第4話 みたかったけしき

 アルド・エイミ・エセルは、もう一つの宝物を探すため、エキサイト・エリアからスケアリーエリアに入り、そこにあるお化け屋敷アトラクション、ホーンテッド・シャトーにたどり着いた。


「じゃあ 入るぞ。」

「う うん。」

「……。」


アルドに続いて、エセルとエイミもホーンテッド・シャトーへと入った。すると、3人が入ったところで、突然ガチャッという音がした。


「な 何だ……?」

「も もしかして……。」


エイミが恐る恐るさっき入ってきた扉を確認した。


「し しまってる……。」

「そんな……! じゃあ 閉じ込められたってこと……?」


すると、今度は後ろで大きな音がした。振り向くと、そこには3体のシャトーナイトがこちらに槍を向けて並んでいた。


「なんか 嫌な予感……。」


こういった時のエイミの勘はさえているようだ。案の定、シャトーナイトはアルドたちめがけて走り出した。


「みんな 走るぞ!」

「急いで エイミ!」

「ひぃ……。」


3人は、急いで逃げ出した。途中、小部屋があったため、3人はそこで身を隠した。


「ふぅ……。何とかいけたみたいだね!」

「ああ。シャトーナイトが出てきた時は どうなるかと思ったけどな……。」


すると、またアナウンスがかかった。


「やあ みんな! 様々な仕掛けに驚いてるところかな? そんな怖がりな君たちに 説明しよう! 今 このホーンテッド・シャトーは 誰も出入りできないようになっているんだ! 無事にここから出るには この建物のどこかにある 宝物のかけらを見つけないといけないよ! そのうえ 部屋には入ってこないけど 霊たちは君たちを見つけ次第 すごい速さで追いかけてくるから 気を付けてね!」


アナウンスを聞いて、アルドはしばらく考えてから、2人に言った。


「なあ 2人はここで待っててくれるか? オレが 宝物のかけらを探してくるよ。」

「そんな……! アルドだけ行かせるのは申し訳ないよ! わたしも行く!」

「いや エセルもここにいててほしいんだ。」


不思議そうな顔をするエセルに、アルドは小声で言った。


「たぶん エイミがこの先を行くのは 大変だと思うんだ。もう すでに泣き出しそうな顔してるし。」


言われてエイミの顔を見てみると、確かにそう見える。


「……。」

「それに 見つけ次第 追いかけてくるって言ってただろ? だったら 隠れながら行った方が早いと思うんだ。そうなると 人数がいた方がより目立つっていうのもあるし……。それに 敵がそんな様子だったら 落ち着いて見て回ることもできないんじゃないか……?」


