第2話 きえなかったともしび

 トト・ドリームランドの復興の援助をしてくれる人と逢うため、ホテル・ニューパルシファルへとやって来たアルド・エイミ・エセル。中へ入ると右側の席にその人が3体のアンドロイドを連れて座っていた。


「お待ちしていましたわ エセルさん!」

「すみません お待たせしました……。」

「いえいえ! ところで そちらの方々は……?」

「ああ 2人とも同じ件で協力してもらってるんです。」

「アルドだ。よろしく。」

「エイミよ。」

「ええ よろしくお願いいたしますわ。わたくし メアリーと申します。デリバリーサービスを営んでおりますの。」

「でりばりー……?」


初めて聞く言葉に、戸惑うアルドをみて、エイミが耳打ちする。


「デリバリーサービスっていうのは 色んな荷物を運ぶお仕事よ。いわゆる配達ね。」

「なるほど それだったらわかるぞ!」


アルドとエイミを無視して、エセルは話を続ける。


「それで トト・ドリームランドの復興に 資金の援助を していただけるというのは……。」

「ええ もちろんですわ! わたくしも あのような 何もかも忘れて ずっと遊んでいられる そんな場所がこの時代には必要だと 考えていたところでしたの!」

「やっぱり そう思いますよね……! わたしもこういうときだからこそ まだ知らなかったり 忘れていたりする 無邪気な心で 楽しめる場所が必要だと思っていたんです!」

「すばらしい お考えですわ!」


ここまで話して、急にメアリーは表情を曇らせた。思わずエセルたちはメアリーを見る。


「ど どうかされましたか……?」

「いえ ふと昔を思い出していましたの……。わたくし 昔両親とよく トト・ドリームランドに行きましたの。今はもういませんけど……。」

「……。」

「あの場所は 仕事で忙しかった両親と 唯一遊びに行けた場所でしたわ。ですから トト・ドリームランドは わたくしにとって 唯一の両親との思い出の場所なんですの。」

「そうだったんですね……。」

「……ごめんなさいね。暗い気持ちにさせてしまったかしら……?」


メアリーの問いかけに、エセルは元気よく少し食い気味に言った。


「いえ! わたし メアリーさんのお話を聞いて ますますやる気が出てきました! 絶対に成功させましょう!」

「エセルさん……。ええ 絶対!」


2人はこの短時間で外から見ても分かるほど、距離を縮めたようだ。そこに、エイミが冷静に質問する。


「そういえば 援助には条件があるって話だったけど……?」

「ああ そういえばそうだった! 条件というのは……?」

「ええ。気持ちとしては すぐにでも 援助させていただきたいのですけど わたくしたちは 慈善団体ではなく ビジネスです。ですから ちゃんと仕事として 成功するかどうか そして わたくしたちにも 利益があるかどうかの確証が 得られないと わたくしたちにとって 損になってしまいます。ですので 条件を設けさせてもらっていますの。」

「もちろん もとより タダでいただこうとは 思っていません! それで どんな条件ですか……?」


すると、メアリーは少し真面目な顔で言った。


「条件は2つありますわ。まず1つ目に トト・ドリームランドが復興して 営業を再開するという時には 物資の運搬を わたくしたちに お任せいただきたいということ。」

「それはぜひとも お願いします!」

「わかりましたわ! では2つ目に 今日3件の配達の依頼が あるのですけど 少し 危険なものを運ばないといけないんですの。あいにく 社員は あまり戦闘になれていませんし アンドロイドやドローンを あまり使いたくはありませんの。」

