第40話 ドラゴン少女 その1



エリスの商売が上手くいっている。


アカネの和食屋、エリスのアイスクリーム屋と大森林のいたるところで彼女たちが商売をしているのは以前から言っているとおりだ。


そちらのチェーン店的な展開は以前から上手くいっているのだが、今回は大森林の外の話となる。


と、いうのも、サキュバスの娼館を通じて、アイスクリームを風俗街で試供品を配ってみたのだがこれが大評判となっているのだ。


地球も異世界も女性が甘い物好きというのは万国共通ってなもんで、まあ……商品が当たったのはむしろ必然だったのかもしれない。


そんな感じで今、風俗街では空前のアイスクリームブームと言っても良い状況だ。


事前のマーケットリサーチはバッチリということで、こうなってくると風俗街へのアイスクリーム屋の出店が本格検討されることになる。


っていうか、検討というよりも商機を逃さないように如何に速攻で出店するかって状況だな。


しかし……ここで問題が起きた。


風俗街を取り仕切る商会ってのがあるんだが、そこの横やりが入ったんだ。


サキュバスの店長曰く、商会は他所者が風俗街で商売することには否定的という話である。


けれど商売そのものをすることはアリという話で、否定的というのは建物を構えての出店はNGということだ。


これには理由があって、風俗街は日本でもそうなんだけどヤクザ屋さんであるだとか、そっち系界隈の職業の方とのつながりが非常に強い。


で、風俗街では建物ごとに色々な決まりがあって商売の利権関係が非常に複雑って話なんだよな。


そういった理由で実は飲食関係の商売の禁止っていうのは俺たちだけではなくて、他の誰に対しても門戸は開かれていなかったりするわけだ。


じゃあ、あそこの風俗街の人たちはどこで飯を食っているのかと言うと、それは行商である。


あくまでも権利関係がややこしいのは建物関係だけってなもんで、路地に簡単な屋台を設置する程度なら風俗街の共通基金に場所代だけを払えば問題がないというのは、サキュバスの娼館の店長の談だ。


と、話は変わって――。


俺が今いる場所は昼下がりの湖畔だ。


涼し気な風に木漏れ日が陰と陽のコントラストを作り出していて、ゆったりとした時間という言葉がこれほどふさわしい場所もない。


「どうしたんですか旦那様? 難しい顔をして?」


「いや、風俗街に出店しようと思っているアイスクリームの行商なんだけどさ」


「ふむふむ? 屋台ってことで話はついていますよね?」


「それはそうなんだけどな。今すぐにアイスクリーム屋を現地で始めるのは難しいと思うんだ」


「……ふむ?」


「エリスが今雇っている従業員を人間の街に派遣することは可能なのか?」


「あ……それは無理ですね。大森林から風俗街までは距離がありすぎます」


「それで、俺たちが人間の街にコネがあるのはサキュバスの娼館の店長だけだよな?」


「はい。そのとおりですね」


「店長自ら行商なんてナンセンスだし、娼館の嬢を使ったとしても人件費がヤバすぎるだろ?」


「まあ、確かに彼女たちは高給取りですからね」


「で、極め付きに人間と亜人は基本的には仲が悪い。と、なるとどうなる?」


「うーん……ツテを辿って求人募集するにしても、中々従業員が見つかりそうにありませんね」


エリスやアカネを派遣するにしても、二人は大森林での商売の取り仕切りに忙しい。


太公望は仙人なので商売に興味が無い。


ナターシャは大森林全体の長なのでそんなことはさせられない。


と、なると、すぐに商売を始めるのは難しいという結論になってしまうのだ。


「とはいえ、鉄は熱いうちに叩けと言うしなぁ……」


「風俗街ではアイスクリームは大評判らしいですからね」


「俺が思ってるのは他の商売人が目を付けて、我が物顔で風俗街でのアイスクリームに一番乗りされるってのが一番不味いってことなんだよなぁ」


一応は製法は秘密ということにはしているけれど、こんなものは時間の問題でどこかしらにバレるものだ。


そうなった時にモノを言うのは「商売的知名度」なんかの先行者利益だったりするわけだな。


まあ、色々と考えてはいるんだよ。

例えば、チョコチップクッキー入りとか、ミントチョトとか、あるいはレモンシャーベットであるだとか。

日本で知ってるアイスクリームのアレンジを投入すれば、アイスクリーム商売としてのアドバンテージはバリバリにある。

けれど、一番乗りの利益を奪われるのは……やっぱり悔しいよな。


「うーん。だったらどうしましょうか旦那様?」


「猫耳族の里のアルバイト店員が、風俗街まで一時間くらいで往復できたら問題は解決するんだがなァ」


「いやいや、どれだけ距離があると思ってるんですか」


と、そんなやりとりをしている時、湖に流れてきている川の中に不思議なモノを見つけた。


それは真っ白な桃のようなものだった。


「ん? なんだありゃ?」


遠近感の関係から最初は分からなかったが、桃にしてはヤケに大きいな?


どんぶらこーどんぶらこー。


桃太郎の一節のように流れてきたソレを見て、徐々にその全貌を把握するにつれて俺は絶句した。


「あれは……桃じゃなくて……尻?」


そうなのだ。


たわわと丸々と実ったソレは、良く見ると明らかに人間の……しかも女の子のお尻だったのだ。


少しだけ日焼けした風に見える健康的な肌色。

絹のような滑らかな質感、大きな大きな安産タイプの尻がこちらに向けてどんどんと流れてくる。


「な……何故に川に尻が!?」


明らかな狼狽と共にそう言うと、突然に尻が動いた。



「尻じゃと!? 我を誰だと思うておる!」



はたして、ザッパーンという擬音と共に川から飛び出してきたのは全裸の少女だった。


見た目の頃は10台半ばといったところだろうか?


メロンのような両の乳ははちきれんばかり。


赤い乳首は500円玉の数倍のサイズで、嫌が応にも目についてしまう。


そして、腰までの濡れた赤い髪は、まさしく水も滴る良い女という言葉がふさわしい。


「クックック……聞いて驚け!」


と、その時。

全裸で笑い始めた少女の背後からバリバリと音が鳴り、すぐさまに彼女の背に翼が形成されていった。


「我は少女の姿をしているが――その実はドラゴンなのじゃ!」


「あ……そうなんですか?」


「む? 驚かんのか? ドラゴンじゃぞ? ドラゴン少女じゃぞ?」


俺の反応が予想外だったらしく、少女は驚いた表情を浮かべる。


いや、だってさ?


確かに尻が流れてきたのは驚いたよ?


でも、ここは異世界だろ?


ロリバアア風ドラゴンっていったらベタ中のベタだ。


想像の範囲内以外の何物でもなく、そんなもんが出てきたくらいで驚くような日本人がどこにいるってんだ?


と、そんなことを思っていると、気を取り直したかのようにドラゴン少女はすまし顔を作った。


「時にお主……?」


「はい、なんでしょうか?」


「お主……ドラゴンカーセックスには興味は無いか?」


今度は……驚かざるを得なかった。

何故なら少女は俺の予想を遥かに超えることを言い出したのだから。




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エロゲの世界でスローライフ ~一緒に異世界転移してきたヤリサーの大学生たちに追放されたので、辺境で無敵になって真のヒロインたちとヨロシクやります~ 白石新 @aratashiraishi

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