第12話
ボクは空に立っていた。
西の果てでは地平線が燃え盛るように赤く染まり、東の空からは墨で塗り潰したような夜が迫る。立ち並ぶ高層ビルは夕日の赤に照らされ、窓ガラスの奥には真紅に彩られたもう一つの街並みが覗いている。引き千切れたような雲海もまた赤く照らされ、そんな雲を押し流すような突風がボクの頬を掠めた。
ボクは高層ビルの屋上、フェンスの外に立っていた。下を見下ろせば、都会を象徴するスクランブル交差点を人々が行き交う。それはまるでビルの渓谷を流れる川のようだった。ただ、流れる水は酷く濁っていて汚い。
彼らはみな一様に、苦しむことも悩むこともなく、一切の努力すら迫られずに幸せに暮らしている。それは確かに理想郷かもしれない。だけど、キミにとって、いやキミとボクにとってここは、間違っている。
ボクは一歩踏み出し、落ちた。
視界は反転し、空から地に向かって昇っていくような錯覚にとらわれる。全身の内臓は一瞬浮遊感に捕らわれたのち、心地よさすら感じていた。風が身体の表面を流動し、ボクと一体化する。彼女を奪った交差点に、ボクも今向かおうとしていた。世界を包む夕焼けの赤に、きっとボクの鮮血が流れ出して溶け込むだろう。
「なあ、カミサマ――――」
開いた口に風が飛び込んできて、息が出来なくなる。それでも、構わない。
ボクは彼女を死に追いやったお前を許さない。だけど、もし本当にいるのなら――――
「ボクの願いを一つだけ聞いてくれ」
脳裏に浮かぶのは、ボクの大切なキミだった。
「ボクの願いは――――」
「――――――――――――――――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます