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 むっ、まだ拳の聖者は呆けているな。これは……もう一曲いけるか?


 よし、ゴブリンダンサーズ整列! ライチを含む二十名は一列縦隊、それ以外は散らばってミュージックとコーラスだ!

 『♪ジャジャン! ジャジャン!♪』と軽快な電子音とギターっぽい音が鳴る! それに合わせてゴブリンダンサーズがポーズ! 整列したゴブリンダンサーズ&ライチは両手を左右に伸ばして縮める!

 そして前奏スタート! ここからが見どころ、最初からクライマックスだ!

 見よ、この一糸乱れぬローリングウェイブ! 少しずつタイミングをずらして上半身を回す!

 一周だけで終わらないぜ! 二周目は皆で腕も回す! ヘイヘイ!

 前奏終了直前にダンサーズは散開、そしてボイスイン! まずはゴブリンズによるコーラス、そしてライチ!


「「「♪FAN FAN WE H◯T THE STEP STEP〜♪」」」

「♪同じ風の中〜WE KN◯W! WE LOVE! OH〜♪」


 よし、出だしはバッチリキマったぜ、チューチュートレ◯ン!

 女性ボーカルだからZ◯O版か? でも俺は男性ボーカルのEX版しか聞いたこと無いんだよな。このダンスもEX版のアレンジだし。

 まぁ、この世界にはZO◯もEXもいないからな。俺が初出オリジナルだから問題ない。

 さぁ、もっと俺の歌を聞け! 踊りを見ろ! そして踊れ!


「……はっ!? なんなの!? なんなのさ、アンタたち!?」


 ちっ、正気に戻りやがったか。このまま歌い切るつもりだったのに流れを止めるとか、これだからエンタメを知らない奴は! お前も踊れよ!

 腰を落としてファイティングポーズをとってるけど、心の動揺からか、イマイチ定まってない。まだまだ精神修養が足りてないな。一回豚領主ボーアと会ってこい、嫌でも鍛えられるぞ!


「アタシが誰かだって? 訊かれて名乗るも烏滸がましいが、知らざぁ言って聞かせやしょう!」

「や、やしょう?」


 今日はエンタメ気分だからな。台詞回しもエンタメ風だ。歌舞伎者なので歌舞伎も取り入れてみました。


「大魔王ボン=チキング様が配下、踊る歌姫ライチ様とはアタシのことさぁ!」


 ここでゴブリンズが低いピアノ音で『ババーン!』と奏でる! 効果音は重要。


「う、歌姫? 大魔王の? 大魔王なのに歌姫? 踊る?」


 むぅ? 割りと奔放な印象の拳の聖者だったけど、意外に常識人か? 大魔王とエンタメの関係に理解が追いついていないっぽい。頭が堅いのか? 堅いのは拳だけにしておけ?


「そうさ、大魔王様は平和と娯楽をお望みだからね! 保身と虚飾、闘争に邁進する教国にお怒りなのさ!」


 具体的には、ゲームしたりアニメ観たりのカウチポテトをご所望です。

 しかし、平和のための戦争かぁ。矛盾だよなぁ。

 でも、これが一番手っ取り早いのも事実。惑星崩壊の危機が近づいてるから、無駄に時間をかけてる暇は無いんだよ。


「はんっ、諸悪の根源である大魔王が平和だなんて笑わせるわね!」

「あら、そう言ってるのは教国だけじゃないかい? 他の国は温厚な大魔王との協調路線を選んだみたいだけどねぇ?」

「そ、それは、騙されているのよ! 後で必ず裏切られるに決まってるわ!」

「そうかねぇ? まぁ、世界を騙していた教国の聖者様が言っているんだから、説得力はあるかもしれないねぇ?」

「っ! くっ、減らず口を!」


 ふははっ! 口喧嘩で俺に勝てるはずがなかろう! なにせ、こちらには【話術】先生と【並列思考】がついているんだからな!


