第3話 うしなわれたほうせき
アルドとエイミは、トト・ドリームランドを復興させようとしているエセルと共に、合成鬼竜で閉鎖されたトト・ドリームランドへと向かっていた。
「体調はどう エセル?」
「うん わたしはもう大丈夫! エイミこそ 大丈夫? あまり顔色が優れないようだけど……。」
「ううん 大丈夫よ。……大丈夫。」
そう答えながら、エイミは心の中で、自嘲していた。
(私よりも エセルの方が ずっと大変な思いをしてるはずなのに そのエセルに 心配されるなんて 情けないわね……。)
そんなことを思っていると、合成鬼竜が言った。
「もうすぐ 目的地だ。今回は前回と違って 正門が開いていると聞いた。今回はそこに着陸する。」
「わかった。おねがいするよ。」
「心の準備はいい エセル?」
「……ええ 大丈夫。行こう!」
合成鬼竜が、トト・ドリームランドの正門に着陸すると、3人はゆっくりと降りた。
「ここが…… あの時行った 遊園地……。」
「エセル……。」
さすがのエセルも覚悟していたとはいえ、やはりショックを受けていた。
(前に来たはずなのに やっぱり こんな気持ちになるのね……。)
エイミは、心にどこかに空いた穴に、冷たい風が通るような心地だった。しばらくの沈黙の後、エセルは言った。
「……ごめんごめん! ちょっと 考え事しちゃってたみたい……。じゃあ そろそろ帰りましょうか。」
「えっ もう帰るのか?」
「うん……。他の所も見てみたいけど 魔物がいるって話だったし……。」
「魔物なら オレたちがなんとかするよ! こういうの慣れてるし。」
「……でも あなた達に 迷惑かけちゃうし……。」
「私たちのことは 気にすることないわ! それに 復興させるために ここに来たんでしょ……? なら 自分の思いを大切にした方が いいと思う。っ……!」
「2人とも……。……わかった。わたし この遊園地を 大切な場所を 復興させたい。だから そのために もう少し 力を貸してもらえるかな……?」
「ああ もちろんだ……!」
「必ず 叶えましょう!」
「うん……! ありがとう!」
皆の気持ちが一つになったところで、どこかから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……あーあー。……エイミ 聞こえる……?」
「ええ 聞こえるわよ セバスちゃん。」
「なんで セバスちゃんが……?」
「せばすちゃん……?」
「ああ セバスちゃんっていうのは 私の友達なの。実は さっきエルジオンを出る時に サポートをお願いしたの。今回はエセルもいるし できるだけ安全な道を通って行った方がいいと思うし。」
「なるほどな。」
「そういうことだから 遠隔でサポートさせてもらうわ。呼び出してくれたら できることはさせてもらうから 遠慮なく言ってね。」
「ありがとうございます セバスさん……!」
「……! セバスさんじゃなくて セバスちゃんよ!」
急に大声を出したセバスちゃんに驚くエセルに、アルドが耳打ちする。
「……セバスちゃんは 「さん」をつけて 呼ばれるのが嫌みたいなんだ……。だから セバスちゃんって呼んであげてくれ。」
「そ そうなんですか……? わかりました。」
アルドの声に小さくうなずくと、エイミの少し上を見ながら言った。
「す すみません……。よろしくお願いします せ…… セバスちゃん!」
「こちらこそよろしく! それで 早速なんだけど あんたたちの予定を聞いてもいいかしら?」
「そういえば 何も決めてなかったな。どうする エセル?」
「……まずは 見れる範囲はすべて見ておきたいから 園内を一周しようかな。」
「わかったわ。そしたら 園内を安全なルートで 一周できるコースを洗い出すわ。少し時間がかかると思うから ちょっと待ってて。」
「そんなことができるんですね! ありがとうございます!」
「じゃあ 先にバザースクエアを 見てまわりましょうか?」
「そうだな。じゃあ 行こうか。」
こうして、予定が決まったところで、バザースクエアを見てまわるため、3人は正門をくぐった。
「……外からは見えなかったけど やっぱり園内も だいぶ 変わっちゃってるね……。」
「そうね……。床のタイルも欠けてるし マップには 草が巻き付いてる……。」
エセルは、あたりを見まわしたところで、少し明るい顔で言った。
「あっ トト君の像……!」
「おっ なんか嬉しそうだな。」
「……うん! ……わたしがここに来た時は 必ずここで おじいちゃんと写真を撮ってたんだ。トト君の像はここだけだから いつも写真のための列が できていたけど 写真が撮れた時は 嬉しかったなぁ……。」
「そういえば 私 ここで写真撮ったことなかったかも……。」
「えっ そうなの!?」
「ええ。あの頃は とにかく遊ぶことで頭がいっぱいだったから……。」
