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「それじゃ、次はこっちから行くよ。覚悟はいいかい?」

「くっ、ここからが本気ってわけ!? いいわ、かかってきなさい!」


 ふっ、いいのかい、本気を出しても? 俺はまだ服を来ているんだぜ?

 実はこのメイド服、いつもの【形状変化】じゃなくて本物の服なのだ。俺、転生して初めて服を着ています!

 まぁ、素材は俺の葉っぱの【形状変化】で作った布なんだけどな。言うなれば、自前の髪で作ったヅラみたいなものだ。それ、ヅラ要らなくない?

 でも、お姉さんラナが皆のお揃いとして作ってくれたものだからなぁ。女の子の手作りだぜ? 着ないわけにはいかないだろう!

 とか言っても脱いじゃうんだけど。【脱衣真拳】だからしょうがないよな。なんて罪深い技能スキルだ。まぁ、露出は軽犯罪で間違いないんだけどさ。


「ふふ、アンタの罪(着衣)の数を数えな……脱衣キャストオフ

「なっ? きゃっ!?」


 胸元のボタンをひとつ外したライチの全身が発光し、着ていたメイド服が弾け飛ぶ!

 実はこの服、各パーツがボタンで留められていて、それが外れて素早く(?)脱げるようになっているのだ! 

 これ、お姉さんやお嬢さんマナ、クリスのメイド服も同じ構造だからな! いざという時には! 素早く! 素晴らしい!

 脱げたパーツはゴブリンズが回収している。拳の聖者のローブも既に回収済みだ。後で有効に再利用させていただきます。

 何に? それは内緒。ぐふっ。


 光が収まり、脱衣を終えたライチがポーズを取って現れる。左手を胸の前に、右手を頭上に掲げて、足は真っ直ぐ伸ばして踵を合わせた、フラメンコの決めポーズっぽいポーズだ。バラは咥えてない。カスタネットはキキのオモチャとして作ったけど、今日は持ってきていない。

 コスチュームは青紫で、胸元が大きく開いた全身を覆うレオタード。腰に巻いた水色のスカーフがワンポイントだ。

 足元は同色のパンプスで、髪はほどいて風に靡かせている。

 そう、某美人三姉妹怪盗の長女スタイルである! 美人だというのは君と僕だけの秘密だぞ!

 まぁ、ライチのモデルになった◯辺直美も顔立ちは悪くないと思うし、こういうのもありかなと思って。スタイルは気にするな。

 ……こういうのを着たお母さんたちがスタジオで踊り狂ってた時代があるんだよなぁ。すげぇな昭和。混沌ケイオスだな。

 ちなみに、まだ全裸じゃない。腰に巻いたスカーフがある。それ以外は自前の形状変化だから素肌だけど。ボディペイントみたいなものだな。いやん。


「さぁ、ラストダンスの時間だよ。派手に踊ろうじゃないか!」

「くっ、こんな所でやられるわけにはいかないのよ! なんとしてもアンタは倒す!」


 ここから第二ラウンド開始だ。お互いに距離をとって構える。

 拳の聖者は腰を落として左拳と左足を前に出したオーソドックスな拳法スタイル、俺は軽くステップを踏むジークンドースタイルだ。ブ◯ース=リーのアレね。ホアチャッ!

 ジリジリと摺り足で拳の聖者が間合いを詰め、俺も時計回りにステップを踏みながら徐々に距離を詰めていく。

 さっきは拳の聖者から仕掛けてきたからな。今度は俺から行かせてもらおう。

 お互いの間合いに入る瞬間、俺から前に出る!


「っ!? 速っ!?」


 左右左右左左右先っちょツン!

 右左右ロー左右左ローお尻ペロンッ!


 ふはは、全く俺のスピードに着いてこれてないじゃないか! セクハラし放題だぜ!

 でも今は女同士だから問題なし! 無邪気なスキンシップですよ! ほらほら、どんどん行くよ! サービスサービス! 俺にサービス!


「んっ、くぅ! この、バカにしてぇ!」


 いやいや、真剣ですけど? (キリッ)

 これで顔が美人だったら『アレ』や『コレ』や『エッ、そんなことまで!?』ってところまでイッちゃうんだけど……普通顔で良かったね!


「ふふっ、まだまだ! こんなもんじゃないよ!」


 それそれ、どんどんいくぞ! まだギアはセカンドだ!

