降りてきた天使

平 一

降りてきた天使

当時、私は図書館の職員だったが、その日は休館期間中で、

返却された本の整理のために一人で出勤していた。

だから、誰もいないはずの館内を見回っている時、

いきなり不審者と出くわした私は、腰が抜けるほど驚いた。


思わず『うわっ!』と叫んでしまったが、よく見ると、

アニメから抜け出したような、可愛い天使の姿の女の子だ。

『ひっ! ……わっ、私は怪しい者ではありません!』

向こうも負けずに驚いたが、いかにも怪しい(笑)。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330656242405879


『いや、でもその恰好かっこう……』

『ああこれですね、じゃあこうすれば?』

白い衣装や二枚の翼がちらちらとまたたく光を発したかと思うと、

よく街で見かけるような服装に変わった。


『おおっと天使様が……こりゃあ凄い!』

オカルトに興味がある私はまず、話を聞いてみることにした。

『今の変身、何らかの地球外技術では!?』

そしてSFには、もっと興味がある。


『ああ、そういう方なら話が早い! 実は私、宇宙人でして』

確かに私は、どんな方だと言われても文句はいえない、

純度100%、混じりっけなしの中二病オタクである。

だけど貴方の奇抜きばつさも相当です、と私は言いたい(笑)。


『ではなぜ宇宙人が、こんなところに?』

『仲間と、はぐれてしまったんです。

母国で大規模な内戦が起きてしまい、

敵の襲撃を避けるために本隊は避難しました。

地上にいた私だけが取り残されて……』

涙目になった。 これは何だか、ヤバそうだ。


『母国って、どこから来たの?』

『銀河帝国。 銀河系全体で、数十万の種族がいます。

姿形すがたかたちはもとより生活様式や発展度、

構成元素までが違う種族の大集団を、治めているんです』

全銀河系って、ヤバすぎでしょ(泣)!

でも君主制か……宇宙は広いから、大変なんだろうなあ。


『地球は大丈夫かな?』

『すぐに影響が及ぶことは、ないでしょう。

でも状況次第しだいでは帝国との公式接触が早まるとか、

どこが勝つかで将来の関係が変わるとか、

そういうことはあるかと思います』

まあ私達は今のところ、恒星間航行もできないから、

少なくとも脅威とは見なされないだろうね。


『来た目的は? もしかして侵略とか、監視とか……』

『いえいえとんでもない! 文明発展度の調査です。

私達は貴方達が文明化を始めた頃から、

かげながらお助けしてきたんですよ!』

ずいぶん古いな! 〝古代の宇宙人〟ってやつなのか?


『昔の先輩達は、神様や悪魔を演じながら、

当時の人達を支援したそうです』

それでさっきのコスプレか……時代か場所を間違えたな。


『でも、フェルミ・パラドックスって知ってる?』

『色々と頑張って探しても、

宇宙人らしい電波信号とかがないって話ですよね?