話を聞いて、エセルは普通の音量で言った。


「……わかった。じゃあ お願いしてもいいかな アルド?」

「ああ もちろんだ!」


すると、先ほどまで黙っていたエイミが、端末と小型ヘッドセットをアルドに渡した。


「一人で行くにしても サポートは必要でしょ……?」

「エイミ……。ありがとう! それじゃ行ってくる! 2人は待っていてくれ!」


そういって、アルドは部屋を出て行った。部屋に残ったエセルとエイミは、近くに合った椅子に腰かけた。


部屋を出て、小型ヘットセットを見よう見まねで付け、なんとなくの操作で起動すると、セバスちゃんを呼び出した。


「はいはい。何かあった?」

「お 聞こえるか セバスちゃん?」

「なんだ アルドじゃない。どうかしたの?」

「ああ。オレ一人で 残りの宝物を探すことになったから それを伝えとこうと思って。」

「あら エイミともう一人の子はどうしたの?」

「エイミの顔色が とても悪かったから エセルと一緒に安全なところで 待っててもらうことにしたんだ。」

「確かに 場所が場所だもんね……。」

「アハハ……。それじゃあ サポートを お願いできるか?」

「わかったわ。それじゃ ちょっと待ってて。」


何かのカチャカチャという音が聞こえたのち、セバスちゃんは言った。


「場所がわかったわ。その建物の最上階よ。安全なルートも洗い出しといたから。」

「ありがとう。恩に着るよ。じゃあ 早速……」

「……ちょっと待って!」

「……? どうしたんだ?」

「エイミと一緒にいる子のことなんだけど……。」

「ああ エセルか。エセルがどうかしたのか?」

「その子 トト・ドリームランドに関わることで 何か他の人と違うこと 言ってなかった?」

「特には……。ん……? そういえば……。」

「何かあった?」

「いや 不定期に行われて なかなか遭遇することができないイベントに ほとんど遭遇してるって言ってたな。」

「……! ……なるほど。これで 全てがわかったわ!」

「何がだ?」

「順を追って説明するから 最上階に向かいながら 聞いてね。」

「あ ああ。」

「まず 今起こっている謎のイベントは おそらく 創業者のライマンが作ったものよ。」

「そうなのか……?」

「ええ。当時行われていたイベントの一部と 内容が全く一緒なのよ。それに不定期でって言ってたけど イベントが行われた日にちを見てみたら 1日だけ毎年行われている日があったの。調べてみたら ライマンがとっても大切にしていたお孫さんの誕生日みたい。」

「なるほど。でも 何でそれが今行われてるんだ……?」

「それが わからないの。あ あと エセルのことなんだけど……」


 一方、アルドの帰りを待つエイミとエセル。まだ顔色が悪いエイミにエセルは言った。


「エイミ こういうところ 苦手なんだって?」

「そ そんなことないわよ……! 何ともないわ!」

「あっ あそこに男の人が……。」

「きゃーーーー!」

「アッハハッ! 冗談冗談。でも 本当に苦手なんだね……!」

「に 苦手で悪かったわね……。」

「まあまあ そんな怒らないで……! あまりにも 顔色が悪かったから……。」

「ご ごめん……。」


少しの静寂のあと、エセルは聞いた。


「ねえ エイミ?」

「な 何?」

「エイミもここに 何回か来たことあるんだよね?」

「うん 昔だけどね。」

「その時のこと 聞かせてもらえるかな……?」

「いいけど そんな面白い話なんてないわよ?」

「いいの。エイミのおもいでを聞かせて……?」

「……うん わかった。」


一呼吸おいて、エイミは話し始めた。


「私にはね 仲の良い幼馴染がいるの。男の子と女の子。私は その子たち 特に女の子の方とよく来てたんだ。」

「へぇー……! その幼馴染の子たちはどんな子なの?」

「女の子はね あっ ミルディっていうんだけど 内気で私以上に 怖がりで泣き虫で。でも誰よりも賢かった。とてもかわいくて お人形のようなお姫様のような そんな子だったわ。男の子は クラグホーンっていうんだけど 切れ者で斜に構えてて ずっと眉間にしわを寄せてる いけ好かない奴だった。でも カッコいい時もあったわ。」

「男の子のことは好きにはならなかったの……?」


少し嬉しそうに聞くエセルに、エイミは少し動揺しながらも言った。


「い 今は何とも思ってないわよ!? それに クラグホーンはミルディと話す時だけ 優しい顔になったの。だから 私は敵わないなって思ったし ミルディの事を 私が守る必要もなくなったんだって思った……。」


少ししてから、エイミはハッとしてから言った。


「ごめんごめん! つい話がそれちゃった。それで トト・ドリームランドの話よね……。そういえば ミルディとこのホーンテッド・シャトーに来た時 途中で迷子になっちゃって 2人で抱き合って大泣きしたのを 王様のアンドロイドが 助けてくれたのよね。」

「フフッ。何だかとてもエイミらしいね……!」

「まあ 否定はできないわね……。あと 2人がガンマ区画がら引っ越すことになったときにも 記念にって3人で行ったんだ。その時は観覧車にのったかな……?」

「観覧車って ファンタジーエリアにあるやつだよね? 最後に観覧車っていいね!」

「うん。……あっ!」


突然何かを思い出したエイミに、エセルはほんのちょっとだけびっくりする。


「どうしたの?」

「とった……! 私 あの時3人でとった! 私たちあの時 正門のトト君の像の前で 写真撮ったよ!」

「やっぱり 撮ってたんだ!」

「あの写真ができた時は 本当に嬉しかったな。……。」


急にエイミは表情を曇らせて黙ってしまった。


「どうしたの……?」

「私は 私も 2人も あの時のままだと思ってた。でも……。」

「エイミ……?」

「……エセル。前に 司政官に支援をお願いした時に 革命団体が潜んでたって言ったでしょ? あれ さっき言った ミルディとクラグホーンなの。」

「……!」

「2人とは仮想劇場で戦いもしたわ。」

「仮想劇場で……。」

「私 その時は2人を何とかしなきゃって思ったの。変わってしまった2人を連れ戻したいと そう思って。でも 最近は 2人みたいに変わるのが普通で 私みたいに変わってないのがダメなのかなって 思えてきたの。私は 私が2人の未来の足枷になりたくないと思ってたはずなのに 今まさに 2人の足枷になってるんじゃないかって。エセルも言ってたでしょ? 「現状が 私の知ってるものでなかったとしても その現実から目を背けずに ちゃんと向き合うことが大事」って。だから 私 2人にちゃんと向き合えてなくて 否定しちゃってるのかなって思ったの。」