「でも その気持ちもわかるなぁ……! あの正門をくぐったとたん ワクワクがとまらないもの!」
「確かに そうだったわ……! ……ん?」
エセルと楽しそうに話していたエイミが、急に言葉を止めた。
「どうしたんだ エイミ?」
「いや エセルの服のポケットが 急に光りだしたの。」
「えっ あ ほんとだ。」
エイミに言われて視線を向けると、エセルの服のポケットと思われる部分が、オレンジ色に光り輝いている。エセルは光の正体を確かめるため、ポケットを手で探った。そして出てきたのは、淵に装飾がなされているオレンジ色の宝石のようなものだった。
「あっ これ……。」
「宝石か何かかしら?」
エイミに言われて、この宝石のことを話そうとした時、急に半透明の板のようなものが遊園地全体を覆うように現れた。
「えっ 何?」
「なんなんだ いったい?」
急な出来事に驚いていると、今度はどこかから大きな声が聞こえてきた。
「やあ みんな! 僕たちの夢の楽園 トト・ドリームランドは 楽しんでくれているかな……?」
「な 何?」
「どこから流れてるんだ?」
「園内のアナウンス……? どうして……?」
3人が困惑していると、アナウンスはさらに言葉を続けた。
「僕 君たちが来ることを ずっと楽しみにしてたんだ! だから ちょっとした ゲームを用意したよ!」
「ゲーム……?」
「今から 君たちには 仮想劇場にある 宝物を とってきてもらうよ! だけど クルーが通せんぼしてる道は 通れないよ! クルーは 何もしないけど もし いたずらしたら クルーが怒って 君たちを 正門まで 追いかけてくるから 気を付けてね! さらに 途中 ちょっとしたミッションもあるから 頑張ってね!」
「じゃあ 下手に攻撃はできないってことか……。」
「あっ そうそう。逃げ出そうとしたり 仲間を呼ぼうとしても 強力なバリアで ドリームランド全体を覆っているから 出入りできないよ! 残念!」
「……! じゃあ 従わない限りは 出られないってこと!?」
「それじゃ 頑張って 宝物を 見つけ出そう!」
そう言い終えて、アナウンスは止まった。続いて、声を発したのはセバスちゃんだ。
「……エイミ! いったい 何が起こったの?」
「なんか 急にアナウンスが入って 仮想劇場まで行って 宝物を見つけ出さないと 出られなくなったみたい……。」
「なるほど……。確かに トト・ドリームランドの周辺で 異常なエネルギー反応が 出ているわ。でも 安全なルートを伝えることはできそうね。」
「ありがとう。お願いしていいかな?」
「わかったわ。」
セバスちゃんと会話をし終わった後、アルドは言った。
「いったい 何がどうなってるんだ?」
「わからないけど 今は指示に従うしか 出来なさそうね……。」
「今の アナウンスだと 魔物は 何もしてこないみたいだね。」
「……とりあえず 仮想劇場へ 行ってみない? セバスちゃんとの通信も 一応できるみたいだし。」
「……そうね。周りに気を付けながら 進もう……!」
「それじゃ 私についてきて!」
突然のことに戸惑いを隠せない3人だが、とりあえず指示に従って仮想劇場に向かうことにした。
>>>
3人は、バザースクエアを東に進み、イーストパークの北東側に来た。
「……アナウンスの通り 道にいた魔物は 道をふさいでたけど 何もしてこなかったな。」
「でも ちゃんと園内を見ることができなくなったわね……。」
少し落ち込み気味な2人に対して、エセルはそんな様子はなかった。
「……大丈夫だよ……! 魔物は襲ってこないみたいだから ある程度 安心して 周りをみれるし! それに なんだか 昔を思い出すなぁ……。」
「エセルはすごいな……。それで 昔って……?」
「……昔 おじいちゃんに連れられて行ったとき よくこんな 園内全体を巻き込んだイベントを やってたんだ!」
「えっ!?」
エセルの話を聞いて、エイミは驚いていた。
「どうかしたのか エイミ?」
「いや トト・ドリームランドは 不定期でエセルが言ったみたいな 全体イベントをやってたんだけど 突然やるから そのイベントに遭遇したら 何かいいことがあるって 言われてたくらい 珍しいことなの! それを そんなにたくさん……。」
「確かに 毎回ではなかったけど それは知らなかったよ!」
すると、静かだったエイミの端末が鳴った。セバスちゃんからだ。
「……どうしたの セバスちゃん。」
「それが さっきまで通れたはずの道が 急にふさがっちゃって 行き止まりになっちゃったの。」
「……! 他に道はないの……?」
「他の道は 全部ふさがれてるわ。……もしかしたら ここでミッションが……」
すると、セバスちゃんの言った通り、アナウンスが聞こえてきた。