「それは なぜですか……?」

「合成人間の反乱が起こって久しい今 アンドロイドやドローンを使って 配達すると 不審に思われる方も少なくありませんの。」

「なるほど。」

「ですから 2つ目の条件は 3件の配達の依頼を こなしていただきたいのです。お願いできますか……?」


エセルは何のためらいもなく答えた。


「……わかりました! ぜひ やらせてください!」

「話が早くて助かりますわ! 現場には部下を向かわせていますわ。そこで詳しい内容を聞いてもらえますかしら?」

「はい! 最初はどこに行けばいいですか……?」

「1つ目は エルジオン・エアポートですわ。」

「わかりました! 行ってくるね 2人とも。」


2人を連れて行くのは、申し訳ないと思ったからか、エセルは一人で行こうとした。2人は当然エセルを呼び止めた。


「待ってくれ。オレも行くよ。」

「私も行くわ。」

「えっ でも……。」

「ここまで関わったら もう他人事に思えなくてさ。最後まで 協力させてくれ。」

「それに 人数が多い方が 早く終わるし……!」

「……ありがとう! じゃあ 一緒に行こう!」


そういって、3人はホテルを後にした。3人の後ろ姿を眺めながら、メアリーは誰にも聞こえないくらいの小さい声で言った。


「期待しているわよ エセルさん……? フフッ……。」


>>>


 3人は、1つ目の配達依頼があるという、エルジオン・エアポートのエルジオン側の北西部へとやって来た。


「確か 現場に部下の方がいるって話だったけど……。」

「あ あの人じゃないか……?」


アルドが指さす方を見ると、男性が一人立っていた。そばには見たことのない機械が待機していた。エセルが声をかけようとすると、それよりも先に男性が話しかけてきた。


「あなたが エセルさんですね……?」

「あっ はい……。」

「私は メアリーの部下の ジョンです。」

「よろしくお願いします! それで依頼というのは……。」

「依頼は この荷物を 最果ての島へと 運ぶことです。」

「特に危険そうなものには見えないけど 中身は何なんだ?」

「クライエントのプライバシーのため お答えできません。」

「そ それもそうか……。」

「皆さん この荷物を小型カーゴの荷台に積み そのまま最果ての島へと 向かってください。自動的にナビゲーションをするので それの通りに 進んでいただければ結構です。たどり着いたら 受取人がいますので 荷物を引き渡してください。」

「わかりました!」

「クライエントの荷物であるうえ 危険物とのことなので くれぐれも 丁寧に扱ってくださいね。」

「ああ もちろんだ。」

「それでは 私はこれで。」


そういってジョンは、その場を去って行った。


「じゃあ さっそく積み始めよう!」

「依頼も3つあるし 急がないとな。」


エセルとアルドが荷物を積み始める中、エイミは一人考えていた。


(この話 本当に信じていいのかしら……? あの メアリーって人も さっきいたジョンって人も すっごく怪しかったし……。)


エイミは、荷物を見ながら、さらに考える。


(そもそも 物を運ぶのに 送り主の名前も書いてない……。もしかして これ 何かのワナなんじゃ……。)