「エイミ……。」

「だからと言って 今2人がしていることは間違ってると思うから 止めに行くし 変わらないものだってあるって思う。だから 自分でもよくわからなくなっちゃって……。」


エイミは、涙目で今にもあふれようとしていた。アルドたちにさえ見せてこなかった姿を見せてしまっていることは嫌だったが、ずっと誰かに聞いてほしかったことでもある。答えが欲しいのではなく、単に聞いてほしい。そんな思いで、たまっていたものがあふれてしまったようだ。話を聞いていたエセルは、エイミの顔をしっかりとみて微笑んで言った。


「ねえ エイミ。」

「……?」

「わたしは エイミの思っていることは間違ってないと思うし 何より 2人のことを思うがゆえの 悩みなんだってそう感じたよ。」

「……。」

「話してくれて ありがとう! でも 答えはもう出てるんじゃないかな?」

「……えっ?」

「自分の悩みって たまに自分じゃどうにもならないって そう思う時もあるけど 同じようなことを相談されたら 意外にスッと自分の口から 答えが出るもんだよ。」

「そうなのかな……?」


いまいち理解できているかどうかわからない様子のエイミに、エセルはまっすぐに見て言った。


「気付けてないだけで 答えはきっと自分の中にあるよ!」

「エセル……。」


すると、突然扉が開いた。


「きゃあ!」

「な 何?」


驚いた2人が扉の方を見ると、そこにいたのはアルドだった。


「なんだ アルドか……!」

「驚かさないでよー!」

「えっ ご ごめん……。」


(もしかして オレ 忘れられてたんじゃ……。)


浮かんだ疑問を押し殺して、アルドは言った。


「それより 宝物 手に入れたんだ。」

「ありがとう アルド!」

「じゃあ さっそく 合わせてみよう!」


そういって、エイミは仮想劇場で手に入れたかけらと、ホーンテッド・シャトーで手に入れたかけらを合わせてみると、ピッタリ隙間なくはまった。


「はまったけど これはいったい何なんだ?」

「エセルが持っていたものは何だったの?」

「ああ これは わたしが最後におじいちゃんからもらった おもちゃについてた宝石だよ。おもちゃをもらってすぐに この宝石の部分が取れちゃって。それから なんとなく形見として持ってたの。でも それ本物の宝石じゃないよ?」

「そうなのか……?」

「ええ。おそらく 組み合わせた方の宝石も 両方とも模倣宝石だと思う。」


すると、アナウンスが流れてきた。


「やあ みんな! とうとう最後のお宝もゲットしたみたいだね! これで イベントは終わりだよ! また遊……びに……来て……ね……。」


アナウンスの音声の最後の部分が、急に遅くなり、ノイズ音へと変わった。


「えっ 何……?」

「故障したのか……?」


しばらくして、機械的な音声が聞こえた。


「……ソトヘ デテミナサイ……。ソコニミセタイモノガアル……。」


「何だかよくわからないけど とりあえず 外に出てみるか。」

「早いとこ こんなとこから出よう!」

「いったい 外に何があるんだろう……。」


3人はそれぞれの思いの中で、外へと出た。


>>>


 外へ出た3人は、目の前に広がる光景に驚きのあまり、声を失った。そこに広がっていたのは、色鮮やかな建物、夢と幸せにあふれた雰囲気、笑顔あふれる人々。まさに開園当初のトト・ドリームランドの光景そのものだった。


