

 それくらい強かった。さすがは弓聖。拍手、パチパチ!

 だってさ、まず早撃ちがパない。秒間三回以上撃ってたもんな。過去形。今はもう、両腕に何本も矢が刺さってるから、五秒に一回くらいしか撃ててない。それでも撃てるのがすげぇ。

 威力も凄かった。過去形。馬車の壁板二枚貫通してくるんだもん。弓の威力じゃねぇよ。でも今は腕に矢が以下略。


 うおっと! 危ない危ない、また後ろから・・・・矢が飛んできやがった。防御役のゴブリンランサーズが叩き落として事無きをエタノール。


 これが厄介なんだよな。多分【弓聖術】だと思うんだけど、撃った矢があり得ない曲がり方をしてきやがる。これは過去形じゃなくて現在進行形。未確認だけど進行形。

 曲射なんて可愛いものじゃなくて、左右に蛇行しつつ飛んできたり、さっきみたいに通り過ぎてからUターンしてきたり。

 お前、物理法則はどこへやった? ファンタジーだからって、何をやっても許されると思うなよ! お母さんは許しませんからね!

 まぁ、目視しないと狙ったところに当てられないみたいだから、延々物陰から撃たれ続けるってことはないんだけどな。頭を出したところを狙い撃ちすればいい。だからハリネズミになってるんだけど。今なら高速回転ダッシュができるかもよ? 顔色も青くなってるし。


 でも弓の勉強にはなったな。普通の曲射もしてくるから、それを見て真似て、俺も曲射ができるようになった。

 俺すげぇ! やっぱ、やればできる子だよ、俺!

 おっと、また調子に乗るところだった。危ない危ない。


「ぐぅ……オレはまだ……戦え……」


 お、倒れた。そりゃ、あれだけ血を流せばな。貧血にもなろうってもんだ。

 前世で一回だけなったことがあるけど、貧血はツラいからな。頭が痛く重くなって眼の前が暗くなって、耳鳴りもグワングワンだ。世界が壊れるって、こんな感じなんだろうなって思った。懐かしい。

 今はもう貧血とは無縁。体に流れているのが血じゃなくて樹液なので。


 んー、このまま放っておくと死んじゃうよな。しょうがない、治療してやるか。

 衛生へーい、衛生へーい、ヘイヘイヘーイ!



 ふう、これでよし。

 途中で弓の聖者が起きて、衛生兵のゴブリンナイチンゲールを見てまた気絶したけど、それはそれでよし。うなされろ。


「ぬぅ……ここまでか……無念」


 お、剣の聖者おじいちゃんも片付いた。剣を折られてゴブリンズに組み伏せられている。

 お爺ちゃんもよく頑張ったけど、寄る年波には勝てなかったな。というか、ゴブリンズの波状攻撃には勝てなかった。

 いや、お爺ちゃんも強かったよ、さすがは剣聖。俺でもギリギリ見えるってくらい、斬撃が速かったし。

 しかも、その斬撃が全部ガード不可攻撃なんだよな。何でも斬れちゃう。多分、あれが【剣聖術】の効果だったんだろうな。

 おかげで、スネ毛槍が何本もダメにされてしまった。痛い。痛かったのに!

 でもまぁ、それだけだ。

 延々とゴブリンズの攻撃を凌げるほどの体力は無かったからな。お年寄りに夜ふかしはできない。

 そもそも、こっちにも【槍聖術】があるから、そこまで不利ってわけじゃなかったし。むしろリーチが長い分、こっちが有利だったし。


 ということで、以上をもって奇襲成功、大魔王討伐軍の征伐完了だ! 残るは教国首脳陣と盾の聖者のみ!

 教国征服まであと少し! もうひと頑張り!

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