そうやって、エイミが考え込んでいると、アルドが声をかけた。


「……エイミ?」

「えっ あっ な 何……?」

「大丈夫か……? さっきから ずっと 上の空だけど……。」

「え ええ。大丈夫よ。」

「そうか……? それならいいけど。それより もう出発するぞ。」

「わかったわ。」


エイミも小型カーゴに乗ろうとしたとき、背後から何かの音がものすごい速さで、近づいてきた。


「何だ この音……?」

「あっ 2人とも あれ……!」


エセルが指さす方へ振り向くと、遠くから3体のガードドローンがこちらに向かってきた。


「ターゲット 確認。今スグ ソノ場カラ離レナサイ!」

「何だ 急に……?」

「もしかしたら この荷物を狙ってるのかも……!」

「でも このドローン ちょっと様子が…。」


異変を伝えようとしたエイミだったが、興奮状態の2人には届かなかった。


「だとしたら ここを通すわけにはいかない……! 行くぞ エイミ!」

「……。わかったわ。」


2人は戦闘態勢に入った。すると、それを察してか、ガードドローンが反応する。


「ターゲット 戦闘意志 確認。アラートモード 起動。コレヨリ ターゲットヘノ 攻撃ヲ 開始スル。」

「来るぞ……!」


>>>


 難なく倒したアルドとエイミに、エセルが言った。


「さあ 早く乗って!」


エイミはためらいながらも、アルドの後に続いて乗った。


エセルたちが乗った小型カーゴが見えなくなったころ、エルジオン・エアポートに現れたのは、COAのエージェントであるセティーだった。


「クソッ 逃げられたか……。クロック 破壊されたガードドローンの 映像記録データを 読み込んでくれ。」

「了解。……ダウンロード完了。表示します。」

「ああ 頼む。」


セティーはクロックが読み込んだ映像を見て、驚く。


「これは……! でも なんで……。」


少し考えてから、セティーはクロックとレトロに言った。


「司政官のもとへ戻るぞ。」


 ドローンに襲われてから数分後、3人は最果ての島へとたどり着いた。


「ふう 何とか 着いたね……。」

「ああ でも何だったんだろう……?」

「あれ 受取人の人じゃない……?」


エイミに言われて振り返ると、そこには、中年の男性がいた。


「あんたら 新人さんだな……? ご苦労さん。」

「お届けに上がりました!」

「じゃあ この荷物はもらってくぜ。お金は 口座に振り込んでおくと 言っておいてくれ。」

「ああ。」

「じゃあ 次の担当を呼んでくるよ。ちょっと待ってな。」

「はい!」


そういって、中年の男性は、荷物を台車ごと持っていった。しばらくすると、エルジオン・エアポートで逢った人とよく似た男性が、荷物を積んだ荷台を引っ張って、やってきた。


「ご苦労様です。私は メアリーの部下のアーヴィングです。次の配達依頼をお伝えします。」

「今回は何ですか……?」

「この荷物を 先ほどと同様の方法で ニルヴァに運んでください。」

「そういえば さっき ドローンに襲われたぞ……?」

「それが 危険物であるということの意味です。荷物の内容は言えませんが。」

「じゃあ また 敵が現れるかもしれないってこと……?」

「その通りです。それでは よろしくお願いします。」

「ま まって……。まだ 聞きたいことが……。」


エイミが呼び止めようとしたが、そこに邪魔が入った。今度は3体のガードマシーンが現れたのだ。


「ターゲット 並ビニ 3名ヲ確認。ターゲットノ排除ヲ 実行スル。」

「くっ……。こんな時に……!」

「倒すしかないみたいだな……!」


アルドとエイミは戦闘態勢に入り、攻撃を仕掛けた。


>>>


 あっさりガードマシーンを倒すと、エセルが2人に言った。


「さあ 早く 出発するよ!」

「ああ……!」

「うん……。」


そういって、アルドが乗ったところで、エイミは何かに気付く。


(……? 今 アルドが乗ったとき 金属音がしたような……?)


「ちょっとだけ 待ってもらえる……?」

「……? わかった。」


エイミは、出発を待ってもらうと、荷物のうちの一つを持って、少し揺らした。すると、箱の中から、先ほどアルドが乗ろうとしたときに、聞こえてきた金属音がした。エイミは、箱の形と音などから何かを察した。


(……! これって……! しかも この大きさ……。もしかして……!)