ごめんなさい、私達が隠していたんです。

先進種族がその……発展途上種族といきなり交流すると、

過剰依存や士気低下、先進技術の誤用の危険があるので』

君があやまる必要は、ないけどね。 

私もそんな可能性を、考えたことはあるし。


『内戦というのは?』

『皇帝種族の側近団を作って政府の要職を占める、

軍事種族同士の争いです』


『種族が要職を占める?』

『最先進種族は量子頭脳に人格を転移マインドアップロードして寿命を克服し、

様々な人工体への再転移ダウンロードにより、高い環境適応能力も得ました。

そのうえ個々の人格とは別に、種族全体の共有人格も作って、

国連の理事国みたいに役職を務めることもできるんです!』


瞳を輝かせて文明発展の恩恵を力説したあと、

彼女は少し恥ずかしげに、でも嬉しそうに微笑んだ。

『でもまあ私達は……権力争いなんかが苦手で、

途上星域の支援を希望した、文民種族なんですけどね』

一応、悪い連中ではなさそうだ。


『戦況はどうなの?』

『帝国の中枢である銀河系の中央部は、

大変なことになっているみたいです。

恒星まで破壊するような大量破壊兵器が使われて、

皇帝種族の母星系とも連絡がとれなくなっています。

彼女は以前から軍事種族の暴走を心配していたし、

私達もそれを防いであげたくて、

平和的種族の育成に努めていたのに……』

彼女はまた、泣き出しそうな顔をした。


『君はこれからどうするの?』

『必要に応じて貴方達にも協力をお願いしながら、

助けが来るのを待つしかありません。

宇宙船にある量子頭脳と連絡がつくまでは、

この人工体の知識と能力だけで生き延びるしかないんです。

本当に、全銀河系を統一できた国が、

こんなことになってしまうなんて……』

しょんぼりとして、本当に困った様子だ。

まるで熱帯の密林ジャングルに一人で取り残された、調査隊員だ。


同情した私は、何かなぐさめの言葉をかけたいと思った。

『人工体は地球で、どれぐらい生きられるの?』

『生物学的特性は人類に合わせてあるので、何十年かは』

『じゃあ大丈夫だよ! 万一の時でも待てばきっと帰れるし、

戦争があってもそれを教訓に、平和な国を立て直せばいい。

まあ釈迦しゃか説法せっぽうかもしれないけど、

人類文明だって同じような道を辿たどってきたんだから』


『ありがとうございます。 少し気持ちが楽になりました。

それでは……というのもなんですが、

この機会に、地球の皆さんが文明について、

どう思っているかをお聞かせいただけませんか?』


おおっと、よくぞ聞いてくれました!

ていうか先生! 私の考えを聞いてください。

私は文明論にも興味があるが、なかなか語る機会がない。

人類文明を助けてきた宇宙人とそんな話ができるなんて、

SFオタクには夢のような機会チャンスだ。

それに彼女の心配をまぎらわせてあげられるし、

人類のいいところも、見せてやりたい(笑)。


『人類は文明により発展してきた。

でも結局のところ、人が生きるっていうのは、

どうなっているか知り、どうすべきかを決めて行い、

生きるために必要な富を作って分けることに尽きる。

まあ最近ではその中に、最も重要な富として、

私達自身の健康や教育も含まれつつあるけどね。

だから、文明社会を考えるうえで大切なのは、

自然をより良く知って富を生む技術と、

人々がみんなで決めて富を分ける政策であり、

この二つこそが文明の両輪、両翼だと思うんだ』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330654336110139


『ふうむ……確かに、おっしゃる通りですね』

彼女は何だか、面白そうな表情になった。


『そして文明発展には、一定の循環サイクルがある。

技術が進めば社会が変わり、社会が変われば政策も変わり、

その政策が新たな技術開発を促す、というものだ。

例えば狩猟・採集生活をしていた人々は、

食べ物を探して野山を彷徨さまよわなくてもすむように、

農耕技術を開発した。

でも、そうは言っても農業時代の力仕事は大変だったので、

次に動力機関を中心に、工業技術を開発した』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330654337300972


『同感です。 知的種族の向上心は限りがないですし、

技術は新たな利益だけでなく、課題も生み出すので、

文明の発展って、止まれないところがありますよね』

おおっ、同意してくれた!


『大きな力と速度で、正確に動く機械によって、

物や人、情報の流れがどんどん増えてくると、

それらを効率的に制御コントロールするため、情報技術を開発した。

さらに社会活動が複雑化して、

普通の電算機コンピュータを使っても人智じんちえなくなると、

人工知能が必要になった。

その本質は、膨大な情報から因果法則を発見・活用し、

自ら学習して活動を自動最適化できる演算指示プログラムだ。

……どうかな?』


『ほお……よくお勉強されているんですね』

馬鹿にされているのだろうか?と気になったが、

彼女の表情は本当に感心しているようなので、

人工体は知性も人間ヒト並みかな?と思って先を続けた。


『また、この文明の循環サイクルを繰り返す中で、

〝新たな技術が加わるほど、大事な政策の種類も増える〟

といった、文明の潮流トレンドも生まれる。

できることが増えると、すべきことも増えるんだ!

