9月7日(日)4:00 山奥の駐車場

男は寒さで目を覚ましました。初夏といえども、早朝の山間部はよく冷えます。荷台に女の姿はありません。女は、少し遠くの小高くなっている場所に立っていました。


「おはよう。生きていたね。」


「おはよう。薬品とか飲んだわけではないから、当然の結果ではあるんだけどね。」


「あーあ、昨日はなんだか本当に死ねるような気がしたんだけどなあ。」


「死にたかった?」


「…死んだ後でこの朝日が見れなかったことを知ったら、後悔していたかもしれないとは思うよ。」


 女の向こう側には、昨日の星空に勝りとも劣らない絶景が広がっていました。


「下山しようか。」


「徒歩でね。」


「やっぱり、最期の募金はやりすぎだったかもなあ。」


「まあまあ。」


「一万円でも残していたらタクシーを呼べたのに。」


「まあまあ。」


「せめて100円あれば駐車場の自販機でコーヒーが買えたなあ。」


「まあまあ。ポケットにお金なんか忍ばせていたら、昨日の会話は半分の時間で終わっていたと思うよ。」


「…それもそうか。」



 二人はゆっくりと時間をかけて、日常へと戻っていきます。

 

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10万円の使い道 クスノキ @kusnoki1118

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