「もう出れそうか……?」

「うん! 今行く……!」


何らかの確証を得たエイミは、小型カーゴに勢いよく乗った。こうして、3人はニルヴァへと向かった。


しばらくして、最果ての島の現場に来たのは、セティーと同じくCOAのエージェントである、レンリだった。


「……やっぱり情報通りね。でも なんで……。」


すると、レンリの端末が鳴った。


「はい。……うっ セティーか……。あなたの言ったとおりだったわ……。……えっ? わかった。すぐに司政官室へ向かうわ。」


レンリは端末を切ると、ボードに乗って、エルジオンの司政官室へと向かった。


 それからしばらくした後、3人はニルヴァへとたどり着いた。すると、もうすでに受取人らしき若い男性が待っていた。


「ご苦労様です! ありがとうございます。」

「お届けに上がりました!」

「荷物もちゃんと運んでくれたようですね! では荷物はもらっていきます。」

「はい どうぞ!」

「では 最後の依頼の担当を呼んできますね……!」


若い男性は、荷物を持って、その場を去って行った。すると、若い男性が見えなくなったのを確認して、エイミが2人に小さい声で言った。


「2人とも ちょっと話があるの。時間がないから 手短に話すわね。」


エイミは、2人にそっと耳打ちする。しばらくして、エイミが話し終わったところで、今までと同じような恰好をした部下の男性が現れた。


「お待たせしました。メアリーの部下のウォレスです。最後の依頼をお伝えします。」

「最後は何ですか……?」

「最後はこちらの荷物をラウラ・ドームへと運んでください。」

「わかった。」

「注意事項は先ほどと同じです。それでは 私はこれで。」


ウォレスはそう言い残して、その場を去った。


「じゃあ 行こう。」

「さっき 言ったとおりに動いてね。」


エイミの言葉にエセルとアルドはうなずいた。先ほどとはうって変わって、緊張しているようだ。一行は、小型カーゴを起動させ、ラウラ・ドームへと向かった。しばらくして、現場に現れたのは、司政官直属の特殊機動部隊に所属するヴィアッカだった。ヴィアッカはすぐに端末を起動し、司政官へとつなぐ。


「やはり COAの報告の通りです。次の目的地も 送っていただいたデータの通りのようです。……はい。おそらくそこが最後かと……。わかりました。帰還します。」


ヴィアッカは端末を切ると、ボードに乗った。


「アルド……。何かの間違いであればいいけど……。」


 3人は最終目的地であるラウラドーム…… ではなく、廃道ルート99にいた。


「じゃあ 私 司政官のところに行ってくる。アルド エセルをよろしく。」

「ああ。くれぐれも 気を付けて。」


エイミはうなずくと、エレベーターへと駆けて行った。エイミを見送った後、アルドは、小型カーゴの電源を切り、エセルと共にエイミの帰りを待った。


 エイミがエレベーターで司政官室フロアに向かっていた。しかし、エレベーターの扉が開くと、そこにはどこかで見たような、金髪の男女がいた。


「……! キミは……!」

「セティー! レンリ!」

「話は司政官室で聞くわ。あまり時間もないでしょうから 急ぐわよ。」


そういって、COAの2人とエイミは司政官室へと向かった。司政官室に入ると、そこには司政官の他に、ヴィアッカもいた。


「ヴィアッカ……!」

「動かないで。」


すると、司政官の前まで来るなり、ヴィアッカ・セティー・レンリが武器を構えた。


「えっ……?」

「すまないが キミの現状がわからない以上 警戒せざるを得ないんだ。」


セティーは苦しそうに言った。すると、司政官が口を開いた。


「最初に聞こう。カーゴに乗っていた君たち3人は 今の状況をどう捉えている?」

「私たちは トト・ドリームランドを復興させようとしていた。そこに 3件の配達依頼をこなすこと 再開した際には物資の運搬を一任することを条件に 資金の援助をするという話がきたの。」