簡単に言えば……モノを作る、モノを分ける、

ヒトを高める、ヒトを活かす、という順番でね』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330656220753563


『それって、どういうことですか?』

彼女は小首こくびかしげて、聞いてきた。

本当はどんな形態の生物かも分からないのだが、

こういう姿はとっても可愛らしい。


『農業・工業技術は主に、富の生産、安全に役立つ技術だ。

だから農業・工業時代における国の政策といえば、

まず灌漑かんがいなどの建設事業や、軍隊の運用だった。

富の増産や確保に役立つ技術を健全に使うための、

社会基盤インフラ建設や国防など、技術的政策が大事だったんだ』


『そう言われると、私達の軍事帝国もそうでしたね……』

彼女は何かを昔を思い出すような遠い目をした後、

その内容を確認するかのように、目を細めた。

私はほっとして、先を続けた。


『でも工業・情報技術は、富の流通、配分も大きく改善する。

また国が豊かになると、その富をどの産業に投資するか、

困っている人々をどう助けるかということも考えないと、

他国におくれをとったり、内紛が起きたりしてしまう。

そこで富の分配、投資自体に意味のある、

産業政策や社会保障など、経済・社会政策も重要になってくる』


『ああ! 帝国でも産業種族が栄え始めたり、

途上種族への支援が行われたりしていました』

今度は、何だか嬉しそうな表情だ。

『そう?』 私も喜んだ。


『そして情報技術や人工知能ともなると、

医療機器や新薬開発、遠隔教育、個別学習などで、

人の向上、支援のための先進医療・教育も可能になる。

それらは少子高齢化や生活の向上、社会の複雑化で、

健康の衰えや教育の困難が生じる時代には、不可欠の技術だ。

特にAIは、人々の労働がますます省力化・高度化して、

企業方針なども含む政策の立案へと移っていく中で、

適性診断や意見集約など、人の活用・参画さんかくにも役立つ。

そのため、保健や教育といった人的資源政策と、

政策の国際化や分権化を促す行政管理政策も重要になる』


彼女はますます、嬉しそうな顔をした。

『本当に、おっしゃる通りですね! 

今では先進種族の中にも、医療や教育にたずさわる

有力種族が増えてきましたし、

今後は途上種族を国の中核として育成しつつ、

種族に関わらず有為ゆういな人材を活用するとも聞いてます』

『本当に?』 安心した私は、まとめに入った。


『それで私は、こう考えた。

農耕技術という体外物質の利用は、文明を生み出した。

工業技術という体外動力エネルギーの利用は、文明を世界に広げた。

情報技術という体外情報の利用すなわち、

大量高速な演算・記録・通信は、文明活動の効率化により、

地球という空間的な環境限界に到達した衝撃をやわらげた。

そしてついに、AI技術という体外知性の創造、

すなわち因果法則の発見・活用技術というものが、

従来はある意味で環境の〝外側〟にあった文明の利器を、

環境になじませ、持続可能性をかなえるのではないかってね』

『持続可能性?』


『そう! AIは新素材・動力エネルギー知能スマートロボット、

IoTインターネット・オブ・シングスとビッグデータ処理、

生物工学バイオテクノロジー、先進医療・教育など、

様々な技術を飛躍的に高めて、社会を変える。

では、それらに共通する特徴は何だと思う?』

『むむ……なんでしょう?』

眉を寄せて考え込む顔も、可愛いな(笑)。


『そうした技術は、機械を自然に優しくしたり、

人間にしかできなかった仕事を機械にさせたり、

人間も含む生物を機械のように修復・改良したり、

争い少なく人々の利害を調整したりできる。

すなわちそれらの共通項とは、要するに、

人工物と自然物の壁を除いて双方の持続可能性を高める、

体内環境含めた自然・社会環境に優しい性質だったんだ!』


しかし彼女は、不思議そうに尋ねてきた。

『でもよく考えると、生きることってそもそも、

命をつなぐ、持続可能性を求める営みなのでは?』

よくぞ聞いてくださいました!

ここからが本番、お話の佳境かきょうでございます(笑)。


『おっしゃる通り! 私もそこで悩みました。

そして、答えは持続の方法や種類では?

と気づいたんだ。

人類は今、モノの生産と分配、ヒトの向上と活用の

全ての分野に渡る問題を抱えている。

すなわち、地球の限界からくる資源・環境問題や、

経済・社会活動の複雑化による利害調整の困難、

腐敗・衆愚化・蛸壺化たこつぼかなど社会的健康の問題を含む、

経年・経代的な健康水準の低下、

政策の国際化など巨大化や、民主化など分権化といった、

政策変更の必要性といった課題だね』

ここが肝心かんじん、あとちょっとだガンバレ!


