第6話 エピローグ
お地蔵様に参っていた老体の男が空を見上げた。大風が急に吹いて驚いたからだ。
「今日は、天気が良くて何よりだった。村は今年も豊作じゃ。村の子どもも沢山生まれ、丈夫に育っている。もう何があっても絶対、口減らしなんぞさせない村になった。」
「今でも覚えている。あの子がわしを助けてくれた時、龍の手の形をした雲が小僧だったわしを下から救い上げてくれたことを…。そしてあの子が、助けてあげて下さいと祈る様に叫んでいたことも…。
わしと皐月ちゃんは、柿の実を取り合う喧嘩友達だった。でも、皐月ちゃんが転んで怪我をしたときに、わしがおぶって家まで送っていったとき、『この恩は忘れない』って言って…。皐月ちゃん、わしこそこの恩は忘れんよ。」
「わしらが森から村に帰ってからは、大変だった。大人衆は見る影もなく皆が痩せこけていて、畑や田んぼを耕す力も残ってなかくて…。わしらは、文句も言わずに全てをやり遂げた。そして、言ってやったんだ。もう、二度と子どもを捨てるような村にはしたくない、させないってな。
あんなことが二度と起きないよう、わしらはこの村とあの森を守っていくよ。
皐月ちゃん、本当にありがとう。」
振り返ると森が笑っているように見えた。どこかで鳥が鳴いている。見上げると深い青空が広がっていた。
龍神の住む渓谷 物語はここから始まった 糸已 久子 @11cats2dogs
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