「ど どうなってるんだ……!?」

「うそ……。あの当時の トト・ドリームランドそのものだわ……。」

「そうだ……。セバスちゃんに 何が起きてるか調べてって あれ?」

「どうしたの……?」

「セバスちゃんとつながらないんだ……。」

「……じゃあ 連絡は無理ね……。」


セバスちゃんとの連絡ができなくなったアルドとエイミをよそに、エセルは言った。


「これよ……。」


突然下を向いたエセルを、2人は心配そうに見る。


「これよ!! わたしが作りたかったのは わたしが守りたかったのは わたしがみたかったのは…… このけしきよ……!!!」

「エセル……。」

「でも いったい 何がどうなってこうなったんだ……?」

「ねえ 何人かに話を聞いてもいいかな?」

「それは構わないけど……。」

「ありがとう!」


そう言うやいなや、エセルは駆けて行ってしまった。


「あっ ちょっと エセル……!」

「オレたちも 追いかけよう!」


2人は急いでエセルの後を追った。


>>>


 2人がやっと追いつくと、エセルは娘を連れた夫婦に声をかけようとしていた。


「あの ちょっといいですか?」

「何だ? 私たちは忙しんだ 失礼するぞ。」

「すぐに済みますんで……!」

「……。……何の用だ?」

「トト・ドリームランドをどのようにお感じになりましたか……?」

「……ここだったら 何の問題もなく とり…… じゃなくて 家族の時間が過ごせるので いいですね。」

「そうですか! ありがとうございます!」

「失礼。行くぞ。」


アルドとエイミの横を通った時にも、話し声が聞こえた。


「……早くしないと 取引場所に遅れるぞ……!」

「……急がないと 何されるか わからないわ……!」


両親が通った後、娘はとぼとぼと歩いて行った。手には買ってもらったであろうぬいぐるみを持っていたが、その顔は悲しそうだった。


「ねえ アルド。今の人って もしかして……。」

「ああ。何か怪しかったな。ちょっと 様子を……。」

「アルド。多分 これは何ともできないと思う……。」

「そ そうだよな……。ついうっかり……。」


(あの人 許せるわけじゃないけど あんな状態が原因で あんな罪を犯したんだったら 責めるに責めれないわね……。)


エイミは、あの家族を見ながら、いたたまれない思いでいた。


「エイミ! エセルが駆けて行ったから 早くしないと見失うぞ……!」

「わかった! すぐ行くわ!」


そういって、急いでエセルの後を追うアルドのもとに駆けて行った。


>>>


 アルドとエイミはエセルを追いかけて、ウェストパークまで来ていた。やっと追いつくと、そこでエセルは、3人の子どもに話しかけていた。


「みんな! ちょっと お話聞いてもいいかな?」

「こんにちは おねえさん!」

「……おねえさん だれ……?」

「ぼくたちに 何か用ですか……?」

「……!」


エイミは3人の子どもを見て、呆気に取られていた。これには、さすがのアルドも気づいたようだ。だが、エセルは気付いてない様子だった。


「みんなに ここに来た感想を聞きたいなと思ったんだけどいいかな?」


すると、女の子のうちの一人がもう一人の女の子に聞いた。


「……どう たのしー?」

「……うん……!」

「わたしたちは たのしーです!」

「ぼくは あまりこのような さわがしくて 非現実的なところは とくいじゃないけど 友だちと遊ぶということだったら いい場所だと思います。」

「なるほど! 答えてくれて ありがとう! 楽しんでね!」

「はーい!」


こうして、3人の子どもは去って行った。


「エイミ。もしかして……。」

「ええ。たぶん いや 間違いないわ。私が2人の顔を忘れるわけないもの。」

「エイミ……。」


(あの頃の 私の知っている2人だわ……。……。)


「エイミ! 行くぞ。」

「え ええ!」


エイミは複雑な思いの中で、アルドと一緒に追いかけて行った。


>>>


 エセルを追いかけて、とうとう正門のところまで来てしまった。追いつくと、エセルは、孫を連れたおじいさんの前で立ち尽くしていた。


「エセル どうしたんだろう……?」

「あれは……!」


エイミは分からなかったが、アルドは何かに気付いたようだ。すると、エセルはようやく話しかけた。


「……あの ちょっと その…… お話よろしいですか……?」

「おや わたしの 夢の楽園のお客人ですかな……? わたしたちになにか御用ですか……?」

「あ あの トト・ドリームランドで遊んでの 感想を ……聞かせて もらえると……。」


エセルは、声を震わせながら、それでも、できる限りの笑顔を作って聞いた。


「わたしも 暇を見つけては この子と一緒に 遊びますが 本当に楽しくて 夢の詰まった場所ですよ。孫もたいそう喜んでいます。」

「すっごく たのしーよ! おじいちゃん!」

「そうじゃろ。実は この子の親は仕事で忙しそうにしておりましてな。わたしが代わりに面倒を見ておるのです。こちらで働かんかと 声をかけたのですが こんな嘘くさいところは嫌だと 言い張りましてな。いやはや困った親ですわい。」