「やあ みんな! 調子はどうかな? さて 元気な君たちに最初のミッションだよ! 次々に出てくる お馬さんに勝てるかな?」
「お馬さんって もしかして……。」
アルドが思ったことは、本当になった。嫌な予感ほどよく当たるものである。3人の後ろから、何体ものクレイジー・ゴーランドが突然現れた。
「やっぱり こいつらか……!」
「メリーゴーランドのお馬さん……!?」
「エセル ちょっと下がってて。さっと片付けちゃうから!」
アルドとエイミは、エセルを退けて、戦闘態勢に入った。
>>>
クレイジー・ゴーランドは最初は2頭だったが、次は3頭、そして最後は4頭出てきた。いずれも倒すと、またアナウンスが流れる。
「おめでとう! 最初のミッションクリアだよ! 道が通れるようになったから 進んでね! じゃあ 次の場所へ レッツゴー!」
アナウンスが終わると、今度はセバスちゃんが言った。
「道が通れるようになったわ! やっぱり ミッションのためのものだったみたいね……。今後も通れなくなる可能性があると思うから その時はミッションがあると思って!」
「わかったわ。ありがとう セバスちゃん。」
セバスちゃんとエイミが話し終わったところで、エセルがやって来た。
「……2人とも ごめんね……。わたしも戦えたらよかったんだけど……。」
「オレたちなら 大丈夫だよ。こういうことは慣れてるから。」
「これで 道も通れるようになったし 仮想劇場に向かうわよ。」
こうして、エイミの後に続いて、2人は仮想劇場へと向かった。
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3人はイーストパークを抜けた後、ファンタジーエリアを通って、セントラルシアターの仮想劇場前まで来た。
「ふぅ……。何とかここまで来れたな……!」
「これも アルドとエイミのおかげだよ! 本当にありがとう!」
「こちらこそ。それにしても ここに来るまで だいぶ静かだったわね……。」
「ああ 何もなければいいけど……。」
アルドとエイミの冒険者の勘は、この静けさに警戒を告げているようだ。
「じゃあ 中に入って 宝物をとりに行こう!」
少し楽しげなエセルに、アルドとエイミも表情を緩める。
しかし、アルドとエイミが仮想劇場に入って、エセルの横に来た時には、エセルは寂しそうな顔をしていた。
「どうしたの エセル……?」
その表情になった理由はわかってはいるが、エイミはあえて聞いた。エイミの言葉にエセルは我に返ると、にこっとして見せた。
「……ううん。大丈夫。昔ここで おじいちゃんとトト君のイベントやヒーローショーを よく見たなと思って……。」
そのまま、エセルは周りを見渡しながら話す。
「……でも そんな場所がこんなになっちゃうなんて……。あそこに トト君横になってるし……。」
「エセル……。」
エセルの話を聞いて、エイミは静かに下を向いていた。
(……私にもわかるわ エセル……。昔のおもいでが 変わってしまった姿で 目の前にあるつらさと寂しさが……。特にこの場所は それを強く感じてしまう……。)
エセルはアルドが心配している様子を察してか、少し明るい顔で言った。
「……昔はね。トト君のイベントに来たら いつもわたしのところに来てくれたんだ。」
そして、自分の横に立っているトト君を触りながら言った。
「そうそう……! ちょうどこんな感じで……。……あれ?」
エセルは先ほどまで倒れていたトト君がいた場所をみると、そこにはおらず、目の前にトト君が立っているのだ。
「えっ あ えっ……。……うっ……。」
エセルはそのまま気絶してしまった。
「エセル……!」
「……気絶してるだけみたい。とりあえず 安全なところに。」
2人はエセルを近くの椅子に寝かせると、突然入口の方で鍵のかかる音がして、アナウンスが鳴った。
「やあ みんな! まだまだ元気かな? そんなワクワクしている君たちに 次のミッションだよ! 4人に分身した僕たちを倒せるかな……?」
アナウンスの後に出てきたのは、4体のパラサイ・トトだった。
「よくも エセルを……!」
「すぐに終わらせるぞ!」
>>>
エセルのこともあって、あっという間に2人は、4体のパラサイ・トトを倒した。そして、すぐにエセルのもとに駆け寄る。
「……エセル! 起きて エセル……!」
「……。……あれ わたし……」
「気づいて良かった……。今 エセルは パラサイ・トトをみて 気絶しちゃってたんだ。」
「……そうだったの……。ハッ……! さっきのはどうなったの……?」
「ええ 私たちがばっちり倒しといたわ……!」
「そうだったのね……。良かった……。あっ 宝物は……?」
戦いとエセルの話で完全に忘れていたアルドとエイミは、急いであたりを見回す。すると、パラサイ・トトの寄生植物の口の部分から、光るものを見つけた。
