最終話
閉館を知らせるアナウンスが流れ始めた。いつの間にか随分と時間が経っていたらしい。ボクは何冊か出していた小説を片付けると、席を立つ。その時、奥の方で一人の少女が机に突っ伏しているのが見えた。
「……あれって」
見覚えがある。いつも図書館で勉強している子だ。ボクは彼女の元に歩み寄ると、肩を軽く叩いて起こしてあげた。
「んん……あれ?」
「もう閉館ですよ」
「ああ……ありがとう」
時計を確認した彼女は特に驚いた様子もなく、テキストや本を片付け始める。ボクは彼女の手元に目をやった。借りている本はいずれも絵本に関する書籍であり、中には本当に絵本なんかもあった。
「それ、なんの授業?」
夜の図書館にはボクら二人以外に人はいなかった。無機質な蛍光灯が弱弱しく照らす彼女の顔を見詰めながら、ボクはそんなことを尋ねた。
「これは授業じゃないの、自分のため」
「自分のため?」
「そう、自分のため……わたしは絵本作家になりたいの」
そう告げる彼女はどこか照れくさそうで、またどこか誇らしげでもあった。
「そっか……それで、毎日頑張ってるんだね。いや、理由が気になってね……」
「なんで?」
彼女のその言葉は、ボクに言ったというよりは、思わず口から漏れた独り言のようだった。純粋に疑問に思った、そんな風だった。
「『あなたは特別な理由がないと、頑張れないの?』」
ボクは、彼女の言葉に重ねて、全く同じことを言った。
「……どうして、分かったの?」
「なんとなく、かな」
ボクにも分からない。だけど、前にもどこかでこんなことがあったような気がする。
僕は書きかけの原稿を握り締めながら、次の言葉を考えていた。
死に出ずるボクと生まれ去るキミ 河原 采 @sai-kawahara
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