 ツンツンペロンペロンモミモミ! いやぁ、格闘キャットファイトって本当に素晴らしいですね! (犯罪)


「んあっ! はぁ、はぁ、くっ、アタシがここまで手玉に取られるなんて……」

「もう終わりかい? 話に聞く聖者様も大したことないねぇ」


 拳の聖者は肩で息をしている。ダメージはそれほどじゃないだろうけど、俺に翻弄さもてあそばれ続けていたからな。

 汗で貫頭衣が肌に張り付いて、とてもいやらしい。顔さえ見なければ眼福だ。

 でも、触った時の肌の張りが徐々に落ちてきている気がする。胸も縮んできてるような? ドーピングが切れてきたのかもしれない。ふむ。

 周囲を取り囲んでランバージャックしてたゴブリンズの一匹が、水筒を拳の聖者の前に転がす。拳の聖者が持っていたやつだ。中身入りのほう。

 眼の前に転がってきたソレを、驚いた顔で見る拳の聖者。視線が水筒とゴブリンズ、ライチの間で行ったり来たりしている。


「飲みな。もう効き目が切れはじめてるんだろ?」

「……いいのかしら? その余裕、後悔するかもしれないわよ?」

「ふっ、させてみなよ?」


 チッパイならお触りもアリなんだけど、シワシワなのは守備範囲外なんだよ。やっぱピチピチなのがいい。飲んで元に戻せ。


「それに、隠し玉があるんだろう? 待ってあげるから見せてみな?」


 確か、この拳の聖者は城壁を壊せるくらいの破壊力を持っているって話だったはず。でもまだそれっぽいものは見ていない。つまり、まだ隠してるってことだ。

 勝敗だけを考えるならソレを出させないほうがいいんだろうけど、俺の場合は例外だ。

 だって、まだゴブリンズがいるからな。こいつらも俺だから、身体の大きさが違うだけで、実力はライチとほぼ同じ。万が一ライチが負けても、リカバリーは簡単だ。

 ライチひとりにここまで追い込まれている拳の聖者には、最初から勝ち目はなかったってわけだ。

 舐めプ? そうですけど、何か? 舐めるのも舐められるのも大好きなので。さぁ、舐めさせろ!


「ふん、隙を突いて喰らわせてやろうと思ってたのに、バレてたのね」


 拳の聖者が水筒を一気飲みする。あの量を一気に飲んだら、お腹チャポチャポになりそうだよなぁ。


「いいわ、アタシの本当の本気、見せてあげる!」


 拳の聖者が飲み干した水筒を放り投げ(ゴブリンズの一体がジャンピングキャッチ)、半身になって腰を深く落とす。そして右拳を左手で包み……こ、これは! ジャ◯ャン拳の構え!? ゴ◯さん!? ボ。

 その右拳にパワーが集まっていくのが分かる。オーラが集まるエフェクトが出てる。

 なんか、ゴゴゴって音がしてる気もするし、拳の聖者だけあって、某世紀末覇者と同じ効果音が出せるのかもしれない。

 これはアレだな? 女勇者ナオミと同じく、オーラ的な破壊力を攻撃に乗せる技とみた!

 ナオミのは攻撃に乗せるだけだったけど、拳の聖者のは、それを溜めて威力を上げることができる技っぽい。なるほど、城壁を破壊できるっていうのはそういうことか。


 いいだろう、かかってこい!


 ナオミとの対決はもうないと思うけど、もしもの時のために、その威力は身を以て知っておかなければと思っていたところだ。そのパワーアップ版と思われるこの攻撃に耐えられれば、ナオミの攻撃にも耐えられるはず。

 ステップを踏みつつ攻撃を待つ。こっちはいつでもいいぜ?


「行くわよ! 喰らいなさい、『聖絶崩拳』!!」


 速い! 右足の踏み込みと同時に右拳が伸びてくる!

 おっと、これはアカン! 当たったら大魔王ステータスでも大ダメージが入るかも!


 当たればね?


「忍法、空蝉転身の術」

「は?」


 拳の聖者の拳が鳩尾に入る瞬間、腰のスカーフを残してライチの姿が消える!

 これぞ服取流忍術、空蝉転身の術! 服部じゃないところがポイント!

 全く手応えなく、必殺の攻撃が不発に終わったことが理解できなかったんだろう。隙だらけで放心する拳の聖者の背後に、背中を向けたライチが現れる。


「終わりだよ」


 その声に拳の聖者が慌てて振り向くけど、もう遅い。

 なぜなら、俺の着衣は全て解き放たれてしまったのだから! もう俺の『脱衣の波動』を抑えられるものは何も無いのだ! 喰らえ!


「一瞬千脱」

「っ!?」


 瞬間、暗転。周囲が黒い光に包まれる。以前、無駄に開発した【光魔法】の黒い光線だ。『何処で使うんだこの技?』とか思ってたんだけど、使い道ができて良かった。

 その闇が消えた後には、うつ伏せで倒れ伏す拳の聖者。もちろん全裸だ。靴も履いてない。

 そしてその傍らに立つライチ。その背中には『裸人』の文字が光り、そして消える。

 これぞ奥義『瞬獄脱』! 『脱衣の波動』に目覚めた者だけが使える禁忌の技だ!


 あの闇の中で何が行われているのか、知る者は誰もいない。喰らえば全裸で倒れ伏すのみ!

 町中で使うとおまわりさんに捕まっちゃうから良い子は絶対真似しないでね! 大魔王との約束だ!

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