「あっ アレじゃない……?」
そういって、エイミが手に取ってみた。どうやら丸い宝石の一部のようだ。
「これ 何かしら……?」
「たぶん もともとはわたしが持ってる宝石と 同じ丸い形だと思う。」
「でも 途中で欠けているな……。」
すると、アナウンスが鳴った。
「さすがだね! 2つ目のミッションクリアだよ! それに 宝物もゲット! でも 宝物は半分欠けてる……。ということで 次の目的は 欠けたもう一つの宝物を ゲットすることだよ! 次の目的地は…… ホーンテッド・シャトー!」
「えっ……。」
エイミはあからさまに嫌な顔をする。
「ミッションはあと一つ! 頑張ってね! それじゃあ 劇場の中央に集まってくれるかな?」
「中央ってここかな?」
「よおし 集まったところで みんなも僕と同じように 大ジャンプだ!」
「……?」
すると、地面が少しだけ沈み、すぐに勢いよく飛び出した。
「うわー!!」
「きゃー!!」
「わー!!」
3人は思わず叫び声をあげた。この時、3人は急な跳び上がりに驚いていたが、その驚きは着地をどうするかの恐怖へと変わっていった。進む方向が上方向から下方向に変わったとき、思わず目をつぶったが、動きが止まってしばらくして目を恐る恐る開けると、無事に園内に戻っていた。
「な 何とかなったのか……?」
「でも どうして……?」
すると、エセルが上の方を指して言った。
「これのおかげじゃないかな……?」
指さす方を見ると、そこはみやげ物屋の跡だった。
「この店の屋根が クッション代わりになったのか!」
「偶然にしても 着地したところが布を張った屋根でよかったわ……。」
「それにしても ここはどのあたりなんだろう……?」
3人は自分たちの居場所を特定するため、あたりを見まわした。しばらくして、エイミが言った。
「たぶん ここバザースクエアだと思う。あそこに 正門が見えたし。」
「あっ ほんとだ! そしたら 次の目的地は ホーンテッド・シャトーだから 西の方に向かったら いいよね?」
「そうだな。それじゃ 行こう!」
>>>
3人は、ホーンテッド・シャトーにある、宝物のかけらを手に入れるため、バザースクエアから西へと向かい、ウェスト・パークを抜けて、エキサイト・エリアに来ていた。
「あともう少しで ホーンテッド・シャトーだな。」
「ここまでは静かだったから また何かミッションがあるのかな……?」
「……。」
エイミは、目的地がわかった時から、非常に落ち込んでいた。エセルは小声でアルドに聞く。
「エイミ どうかしたのかな……?」
「たぶん 目的地がホーンテッド・シャトーだからかな……。」
「どういうこと……?」
「エイミ 怖いのが大の苦手なんだ……。」
「あ なるほど。そういうことね!」
すると、急に例のアナウンスが流れた。
「やあ みんな! 楽しんでくれてるかな? そんな ハッピーな君たちに 最後のミッションだよ! 4つのティーカップでお茶会だ!」
アナウンスが終わると、どこからともなく4体のブラッディカプシーが現れた。
「お茶会ってどういうことだ……? まあ よくわからないけど 倒したらいいか。いくぞ エイミ!」
「えっ あっ うん。」
アルドは上の空な感じのエイミに不安を抱きつつ、剣を構えた。
>>>
何度か危なっかしいところもあったが、何とか倒すことができた。すると、またアナウンスが鳴った。
「すごいよ! 最後のミッションもクリアだ! あとは宝物のかけらを見つけるだけ…… だといいね……?」
「だといいねって どういうことだ……? 何があるんだ?」
アナウンスはそのまま止まってしまった。
「なんか 意味深な言葉だったね……。あっ エイミ……。」
「うぅ……。」
エイミは、ぐったりして、顔色も蒼白だった。そんなエイミにエセルは心配して声をかける。
「エイミ。無理に苦手なところにいかなくてもいいよ……? アルド エイミをさっきの空飛ぶ船に連れて行った方が……。」
「……私は 大丈夫よ エセル。それに ついていくって決めたんだから 最後までついていくわ!」
「エイミ……。……わかった。わたしがそばにいるから 大丈夫だよ!」
「エセル……。……ありがとう。少し気が楽になったわ……。」
(エセル あなたって強いのね……。あなただってつらいはずなのに……。それに さっきアナウンスで「だといいね」って言ってたけど まさか 変なのが出てくるんじゃ……。)
エイミは、完全にネガティヴモードに入ってしまっている。アルドは2人を心配しながらも言った。
「よし。じゃあホーンテッド・シャトーに行こう!」
「ええ! 早く解決して ここから出ないと……!」
こうして一行は、ホーンテッド・シャトーへと向かった。
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