陸・そして陽は堕ちる
プロローグ 白部組緊急会議
「それでは、之より緊急の会議を始める。内容は我が娘、
重く低い声が白部の邸宅に響き渡る。豪奢な大広間の天井に頭を付く程の巨体を誇る白き獣、其れを前に七人の妖が平伏すように控える。
「響よ、吾は娘だからと容赦は加えぬ。覚悟せよ」
「分かっております、お父様」
白き獣耳と尾を携えた人型の少女は恭しく頭を下げる。父と呼ばれた大きな牙獣の鋭い瞳に向かい、他の六人も準えるように一礼。一頻り礼儀を払ったところで、狐の尾を持つ妖が口を開いた。
「それでは
「ククッ、これが事実なら首が飛びますぞ?やってくれましたな、姫様は」
「口を慎め
「スパイに関しては事実無根です。羽生さんとも個人的に仲良くしているだけ、外患誘致の真似など致しません」
「ふむ。それでは野箆坊、羽生という退魔士についての素性を述べよ。」
「はいはい。――羽生 有希。現在は私立千羽高等学校に通う一年生であり、九月一日付で正式に退魔士として登録。血統に退魔士を含まない変異型であり、目を合わせた対象を五秒間停止させる〈魔眼〉の魔力の持ち主であり、主に
「……その調査を依頼した事は事実です。彼女からの協力を頼まれた事も。応じたかどうかは時と場合によりますが」
「おや、姫様は随分とその退魔士に入れ込んでいるのですね。我々よりその女の方が信頼出来ると?」
「えぇ、お父様の
黄色の瞳が顔無き妖を睨む。幼き少女が放つ威圧は鋭く、それでいて真っ直ぐで。六幹部と呼ばれる熟練の妖でさえ圧し潰すような空気の中で、少女は続けて野箆坊の隣に座る青い髪の女を見遣る。
――響は分かっていた。これは形式的な尋問だ。六幹部の内、この会議を取り仕切るあの妖狐と野箆坊、そして黙ってばかりの河童はあの父親、千羽の
「おや、姫様。
「いえ、何でも。……雀さん」
「はい。羽生は私も知っておりますが、暴霊獣を招くような真似をするような退魔士ではありません。寧ろアレを手酷く嫌っているような――」
雀と呼ばれた茶髪の女が述べる。やはり予定調和だ。早く終わってさっさと部屋でギターの練習をしたいのに、そう願う少女の思惑を知ってか知らずか次第に会議の空気も緩み始める。この調子だとあと五分もすれば解散だろう、広間の誰もがそう思っていた。
――今、この瞬間までは。
「聞き飽きた」
「……主様?」
雀の話を遮ったのは白き獣。この町で誰よりも強い千羽の主の一声で、全ての流れが変わった。
「響よ、此度は少し勝手が過ぎたな」
「お父様?何を言って……」
巨躯の瞳が娘を睨む。彼女の身の丈より大きな黄金色の瞳。姫も、六幹部も予想していなかった鋭い声色。邸宅の外から雷鳴が聴こえたのは気の所為か。ただ一つ、確かなのは。
「ほ?尾を踏んだかの、姫様は」
「河童。貴様、何をした」
「ほー?狼は怖いのぉ。儂は会議前に一つ、助言をしただけじゃよ」
――千羽の主は怒っている。その場の誰もが其を悟り、そして何も出来ないと諦めた。
「雀よ」
「は、はいっ」
「響を牢に放り込め。この娘を決して外に出すな」
「……は?どうなってんスか、コレ」
「私にも分かんないよー!とにかく
「ちょっ、待って欲しいんスけど、
一人の少女が駆け回りながら紙を配る。それは白部組の邸宅の中に広まり、町中に届けられ、そして私でさえも目にする事になる。
「黒羽君?これって」
「喫茶の窓に誰かが勝手に貼ってたんですよ。全く、とんだ迷惑です」
九月の末、届いた報せに私は頭を抱える。どうやらこの町は何かしら騒動を抱えずにはいられない性分らしい。溜息と共に貼り紙を近くにいた少女に手渡し、喫茶の店主に頼んでラジオのチャンネルをローカル局に合わせてもらう。
「わー、ナニコレ。どういう事ー?」
「……はぁ。病み上がりで頭も空になっちゃったのかな、
ラジオの音声と黒羽君の声が重なる。全く、また忙しくなりそうだ。
「『白部組による特別戒厳令発令。夜間外出と汎ゆる集会を禁ずる』、だってさ」
千アヤ外伝譚 蛇巫女の詩 織部けいと @kettar3
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