「……。」

「どうかされましたかな……?」

「……い いえ。何でもありません……。ありがとう ございました。」

「いえいえ。あなたも楽しんでいってください。なにせ わたしが孫のために作った 自慢の夢の楽園ですから。それじゃあ 行こうか エセル。」

「うん! もっとあそぼー おじいちゃん!」


こうして、2人は別の場所へと行ってしまった。エイミは、エセルの様子が突然変わった理由がようやくわかった。


「エセルってもしかして……。」

「ああ。エセルはこのトト・ドリームランドの 創業者のライマンの孫娘だ。」

「……!」

「オレは セバスちゃんが調べてくれて知ったんだけど 昔 エセルが好きだったぬいぐるみがトトって名前で ライマンはエセルに喜んでもらいたくて エセルにとっての夢の楽園 トト・ドリームランドを作ったらしい。それから エイミも知ってたイベントのことだけど あれは ライマンがエセルと遊ぶ時に していたらしい。」

「……だから エセルは よくイベントに 遭遇してたのね……。」

「……そういうこと だったんだ。」


気付くと、エセルがこちらに来ていた。


「エセル……。」

「経緯とかは わたしも 知っていたけど イベントのことは 今 初めて知ったよ……。」


すると、先ほどの機械音がまた聞こえてきた。


「……タカラモノヲ ヒトミニハメナサイ。」

「宝物を瞳にはめる……?」

「瞳ってもしかして……。」


エセルは2つの瞳を持って、正面にあるトト君の像にはめ込んだ。すると、両目が光りだし、ある一部分を照らした。すると、そこに現れたのは、先ほどいたライマンだった。


「やっと逢えたな。エセル。」

「……!」

「……おじい ちゃん……?」

「ああそうだ。お前の祖父のライマンだ。」

「おじいちゃん……!」


エセルは、映し出されたライマンに飛びつこうとした。しかし、ライマンはそれを止めた。


「エセル ダメだ! わたしに触れてはいかん。」

「えっ……?」

「今のわたしは 先ほどのような映像ではなく 霊体だ。死んだ者は生ける者と触れることはできない。もし 触れてしまえば お前も道連れになる。」

「そんな……。」

「エセル……。わたしは死ぬ前にお前を一目見たかったが お前が来れないことは分かってた。それに この トト・ドリームランドがつぶれることも分かっていた。だから せめて最後に お前にこの場所が最も輝いていた時を見せたいと そう思って これらを仕込んでおいたんだ。お前に渡したおもちゃが すぐ壊れるようになっていたのも このためだ。」

「そう だったの……。」


霊体のライマンは、一呼吸おいてから話を続けた。


「エセル……。わたしはお前に一言お礼が言いたかったんだ。」

「……。」

「お前のおかげで わたしは トトも この夢の楽園も生み出すことができた。全ては お前がいてくれたからだ。ありがとう エセル。」

「……わたしは 知ってたの。おじいちゃんが わたしのことを本当にかわいがってくれて 愛してくれたから このトト・ドリームランドができて みんなにも愛される場所になった。そんな おじいちゃんの思いがたくさん詰まった場所だから たくさんのひとのおもいでにあふれた場所だったから そして なによりここをもう一度 復興させたら 大好きなおじいちゃんに逢えるような気がしたから……! だから ここを復興させようって決めたの……。」

「エセル……。復興させたかった本当の理由はそれだったのね……。」


(今までは そんな純粋な思いも押し殺して 頑張ってたんだ……。)


すると、エセルはエイミに向き直って言った。


「エイミ……。もしかしたら わたしのこと強いって 思ってたかもしれないけど 実際はこんなにもろいの……。」

「……そんなことないよ! ここまで頑張ってきたんだから 十分強いよ!」


エセルにつられ、エイミも何かがあふれ出すのを感じた。


「わたし ずっとずっと親友の2人のことで悩んでた……! 自分が本当に情けなくなることもたくさんあった……。でも あなたと一緒にいて 本当にこころが救われるようだったの……! あなたがいなかったら 私はダメになってたかもしれない……。私は あなたの強さに救われたの……!!」