「本当にそれだけかな?」

「ええ。」

「ではなぜここにいる?」

「2つ目の依頼の時に 荷物が武器だと分かったの。しかも 大きさからして おそらく合成人間用の。」

「……!」

武器を構えている3人は驚いている。だが、司政官は冷静だった。


「その確証はどこにある? 部下の報告では 一度も荷物の中身は見ていないようだが?」

「それは 重さと金属のこすれる音 大きさから判断したわ。私の実家は鍛冶屋だからわかるの。」

「なるほど。……わかった。」


そういって、司政官は手を挙げた。それを見て、ヴィアッカ・セティー・レンリは、武器の構えを解いた。それを見て、すかさずエイミは言った。


「お願い! 時間がないの!」

「我々はどうすればいい?」

「じゃあ 私の言うようにしてくれる?」


そういって、エイミは4人に作戦案を話した。


「わかった。すぐに隊員を派遣する。ヴィアッカ・セティー・レンリ お前たちのところは頼むぞ。」

「了解。ただちに向かいます。」


3人はすぐに司政官室を後にした。


「では 私たちも行こうか。アンドロイドたち 私が留守の間 よろしく頼む。」

「カシコマリマシタ。オキヲツケテ。」


エイミはうなずいて、司政官とともに、部屋を後にした。向かう先はホテル・ニューパルシファルだ。


>>>


 ホテル・ニューパルシファルの入り口右の椅子に座り、メアリーは端末で誰かと話していた。


「そう。そちらに荷物が届くのも 時間の問題ね。予定通りうまくやってちょうだい。あとはあの女の願いをかなえれば……。」

「……かなえたら 何をするつもりだ?」

「……誰?」


メアリーが声のするほうを向くと、そこにいたのは、アルド・エイミ・エセル・司政官と機動隊員だった。


「あなたたち……!?」

「よくも オレたちをだましたな!」

「さあ 観念しなさい!」

「……フッ フフッ。……オーホッホッホッ!」


アルドとエイミの言葉に、メアリーはなぜか笑っていた。


「な 何がおかしい……?」

「だって わたくし 一度だって嘘を言ったことはございませんもの。」

「何……?」

「わたくしは「あのように何もかも忘れて ずっと遊んでいられる そんな場所が欲しい」と そう言いましたわ。それに嘘偽りはございません。」

「信じられるわけないでしょ……!」

「ですから わたくしは現実のことも この世界のことも 自分のことさえも 「何もかも忘れて」 トト・ドリームランドのクルーとして働き 我々の仕事を手伝いながら 「ずっと遊んでいられる」そんな場所が欲しいと言ったのです。」

「それってどういう……。」


エセルが恐る恐る聞くが、それに答えたのは意外にも司政官だった。


「この者は 合成人間と手を組み あえて人間と戦わせ それに必要な武器などを 買わせることで 利益を得ようとしていた。」

「なんてひどいこと……。」

「そしてその時に戦わせる人間は 洗脳されて 自分のことを何一つ知らない 身寄りのない子どもだ。」

「……!」


あまりの非人道的な内容に、3人は言葉を失っていた。すると、メアリーは言った。


「さすがは司政官ですわね。その通りですわ。それに 闇取引や密輸をするのに 遊園地は絶好の場所でしたの。本当に感謝ですわ!」

「ひどすぎる……。」


エイミはメアリーへの怒りとともに、そんなこととは知らずに夢を利用されたエセルが気の毒でなかった。さらにメアリーは続ける。


「ですが あなた方 残念でしたわね……。本来なら復興してから行おうと思っていたことを 今すぐにやらなければならなくなってしまったのですから。」


そして、メアリーは自身の端末で誰かに向かって言った。


「プラン変更よ。すぐに行動なさい。」


それだけ伝えて、端末を切った。そして、こちらを見てニヤついていた。


 アルド達とメアリーが対峙しているころ、ジョンは最果ての島で、荷物を見ながらほくそ笑んでいた。


「バカな奴らだ。自分が何を運んでいるのかも知らずに……。ヒヒヒッ……!」

「何がおかしいのかしら……?」

「……!」


突然の声に驚き、武器に手をかけたジョンだったが、時すでに遅く、ヴィアッカの猛烈な勢いの攻撃をくらい、気づいた時には、床に倒れていた。


「な 何なんだ……?」

「司政官直属の特殊機動部隊隊員 ヴィアッカよ。逃げられないとは思うけど 下手に対抗するのは推奨しないわ。早いところ本当の姿を見せたらどうかしら?」

「ク クソッ……!」


そういう間にジョンの姿はどんどん変わり、最終的には合成人間の姿になった。機能が停止したのを確認して、端末を起動した。


「司政官 こちらヴィアッカ。組織の幹部の一人を掃討しました。荷物の中身は合成人間の強化コアパーツと見られます。持ち出された形跡はなし。荷物と身柄を回収の上 帰還します。」


