おもいでのわすれもの
さだyeah
第1話 おわりをきざむはり
オーガとの戦いが終わり、アルドの仲間たちは一度自分の時代へと帰った。エイミもその1人だ。
「ただいま。」
「おう おかえり。」
「ちょっと疲れたから 休むわね。」
「ああ。」
実家であるエルジオンガンマ区画の鍛冶屋、イシャール堂に帰ってきたエイミは、父ザオルに挨拶をすると、2階の自室に入り、ベッドに横になった。
「ふぅ……。今回の旅も長かったわね……。さすがに疲れたわ……。」
大きく息を吐いて、エイミは目を閉じた。瞼の裏で今回の旅の思い出や風景がよみがえる。だが、最終的に表れるのは廃遊園地であるトト・ドリームランドと幼馴染であるミルディとクラグホーンだった。
「ミルディ…… クラグホーン……。あなたたちは 必ず私が……。」
「連れ戻して見せる」と言いかけたところで、言葉を詰まらせた。
(連れ戻したい そう思っているのに 素直に言えない自分がいる。正しいことをしようとしているのに なぜかためらっちゃう。2人を止めたいと思うのに 自分が2人の未来の足枷になっている気がしてならない……。)
エイミは、もう一度、大きく息を吐いた。
(2人とトト・ドリームランドで逢った時は 何の迷いもなく言えてた。少し寂しかったけど でも気持ちは落ち着いていた。なのに 何で今になって……。)
そして、閉じていた目を開いた。
(私がしようとしていることは 本当に正しいことなの……? 2人みたいに変わっていくことが普通で 変わっていない私が おかしいのかな……? 私は……)
エイミはふと我に返って、頭を振った。
「……相当疲れてるみたい。今日はもう寝よっと。」
そういって、エイミは布団にくるまった。
>>>
ザオルと鍛冶屋の客との話し声で、エイミは目を覚ます。どうやら、かなり寝ていたらしい。服を着替えて、1階へと降りていった。
「お 起きたか エイミ。その様子だと よく眠れたようだな。」
「おはよう。どうやらそうみたい。」
「さっそくだが お前にお客さんだ。」
ザオルの指さす方を見ると、そこにいたのはアルドだった。
「アルド……!? どうしてこんなところに……?」
「ああ その…… 何というか 久しぶりにエルジオンに来たら ちょうどイシャール堂の前を通ったからいるかなと思って……。」
「そうだったの。……ここじゃなんだし 外に行きましょ。」
「あ うん……。」
「父さん ちょっと 出かけてくる。」
「おお 行ってこい。アルド すまんが そいつのこと 頼むぞ。」
「ああ。」
「別に大丈夫よ……!」
そういって、2人はイシャール堂を出た。しばらく歩いてから、エイミは雰囲気を察して言った。
「それで どうしたの? 私に 何か用があってきたんでしょ?」
「あはは バレてたか……。いや ちょっと エイミのことが気になって……。」
「えっ……。ち ちょっと 急に何言いだすのよ……!」
「前にトト・ドリームランドに行っただろ? 子どもの時の思い出の場所が あんな風になって しかも幼馴染も……。」
「……。」
「どうしたんだ エイミ……?」
「……別に何でもないわ……。」
(私ったら まだ疲れが残ってるみたいだわ……。)
変な勘違いをしていたエイミは、心を落ち着けてから言った。
「……確かにあの時は 落ち込みもしたけど 今は大丈夫よ。……うん 大丈夫。」
「そ そうか……。今はまだ 2人が何を考えているかはわからないけど きっと連れ戻して見せる。だから あまり 深く考え込まないようにな。」
「アルド……。ありがとう。早いところ 準備をしないとね!」
「そうだな。……ん?」
「……? どうしたの アルド?」
「なんか あそこで 女の人が 何かやってるなと思って。」
アルドの視線を追うと、ゼノ・プリズマ前で、チラシのようなものを配りながら、同じくらいの年の女性が叫んでいた。
「お願いします! トト・ドリームランドのために お願いします……!」
トト・ドリームランドという言葉を聞いて、2人は顔を見合わせた。
「今 トト・ドリームランドって……!」
「ああ 行ってみよう!」
2人は、女の人のもとへとかけていった。
「あの……!」
「……?」
「今 トト・ドリームランドって言ったわよね……!」
「もしかして あなた方 トト・ドリームランドの復興に ご協力いただけるんですか……!」
「トト・ドリームランドの復興……?」
「ええ そうです!」
2人は再び顔を見合わせてから、一つうなずいた。
「オレたちに その話 詳しく聞かせてくれないか……?」
「わかりました! でも 立ち話なんですから バーに行きましょう。」
「わかったわ!」
アルドとエイミは、その女性について行って、バーへと向かった。
>>>
3人はバーの空いたテーブル席に座ると、その女性が言った。
「すみません……。わたしったら自分が誰かも名乗らずに……。わたしはエセルっていいます!」