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330654338699836


『昔だったら、資源枯渇や格差が起きた時は、

植民地を求めて国外に進出すればよく、

開拓や戦争の中で自然に、私みたいな虚弱者や、

遅れた制度も淘汰とうたされたのかもしれない。

しかし今では、地球の限界や社会の一体化、

生活水準の向上や武器威力の増大により、

そのような〝解決〟を許していたのでは、

費用コスト危険リスクが大きく、自滅的だ』

人類の、罪や本音ほんねも認めちゃう(苦笑)。

今後は悲劇が、起きないように……。


『これに対してAIなどの環境親和技術は、

それら全ての政策課題で費用や危険を低減し、

根本的・本質的に持続可能性を実現できる。

だから今後の政策も、そうした次世代技術を使って、

モノの生産と分配、ヒトの向上と活用、全てを高め、

環境、経済、そして人々の健康や教育を含む社会、

さらには政策自体という、全ての持続可能性をめざす、

総合的な政策になっていくのでは?ということです』

ふ~、一気にしゃべったので疲れた。


『なるほど……』 

彼女は少しうつむいて、考え込んだ。

ちょっと早口で、難しかったかな?

だけど、彼女の意見がとても聞きたい。


『実はこれって、国連や国、自治体の政策にある

〝環境・経済・社会・政策の持続可能性〟とか

〝人間の安全保障〟〝ソサエティ5.0〟といった

行政用語を調べていたら、考えついたことなんだ。

だから上の人達は、とっくにご存知かもしれない。

でも、今では私みたいなオタクでさえ気づき、

誰でもウラがとれる事実と論理だけで、

簡単に説明できるようになったんだから、

もう間違いなく、皆が知らなきゃヤバいと思うんだ!』

偉そうにならぬよう、元ネタも白状しておこう。


彼女はなにやら、考え込んでいる。

銀河大戦やってる人達に、惑星文明の持続を説く……。

世間知らずのお人好し、と思われただろうか?

でも、私は人間の理想だけを信じているわけではない。


人間性の本質は、ごうとか原罪とも呼ばれるような、

良くも悪くも、限りない欲求だと思う。

それは、様々な願いをかなえうる知性が生み出すもので、

もしかすると表裏一体ひょうりいったいの関係にあるのかもしれない。


それは当然、より少ない対価あるいは代償で、

社会の維持や再生を行うことも求めるだろう。

彼女達が神や悪魔を演じて私達を文明化したのなら、

必ずやそのことも心得こころえているはずだ。


しばらくして、彼女は口を開いた。

『実に興味深いご意見ですね……。

これまで帝国でも、惑星の環境改造と植民や、

高次空間動力エネルギーの利用による超空間航行、

量子頭脳への人格転移マインドアップローディングといった、

画期的技術が開発されてきました。

これらはちょうど、農業・工業・情報技術にあたります』


彼女はさらに続けた。

『となると次は、AIなどの環境親和技術にあたる技術です。

でも帝国では、今回の内戦からも分かったように、

地球における人工物と自然物の違いよりも大きな、

種族間の違いが問題だから……ああ、ありましたよ! 

まさに種族間親和技術といえるような、

量子頭脳の遠隔接続や共同利用、人工体の共通化などの、

新技術を開発している技術種族がいます!

大変参考になりました、有難うございます……おお!』

彼女は突然、何かに耳を澄ますように、

目を見開いてちゅうを見上げた。


『母船と連絡がつきました!

私達の種族は穏健な軍事種族や産業・技術種族、

それに恒星間を渡れる途上種族の協力も得て、

平和の回復にあたることを決定したようです。

どうも大変、お世話になりました。

突然ですが、失礼させていただきます』


私は彼女が助かったことを喜びながらも、

状況の急変に動揺した。

『えっ、そうなると私達人類は?