 同刻、アーヴィングはニルヴァでリストを見ながら、荷物の確認をしていた。


「よし これで全部だな。これでやっと 私たちの時代に……。」

「あら そんなものが 来るとでも思った?」

「……誰だ!」


アーヴィングが振り返ると、そこにいたのはレンリだった。


「COAのエージェント レンリよ。無駄な抵抗はよして 素直に捕まりなさい!」

「COAのエージェント……? こんな小娘が……? 私もナメられたものだ。こんな小娘ごときに……。」


武器を手に取り、語を続けようとするアーヴィングだったが、レンリの強烈な一撃により、床に倒れた。機能の急激な低下により、合成人間の姿に戻っている。


「な バカな……。」

「バカにした報いよ……!」


しばらくして、機能停止を確認したレンリは、端末で連絡した。


「こちら COAのレンリ。組織の幹部である合成人間を排除。荷物は合成人間用の武器と推定。持ち出された形跡なし。荷物と身柄を回収し 帰還します。」


 同刻、ラウラ・ドームでウォレスは、荷物の状態を見ながら言った。


「よし どれも状態は良さそうだ。私たちのもとで 楽しく暮らすといい……。フッ ハハハハハッ!」

「随分とご機嫌な様子だな。」

「誰だ?」


振り向くとそこにいたのは、セティーだった。


「COAのエージェント セティーだ。お前を連行する。大人しく投降しろ!」

「フッ そんなこと すると思うか……? あんた 俺たちを ナメてもらっちゃ困る……」


話し終わる前に、セティーの槍が身体を貫いた。ウォレスは何が起こったのかもわからぬまま、合成人間の姿に戻った状態で、倒れた。


「あんたこそ ひとをナメすぎだ。」


機能の停止が確認できたところで、自身の端末をつないだ。


「こちら COAのセティー。ターゲットの幹部の機能停止を確認。荷物の中身は……。……!」


中身を見て驚いたセティーは、できる限り落ち着かせて報告を続けた。


「……荷物の中身は 数十人の子ども。外的異常はなし。一部 意識不明の子ども有り。医療班の配備を要請します。移動の形跡なし。合成人間の身柄とともに保護し 帰還します。」


 同刻、アルド達はメアリーのプラン変更に警戒しながらもどうすることもできずにいた。すると、また司政官が口を開いた。


「そこの端末を確認してみたらどうだ。」

「えっ……?」


メアリーは恐る恐る自身の端末に耳を当てると、幹部の声ではない若い男性の声が聞こえた。


「あんたの仲間は 全て機能停止した。荷物も回収済みだ。残念だったな。」

「……!」


先ほどまで余裕だったメアリーは、明らかに動揺している。それに対して、司政官が淡々と言った。


「おそらく 最果ての島で 強化コアパーツを装備した 合成人間の集団を作り ニルヴァで 武器を装備した合成人間達に マクミナル博物館を襲わせ そしてラウラ・ドームで トト・ドリームランドで雇う 身寄りのない子どもたちを 洗脳しようとしていたのだろう。」