「エイミ……。」


アルドは初めて聞くエイミの本音に、こころが痛んだ。すると、エセルはいつもの微笑みを浮かべると言った。


「ありがとう……。エイミ ここに来た時に 正門のところでわたしに言ったこと 覚えてる……?」

「な なんか言ったかしら……?」

「あの時は エイミ 何かに気付いたような顔してたから 覚えてるかなと思ったけど そうなのね。」

「何て言ってたの……?」

「わたしが エルジオンに引き返そうとしたときに 言ってたでしょ? 『自分の思いを大切にした方が いいと思う。』って。」

「……!」

「わたし こころの中では 何度も諦めようと思ったけど その言葉で立ち直れたの。」

「エセル……。」

「ねえ エイミ……。改めて聞くけど『自分の思いを大切にした方がいい』よね?」

「私はそう思うよ。」

「……わたし もう がんばらなくても いいのかな……?」

「何が言いたいの……?」


すると、エセルはまっすぐな目でエイミを見て言った。


「わたし おじいちゃんについていく。」

「何を言ってるんだ エセル……!」


エセルの発言にライマンは驚きを隠せない。


「そうだぞ! それじゃあ 復興させる夢はどうなるんだ!?」

「そうよ! あなたにしかできないのよ?」

「みんな ありがとう……。でも 気づいたの。今の私の気持ちは 大好きだったおじいちゃんと 一緒にいたいってことだって。」


そういって、少しずつエセルは、ライマンのもとに近づいていく。


「来ちゃダメだ エセル! こうなったら……。許してくれ エセル……!」


すると、どこからともなく2体のパラサイ・トトが現れて、エセルを遠ざけようとした。

「やめて! 離して! おじいちゃんのもとに行かせて……!」


アルドとエイミは、どうすればいいのか非常に悩んでいた。


「くそっ……。どうすれば……!」

「……行こう アルド。」

「でも そうしたら エセルが……!」

「私だってつらいわよ!! こんなの望んでない! でも エセルが自分で決めたことを 止めることはできないわ! それに親を思う子の気持ちは 私も痛いほど分かるから……。」

「エイミ……。本当に いいんだな?」

「……ええ。それが エセルにとって幸せなことだと思うから。」

「……わかった。じゃあ いくぞ!」


そういって2人は、パラサイ・トトに向かっていた。


>>>


 何とか倒し終えてエセルを見ると、エセルはライマンの目の前にいた。


「エセル……! いかん!」

「おじいちゃん……。わたし もう決めたの。今は何も思い残すことはないわ。」

「エセル……。」

「おじいちゃん……!」


そういって、エセルは霊体のライマンを抱きしめた。すると、ライマンと共に、体が薄くなり始めた。


「エセル……!」

「……エセル……!!」


アルドとエイミが消えそうなエセルに呼びかける。すると、エセルは今までで一番優しい笑顔で言った。


「アルド エイミ わたしのわがままに 付き合わせてしまって ごめん……。でも 一緒にいる間は 本当に楽しかった! ありがとう!」


そして、エイミに向かって言った。


「エイミ。答えは自分の中にあったでしょ?」

「……!」


言い終えた瞬間、エセルはライマンと共に消えてしまった。いつの間にか、周りも元通りの寂しさに戻り、トト君の像にはめていた宝石もなくなっていた。


「……う うぅ……。うわぁ~~~~~~!!!!!!」


エイミはその場に崩れ落ち、今まで見たことないくらいに泣き叫んだ。


すると、アルドが持っていた端末から、セバスちゃんの声が聞こえた。


「あ アルド! 急にレーダーも通信も途絶えてびっくりしたわよ!? いったい何が……。」


話の途中でアルドは震える声で言った。


「……セバスちゃん。心配かけてごめん。事情は 後で説明するから 今は……。今はそっとしておいてくれないか……?」

「……わかったわ。あとで 家によってちょうだい。」

「ごめん ありがとう。」


セバスちゃんの通信が切れると、アルドは震える手で泣き叫ぶエイミの背中をさすりながら、触れた声で言った。


「よく言ったな エイミ。エイミの判断は 間違ってなかったよ……。」


アルドも頬に伝うものを感じた。


 孫を思う気持ちで生まれ、たくさんのおもいでを作った夢の楽園だからこそ、この場所は寂しくも、どこか温かいものを感じるのだろう。

そんな冷たく温かい場所に、おもいでを持った者の泣き叫ぶ声が寂しく響いていた。

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おもいでのわすれもの さだyeah @SADAyeah

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