「オレはアルド それから……」
「エイミよ。こちらこそ 誰かも名乗らずに来てしまって ごめんなさいね。」
「いえいえ! こちらこそ よろしくお願いします! アルドさん エイミさん!」
「よろしく。あと オレたち相手に そんなにかしこまらなくていいぞ。」
「そうですか……? じゃあ よろしく アルド エイミ!」
ひととおり、挨拶が終わったところで、エイミは聞いた。
「それで トト・ドリームランドの復興ってどういうことなの?」
「トト・ドリームランドっていうのは 昔とてもにぎわっていた 遊園地なんだけど 時代と共に 娯楽の形が変わってきて 段々お客さんが少なくなっていったの。それで とうとう 10年ほど前に 経営が苦しくなって 閉鎖されて 放置されてるの。」
「なるほど。でも 何で それを復興させようと思ったんだ?」
「昔 小さいころに 親友と遊びに行ったことがあって その時に 本当に楽しくて まるで 楽園にいるような気持ちになったの! 今って 世間は合成人間とか時震とか 暗い話が多いでしょ? それに 今の子どもたちは あの楽園にいるような気持ちを知らないし 大人もその気持ちを忘れてしまっていると思うの。だから こんな時だからこそ 現実を忘れて 思い切り遊んでほしいし 子どもたちには あの気持ちを知って 大人はあの気持ちを思い出してほしい。 そう思って 復興しようと決めたの!」
エセルの話を聞いて、アルドは言った。
「オレは すごく素敵な考えだと思うぞ!」
「確かに 私も小さいころに友達と行った時 夢のような そんな気分だったかも。でも……。」
エイミが話を続けようとするのも構わず、エセルは言った。
「やっぱそうよね! そう思うわよね!」
「……。こうやって 活動してるってことは 閉鎖されてからも トト・ドリームランドに行ったことがあるの?」
「閉鎖直後以来行ってないけど でも行った時の光景は覚えているから大丈夫!」
「そう……。」
エイミは、今は魔物がそこら中にいること、当時を知っている人からするとショックを受けるほど様子が変わってしまっていること、そして自分の親友が所属するクロノ・クランという革命グループが潜んでいたことを、どう伝えるべきか悩んでいた。あいにく、アルドはそのことを忘れているらしい。
「それで 今は何の活動をしているんだ?」
「今は とにかく資金集めをしようと思って チラシを作って配ってたんだけど なかなか難しくて……。」
「そうか……。どうしたらいいかな……。どう思う エイミ?」
「……。」
「……エイミ?」
「えっ ああ ごめん。何て言った?」
「復興できるいい案がないかなと思ったんだけど どう思う?」
「そうね……。難しいとは思うけど 一度司政官に話してみる……?」
「そうだな……! 司政官なら何とかしてくれるかもしれないな!」
「えっ……! あなた達って司政官と知り合いなの……!?」
「まあ ちょっと 色々あって……。」
「すごい……! でも わたしは逢う権限を持ってないから 申し訳ないんだけど 2人にお任せしてもいいかな……?」
「もちろん! じゃあ 行ってくるよ! 行こう エイミ。」
「う うん……。」
2人はバーを出て、司政官室に行くため、エレベーターへと向かった。この時、2人を見送るエセルは、後ろからの冷たくも粘り気のある視線には気付かなかった。。
>>>
司政官室へと入ったアルドとエイミは、さっそく司政官に話をした。
「おお 君たちか。今日はいったい どんな用件かな?」
「ああ ちょっと相談があって。」
「ほう どんなことかな?」
「実は 今 トト・ドリームランドを 復興させようとしている人が いるんだけど 何か 援助してもらうことは できないかなと思って来たの……。」
「うむ……。」
「ど どうだ……?」
「君たちには申し訳ないが 私が協力できる話ではないな。」
「な 何でだ……?」
「私はエルジオン一帯の統治は任されているが エルジオン外の それも民間の一施設を 公的に支援することはできないんだ。それを許してしまうと エルジオン中の 店が支援を要請してくる可能性がある。それに……。」
「魔物とクロノ・クラン よね……?」
「……その通りだ。跡地は魔物が多く生息していると聞く。それをすべて排除して 新たにアンドロイドを雇用するとなると かなりの資金と労力がいる。それに 最近になって活動を始めた革命グループ クロノ・クランが潜伏していたところだ。グループの目的や詳細がわからない以上 何があるかわからないし そんなところに 支援を行えば クロノ・クランと繋がりが あるのではないかと 疑われるだろう。それは避けたいのでな。」
「そっか……。クロノ・クランのことは すっかり忘れてたよ……。」
「やっぱそうよね……。」
「君たちは エルジオンを救ってくれた恩人だ。できる限りのことはしたいのだが……。すまない。」
「いや いいんだ。ありがとう。」