……あと、君達の名前だけでも』


天使の姿に戻りながら、彼女は一瞬、

少し悲しげな表情を浮かべた後で、答えた。

『実は……私達はサタンと言います。

すみません、他の種族のことを考えて、

悪役を演じる時は私達の名を使ったので、

初めはちょっと言いづらかったんです』


しかし、彼女はすぐに元気を取り戻し、

瞳に希望の光を輝かせて、こう言った。

『でも、もうじき公式な接触と説明が

行われることが、決まりましたよ。

私達は、貴方達の優しさを忘れません。

これからも、よろしくお願いしますね!』


彼女はにっこりと微笑んで窓を開け、

呆然ぼうぜんとする私にぺこりと頭を下げた。

重力制御も使っているのか、優雅に翼をばたかせ、

飛び去っていくその姿は、再びちらちらと輝いて消えた。

入館時にも役立ったであろう光学迷彩が

切り替わる瞬間、翼の生えた猫みたいな影が見えた。


その後の展開は、歴史の本にもある通りだ。

旧帝国の文明開発長官だったサタンは新王朝を設立し、

ほどなく人類との公式な接触を果たした。

その基本形態はやはり、蝙蝠こうもりの翼を生やした

猫科の動物のような姿をしていた。


ただし、彼女達は昔から皇帝種族と深い関係にあり、

特に先見的な亡命者達を大量に受け入れることで、

実質的には混成種族となっていたようだ。

新政権は好戦的な側近種族達を平定した後、

帝国を再建し、国政の民主化も行いつつある。


当時、すでに側近種族達は互いの抗争で弱体化しており、

穏健派種族の核となるサタンを滅ぼせなかった時点で、

その敗北は決まっていたともいわれている。

図書館の天使は、いわば〝ノアの箱舟〟の物語における、

オリーブの枝をくわえた鳩だったのかもしれない。


もっとも彼女は、全てを話したわけではない。

側近種族の一つが何と、皇帝種族の人格群が宿る量子頭脳、

通称〝聖霊ホーリースピリット〟を地球に隠していたことが判明し、

彼女達はその捜索に従事していたのだ。

だが人類は後にその救出作戦も行って、見事な成功を収めた。


そして今、量子人格化アップロードした私は、

仮想空間の中で現皇帝種族の挨拶あいさつを聞いている。

その代表人格は今回、猫耳とコウモリの翼をつけた、

可愛らしい少女という何ともマニアックな……もとい(笑)、

本来の個体に近くて、親しみやすい映像体アバターを使っていた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330656221979864


『人類の皆様、このたびの量子人格化マインドアップローディング達成につき、

心からお喜び申し上げます。

かつて私が文明開発長官を務めていたとき、

人類は最も有望な若き種族のひとつでありました。

先の帝国内戦における貴方達の協力はもとより、

その発展の歴史から得られた貴重な知識もまた、

現在の国家政策に大きな助けとなっています。

ここに私は皆様への深い感謝を表すると共に、

そのさらなる繁栄と星間社会への貢献を期待し、

今回の大いなる成果を心から祝福いたします』


……たぶん彼女は、すでに知っていたのだと思う。

なにしろ共有人格の思考能力は神に近いから、

個体の能力だって、それなりに高いはずだ。

一方私は、文明などに関心はあっても普通の市民だ。


彼女達の国家が正式な交流を始める前に、

私のような個人を検体サンプルとして、

人類の民度みんどを調べただけなのだろう。

似たような事例は当時、他にも数多くあったようだ。

とはいえ、それはそれで面白い経験だったし、

星間国家の繁栄も、そこでの人類の成功も喜ばしいことだ。


まあ、今回得られた人格転移の技術について言えば、

量子人格になっても〝浮世離れ〟をしないよう、

定期的に快適な仮想空間を離れて、

現実世界で活動する義務があるのだが……やれやれ。


いつの時代も仕事は面倒だが、生き甲斐にもなる。

感謝の気持ちに感謝で応え、頑張ることにしよう。

想定よりも長生きしたが、まだまだ知らないことも多い。

やはり人生は前向きに楽しまないと、もったいない。


地球では〝天使な魔王サタンちゃん〟(笑)とも呼ばれる

可愛い彼女の姿を見ながら、そう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

降りてきた天使 平 一 @tairahajime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説