Last track いつか、どこかで

 「おはよう! ゆかさん! ごはんにする!? おふろにする!? それとも―――わたしと朝えっちする?」


 「おはよう、まい。とりあえず、ごはんかな。……朝えっちすると、午後の仕事に支障をきたすのでダメです」


 「ふむ、つまり明日は休みなので、してもいいと?」


 「うーーーん……いいよ!」


 「いえい、やったあ。ところで、今日のお仕事ってなんでしたっけ?」


 「あきのに今度のライブの演出の相談とーーー、由芽さんに新グッズの打ち合わせと。


 ーーーーあとは……大手レーベルとの会合……気が重いよーーー!!」


 「が、頑張って……ゆかさん!」


 「うう……幸せポイント減りそう」


 「おおう……今更だけど、ちゃんとカウントしてるんだ、あれ」


 「うん、あ、今度ねえ。10000ポイント超えそう」


 「え? まじで。すごい」


 「うん、まじで。ちゃんと毎日の幸せなことを記録してたらねー、いつの間にか貯まってた。折角だからなんか記念にしよっか?」


 「うーん、歌でも送りましょうか?」


 「えー、これ以上まいに貰ったら、借り額が多すぎて私は破産してしまう……」


 「幸せポイントってそんなシステムだったんですか……? でも、ゆかさん一杯、私にくれてるから大丈夫ですよ」


 「ふふ、まあ、冗談だけど。うーん、でもね、二人で貯めた幸せだから、二人で楽しいことにしようよ」


 「いいですね。でも、二人でかあ、何がいいかな」


 「そだね、何しよっかな。ーーーま、今度考えよっか。今は今日のお仕事―」


 「はい! あ、そういえば話全然変わるんですけど。むつみとみきがねーーーー」


 「そっかーーー、そういえば、由芽さんがーーーー」


 「てんちょーがねーーー」


 「みはるがーーーーー」


 「かきさんがね、あとお父さんが母さんとーーー」



 ※



 「じゃあ、いってきまーす」


 「うん、頑張ってね。ゆかさん」


 「あ、まい、はぐ、はぐプリーズ」


 「よしよし、しかしゆかさんも、すっかり甘えんぼになってまあ」


 「だって、大手レーベルだよ?! 緊張するよ?! 失敗したらどうしよう?! うちなんて蟻んこみたいに潰されるかも?!」


 「ははは、まあ、何とかなりますって。それに潰されたら、その時はまた二人でゆっくりやり直しましょ」


 「うう……うん、ありがとう。頑張る、ちょっと勇気出た」


 「はい、頑張って」


 「うん、じゃ、いってきまーす」


 「うん、いってらっしゃい」


 「あ、その前に。いってらっしゃいのキスは?」


 「ん? んーーーーー」


 「ーーーー。よし、こんどこそチャージ完了」


 「はい、いってらっしゃい」


 「うん、いってきまーす!!」


 「ーーーーーはは、ゆかさんも、明るくなっちゃってまあ」




 「さて、私も次の曲、かこっかな」




 小さな部屋の中、ギターを弾きながら、想う。

 


 歌は、物語は、終わらない。



 終わった後も、きっとどこかで生きていく。



 私の歌を聞いた人の人生も、別にそこで終わらない。



 いつか私の物語が終わっても、それを聞いた誰かの物語がきっとどこかで続いてくんだろう。そして、それはきっと素敵なことだ。



 だって、私が目一杯歩いたら、それだけ素敵な何かが残るということでしょう。


 

 だから、終わりを迎えるその時まで、私は前を向いて歩いてる。



 指は震えて、声は掠れて、たとえ歯車がかみ合わなくても。



 いつか、少しずつ変わっていくことを夢見て。愛しいあなたと二人、一緒に。



 まあ、そもそもまだ私の物語は、当分終わりそうにはないけどね。



 きっといつかどこかで続いてく。



 私とゆかさんの物語が。



 それは、きっとどちらかの命が終わるまで。



 そして、きっとその先も。



 誰かの物語が、きっとどこかで続いてく。



 これを聞いた、あなたの物語も。



 いつか、どこかで続いてく。



 きっと、前を向いて、続いてく。



 いつか、そんな歌を歌うから。







 いつか、どこかで。
















 おしまい

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女の子が好きな私と別にそうでもないあなた キノハタ @kinohata

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