カラン、コロンに誘われて

雀守ぽめ

カラン、コロンに誘われて

雨の音がした。

空を見上げれば無数の雫が天から零れ落ちる。

それは、私にとってとても冷たくて気持ちよかった。

このまま雨に溶け込めてしまえたらいいのに…そう、心の中で呟いた。

彼氏にフラれた。

ずっと、好きだった人だった。

だから、このまま一生添い遂げるつもりで付き合っていた。

でも、彼は違う。

私とは遊びで、別の女が彼にはいた。

いいのか、その男は浮気してたんだぞ。そんなやつから離れちまえよ。

そう、向こうの女に心の中で注意喚起を呼びかけながら彼の頬に一つ、ビンタをして、普段は絶対怖くて通れない暗い路地を歩く。

あ〜くそう、あんな男のことなんて知らないんだから。

絶対に彼よりも良い男を見つけてやる。

そう心に決めた。

ふわり、と風が吹く。

温かな風だった。

普段は絶対苛立つ風も雨も、今なら私を包み込んでくれる優しい自然の恵みだと思えてくる。

いつも、そう思えたらいいのに。

カラン、コロン

何か、重いものが金属にぶつかって鳴り響く音がした。

なんだろう?

不思議に思ってその音の方へと私は向かった。

薄暗く、狭い路地。

まるでそこへといけと言うように私を誘った。

サァ、と強い風が吹きぬける。

再び、カラン、コロン、と言う音が耳にこだまする。

音はさっきよりも近かった。

右の方から聴こえてくる気がして、右を向く。

そこには小さな古びた神社があった。

ああ、あの縄の上に着いた金がなっていたのか。そう、納得する。

新しい縁でも願うためにお参りしていこうかな。

そう、思い神社へと足を踏み入れる。

そして、神社に入った私はとあるものを目にした。

「わぁ、」

思わず声が零れ落ちる。か

そこには一本の大きな桃の木がそびえ立っていた。

神木なのだろうかと言うほどの大きな桃の木。

咲いた桃の花は雨に濡れてこちらを見下げているように花を咲かせていた。

す、と。何故かどよんでいた心が晴れた気がする。

神社に付属した階段を上がれば再び高い場所から桃の木を見つめる。

その優しい花はピンク色に綺麗に色付いていた。

散るのが勿体ないなぁ。そう、思わず思ってしまうほどに今の私には綺麗に感じた。

あ、そうだ。

賽銭箱の前に着けば上に垂れ下がった紐を持つ。

そして小銭入れを入れた。

二礼二拍手一礼

パン、パン、

手を叩く音が空間に響く。

「どうか、この桃の花が長くさき続けますように」

そう、思わず願いを口に零す。

「ありがとうございます」

後ろから声をかけられた。

思わず驚いて背後を振り向けば一人のおっとりとした顔立ちの優しそうな男性が立っている。

男性は袴を着ており、ここの神主ではないかと私は感じた。

「い、いえそんな…そこにあった桃の花が綺麗だったので」

慌てる私にくすり、と男性が笑う。

そして差していた傘をそっと、私へと差し出してくれた。

「風邪、引いちゃいますよ」

心配そうに眉を下げる男性。

もしかしたらこれは、桃の木が、花が導いてくれた私への新たな出会いなのかもしれない。

そうだったらいいな、なんて思わず笑みが零れた。

「ありがとうございます」

空から鳥のさえずりが聞こえてきた。

見上げていれば雨が上がっている。

思わず私と彼はおかしくなって笑いあった。

桃の木だけが楽しそうな私達を見つめている。

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カラン、コロンに誘われて 雀守ぽめ @katabanekun

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