9月6日(日)22:40 山奥の駐車場

「2tトラックをレンタルしたのはファインプレーだったね。」


 二人はトラックの荷台で簡素な夕食を終えると、仰向けになっていました。二人の視界は満天の星空に埋め尽くされています。二人は色々なことを話しました。自分たちの弱さを楽しみ、人々の栄誉を称え、世の中の理不尽を笑い飛ばしました。男も女も、柄にもなくよく口を動かしました。


「よくしゃべるね、お互いに。流石は星空の魔力だ。」


「いや、そうとは限らない。よくしゃべっていることは認めるが、私たちは今お酒に酔っているし、私たちの人生の中で今日という一日は一番と言っても差し支えないほどに非日常的だった。今はいわゆるランナーズハイのような状態といえる。更に、疲労と深夜の眠気によって判断力も落ちているし、暗闇でお互いの顔が見えないが故の開放感もある。一概に星空だけの効果とは言い切れないよ。」


「…ほんとうによくしゃべるね。でも、君の挙げた根拠の半分はやはり星空に含まれるよ。これほどまでの星空を見るのに暗闇は絶対の条件だ。そして現代において空が見える環境で暗闇を実現しようと思ったら、深夜に僻地に行く以外の方法はない。星空を見るのに疲労と眠気は避けられないんだよ。」


「そうなってくると言葉の定義の問題にもなってくるが、君は確かに「星空の魔力」という言葉を用いた。暗闇や疲労というのは星空を見るのに必要な条件ではあっても、星空そのものではないだろう。君がもし天体観測という単語を使っていたら…」


途中でこらえきれなくなった女は、大きな声で笑い始めました。つられて男も笑います。ひとしきり笑った後は、またゆっくりと会話が再開されます。二人は本当に色々な話をしました。今日という特別な一日を振り返りました。それぞれの仕事や日常生活での出来事を発表し合いました。共通の知り合いについて議論を交わしました。出会った頃のことを思い返しました。出会う前の時間も共有します。日付が変わっても話は途切れませんでした。もうすぐ二人の寿命が尽きる時間です。





「あーあ、こんな死に方ができたらいいのになあ。」

「何を言っているんだい?今まさに死に向かっている所じゃないか。」

「……。来世の話だよ。」

「そうか、そうだね。」

「おやすみ。」

「おやすみ。」



残金 男:0円 女:0円

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