2人は司政官に礼を言うと、司政官室を後にした。
「それじゃ これからどうする アルド……?」
「一応 このことを伝えて もう一度 エセルと一緒に考えるか。」
「そうね……。じゃあ いったん ガンマ区画のバーに戻りましょ。」
2人は、少し落ち込みながら、ガンマ区画のバーへと向かった。
>>>
2人がバーの近くまで来ると、エセルはバーの前で待っていた。こちらに気付くと、エセルは駆け寄ってきた。
「アルド エイミ! どうだった? 司政官は何て言ってた……?」
「それが……。」
「司政官は エルジオンの統治を 任されている人だから エルジオン外の民間の一施設を公的に支援することはできないって。」
「そ そう……。」
落ち込むエセルに、エイミは言いにくいながらも、さらに続ける。
「それに 私たち 実は 閉鎖後のトト・ドリームランドに 行ったことがあるの。」
「そうなの……!?」
「私は子供のころにも いったことあるけど その時を知ってたら ショックを受けるぐらい 荒れ果てているの。」
「そ そんな……。」
「それに 今のトト・ドリームランドは 魔物がそこら中にいて 危険だし それに……。」
「それに……?」
「……。」
エイミは、ここまで言って、言葉を詰まらせてしまった。それを察して、アルドが言った。
「それに 前に そこに クロノ・クランっていう 革命グループが潜伏していたんだ。」
「……!」
「目的や詳細がわからない以上は 何があるかわからないし そんなグループが潜伏していたところに 支援して関係性を疑われるのは 避けたいらしい。」
「……。」
「ごめん……。力になれなくて……。」
ついに、エセルは黙ってしまった。エイミも黙ってしまった中で、アルドはどうすることもできずにいた。すると、口を開いたのはエセルだった。
「ううん 大丈夫。また 方法を考え直したらいいから……! それに これで復興への道が 閉ざされたわけじゃないしね! うん 大丈夫!」
そして、彼女は上を向いていった。
「わたし もっと頑張らなきゃ。」
すると、突然何かの音が鳴った。
「な 何だ?」
「ごめん! わたしの端末みたい。ちょっと待ってて。……もしもし。……はい!」
そういって、エセルは少し離れて、端末で会話を始めた。
「エセル どうしたんだ……? なんか 急に一人で話し出したけど……。」
「あれは 別の場所にいる他の人と 話しているのよ。」
「そんなことができるのか……!」
アルドは突然のことに感動したが、すぐに真剣な面持ちで聞いた。
「ていうか 大丈夫なのか エイミ……?」
「う うん。全然 大丈夫よ。」
「本当か……?」
「な 何よ? この通り 全然元気よ!」
そういって エイミは軽く跳んで見せた。すると、急にエセルが大声を上げた。
「……それは 本当ですか!? はい! はい!! よろしくお願いします!!!」
2人は先ほどまでのテンションとの違いに驚きながらもエセルに聞いた。
「ど どうしたんだ エセル?」
「なんか ずいぶんうれしそうだったけど……?」
「うん! 実は 2人が司政官に聞きに行ってた時に バーのお客さんで 話を聞いていた人がいたの。それで その人が 資金の援助ができるかもしれないから 一度 上司の方と話をしてみて 援助できそうなら 連絡するってことになってたの。そしたら 今 連絡が来て 援助ができそうって!」
「よかったじゃないか!」
「これで 何とか 復興できそうね!」
「あっ でも……。」
「ん……? どうしたんだ?」
2人が喜んでいると、エセルは申し訳なさそうに言った。
「その援助の話だけど なんか条件があるみたいで……。」
「どんな条件なの……?」
「それを 話したいから ホテル・ニューパルシファルで 待ち合わせることになったの。」
「よし じゃあ 行こう!」
「えっ でも 2人を巻き込むわけには……。」
エセルの言葉に、アルドとエイミは笑って返した。
「オレたちは 別に構わないよ。」
「それに ここまで聞いておいて 帰るなんてできないものね!」
「アルド エイミ……。」
「さあ じゃあ 改めて ホテルに行こうか!」
こうして、3人はホテル・ニューパルシファルへと向かった。しかし、歩き始めてすぐに、エイミは足を止めた。
(なんだろう この落ち着かない感じ……。)
エイミは胸に手を当てて、目を閉じた。
(……。)
しばらくして、目を開く。
(……大丈夫 よね……? 何もないわよね……?)
胸のざわつきに、不安を覚えるエイミ。すると、アルドの声が聞こえた。
「おーい。何してるんだ エイミ……?」
アルドの声に、我に返ったエイミはアルドに言った。
「ううん 何でもないわ……! 今行く!」
エイミは、後ろ髪を引かれる思いで、アルドたちのもとへと走って行った。
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