「まぁ、実りのない会話を続ける余裕はないんじゃないかい? ほら、まだアチコチから悲鳴が上がってるよ? 行かなくていいのかい?」

「っ! 言われるまでもないわ! アタシは拳の聖者、語るのはこの拳でよ!」


 実は俺としても、あんまり時間はかけたくないんだよな。手間取ると剣の聖者おじいちゃんが来ちゃう。

 いや、ゴブリンズで十分対応できるんだけど、それだとあんまり絵面が映えないからな。今日はエンタメ気分だから、おじいちゃんが相手でもできる限り盛り上げたい。

 まぁ、こっちは素手の女性同士のキャットファイトだ。撮れ高高いぞ!


「そういや、アンタは名乗らないのかい? 礼儀って知ってる?」

「ふんっ! 大魔王の手下に名乗る名前なんて無いわ!」


 おっと、奇襲! 名乗りもせずに殴りかかってくるとは、武将の風上にも置けんな!

 真っ直ぐ突っ込んできた右拳を半身になって躱す。ほほう、いいスピードだ。

 はっ! これは次の曲はSPE◯Dにしろという天の声さんの啓示か!? いいだろう、世代じゃないからうろ覚えだけど、なんとか思い出して練習しておこう! GO! G◯! HEAVEN!


「くっ、思ったよりやるわね! よく避けたじゃない!」

「ふふん、体捌きには自信があってね。踊る歌姫の名は伊達じゃないよ」


 名乗ったのは今日が、今さっきが初めてだけどな! 自称です!

 もっとも、人前で歌って踊った経験は何度もある。ハリーのとき、キキ相手にオフ◯スキーかぞえ歌とかだけどな。


「ふーん、これがアンタの力の元? 予備はこの一本だけかい?」

「えっ……あっ!? いつの間に!?」


 拳の聖者が左右の袖を慌てて探る。その袖のはためき方は軽い。

 俺の右手には水筒が一本握られている。さっき拳の聖者が飲んでいたものと同じサイズのものだ。すれ違いざま【脱衣真拳】で脱がせ盗ってやった。


「安心しなよ、長引かせる気はないからさ。この薬だかなんだかの効果が切れる前に終わらせてあげるよ」

「言ってくれるじゃない。その余裕、どこまで保つかしら!」


 再び突っ込んできた拳の聖者。今度はコンパクトな連撃か。

 左ジャブからの右ボディブロー、また左ジャブからの右フック、左ローキック。いいコンビネーションだ。

 かと思えば、今度は右ジャブからの左アッパー、そして右ヒザ。左右どちらの構えでも戦えるっぽい。さすがは拳の聖者、拳聖だ。

 なるほど、ローブはこのためか。足運びが見えないから、構えをスイッチしてもバレにくい。蹴りの軌道も分かり難い。初見殺しだな。

 まぁ、全部避けて流して受け止めてるんですけどね。伊達に【脱衣真拳創始者】なんて称号は持ってないんですよ。押し付けられてないですよ!


「ッ! はぁ、はぁ……やるわね、まさか一発も当たらないなんて」


 おっと、距離をとったか。息が上がってるな。空振りは疲れるっていうのは本当なんだな。

 いや、薬(?)の効果が徐々に落ちてきているのかもしれないな。


「あら、もう終わり? もう少し頑張れば? ほら、コレで動きやすくなったでしょう?」

「えっ? あっ!? なんでっ!?」


 俺の手からさっきまで拳の聖者が着ていたローブが落ちる。聖者、剥いちゃいました。【脱衣真拳】だからしょうがない。これが正しい手順だ。


 ローブの下は腿丈の貫頭衣っぽい肌着一枚か。パンツもブラも着けてないっぽいな。どことは言わないけど、先っちょが主張している。なんて破廉恥な!

 ということはつまり、あれが最後の一枚! 最後の防壁か!

 うほっ、燃えてきた! 顔は置いておいて、体は文句なしだからな!

 くくくっ、拳の聖者よ、覚悟はいいか? 次は俺が脱ぐターンだぜ?

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