「な なぜそれを……!」

「お前たちの目的と 荷物の内容から 容易に推理できる。だが 残念ながら 私の部下の方が優秀だったようだ。」

「ぐっ……。」

「……メアリー いや ブレイナード。あなたを 連行する。連れて行け。」


そうして、メアリーこと本名ブレイナードは、機動隊員によって連れて行かれた。


「ちょっと待って!」


エセルが唐突に機動隊員を止める。


「メアリーさん……。あなたが言っていたご両親との思い出の話 あれは 本当なんですか……。」


すると、メアリーはめんどくさそうに言った。


「ええ。本当ですわ。もっとも 両親の仕事というのは 今のわたくしのようなものでしたし あの遊園地に行けたのも あそこで取引を行っていたからでしょうね。」


エセルは、一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐにいつもの明るい顔になって言った。


「わたし あなたが戻ってきた時に トト・ドリームランドを 心から楽しめるように 忘れてしまった輝きを思い出せるように 必ず復興させて 待ってますから。」

「……フッ。」


メアリーは一度だけ笑って、そのまま連行されていった。先ほどまでとは違い、この時の笑顔は、柔らかなものだった。メアリーを見送り、司政官は言った。


「今回は君たちは、虚偽の仕事内容を 教えられていた ということで 罪は問わない。我々としても 足取りを追っていた連中だった。望んでのことではないとは思うが 逮捕への協力 感謝する。それから このようなことに 巻き込んでしまい 申し訳なかった。」


エセルのことを心配したアルドとエイミだったが、その心配に反して、エセルは元気に答えた。


「いえ 甘い話に疑いもなしに乗っかったわたしにも 責任があります。」

「エセル……。」

「夢を利用されまでしたのに……。」


アルドもエイミも感心してしまった。そんな中、司政官が口を開く。


「資金提供の件だが こちらでも探してみることにしよう。今回のお詫びをさせて欲しい……。」

「お詫びだなんてそんな……。でも ありがとうございます! よろしくお願いします!」


司政官はエセルの言葉にうなづくと、その場を去っていった。


「ふぅー……。」


司政官たちが去った後、張っていた気が緩んだのか、エセルはその場に崩れ落ちた。


「……! エセル……! 大丈夫……?」

「なんだか 力が抜けちゃって……。あはは……。」

「さすがに色々とありすぎたからな。少し休もう。」

「それに 今後のことも考えないといけないし……。」


しばらくの沈黙の後、エセルが言った。


「ねえ アルド エイミ。」

「何?」

「わたし トト・ドリームランドをこの目で見てみたい。」

「……!」


エイミはエセルの言葉に驚きと焦りを感じた。エセルのお願いにアルドは答える。


「それは 構わないけど どうしてだ……?」

「資金のことは きっと司政官さんがなんとかしてくれると思うの。あとの問題は その場を確認しないと わからないかなって。魔物の量とか どこを直すかとか……。」

「それは そうだけど きっと 今の状況を見たら……。」

「わかってるよ エイミ。わたしが知っている風景とは 全然違うってこと。でも その現状から 目を背けてたら いつまで経っても 復興できない。だから この目でちゃんと見たいの……!」

「エセル……。わかったわ。それじゃ 少ししたら 行きましょうか。」

「うん……! ありがとう アルド エイミ!」


こうして、しばらくの間ホテルで休んでいた3人だが、エイミは目を閉じて一人考えていた。


(現状が 私の知ってるものでなかったとしても その現実から目を背けずに ちゃんと向き合う か……。)


また、目を開いてぼんやりと空中を眺める。


(私は ミルディとクラグホーンが あの遊園地のように 知っている姿から変わってしまったことに ちゃんと向き合えてなかったのかな……? その現実を認められなくて 2人を否定してしまっていたのかな……? 変わらずにあるものもあるって そう思うのは 私だけ……?)


すると、エセルが口を開く。


「もう 大丈夫 かな……! そろそろ行こう!」

「そうだな!」

「……うん。」


エイミは、はっきりしない返事をして、立ち上がった。


(何だかよくわからなくなってきちゃった……。)


そう思いながら、エイミはアルドとエセルの後に続いて、合成鬼竜へと向かうのだった。

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