第9話 刺客

「ん…。クソッ頭が重い…。」

我に返って体をまさぐったがどこにも傷は無かった。


何故かは分からないがどうやら数年ぶりに帰宅したようだ。

さっきの

ぼうっとした頭で机へ向かい、教科書の山から地図帳を取り出し見開きのページを開いた。


「……。」


時計は”一昨日”から2日経過した日付を指しているが、どうやらこの世界は本来の世界とは違う。



朝の冷気なぞツンドラの刺さるような寒気からしたら可愛いものだった。

ダイニングに下りて身支度を済ませ、軍事演習の時のような早さで朝食を片付けるとそそくさと外に出た。


人を避けるようにして、神社の裏を経由しフェンスに覆われた裏道を抜けていく。いつもの強制ハイキングコースと同じく登り坂であることには変わりないが、誰がどうなっているのか敵なのか味方なのか知る由も無かった。


「あらジョン、早いじゃない。」

学校前の急坂に合流した所で、聞き覚えのある声がして振り返った。

一番会いたかった人がそこにいた。


「ちょっとジョン?こんな人が多い時間に何してるわけ?まあジョンの言う事ならしてあげないこともないけど…。」


ハルヒに再会したのは何年振りだっただろうか?

髪は長く、俺の呼び名は妹に広められたあれでは無かったが紛れもない団長様だった。

同時にあの冬での世界改変とはまた別の世界に来てしまったのだと理解した。


「ジョニー、おはよう。」

流すように「ああおはよう。」と返したがその瞬間俺は固まってしまった。


「どうしたのだ?そんなにあたしをまじまじと見る理由があるというのか?」

「いや…。」


気にしない素振りでいたが、また襲われたらたまったものじゃないなとあの冬の世界改変を思い出していた。

「ほらジョン、行くわよ。」

「ああ。」


あの全てがおかしい世界とこの世界はどうやら同じ時間連続線の上にある。元の世界とは違うパラレルワールドと考えるのが自然だろう。ならば脱出する方法を第一に探す必要がある。



「ちょっとジョン、どこに行くのよ?」


そう考えた俺は、一目散に文芸部室を目指した。


「ジョニーではないか、どうしたのだ?」

1限目、人がまずいるはずもない部室のドアノブに手をかけた瞬間だった。

ただでさえ変なあだ名をさらに変にする奴など、1人しかおるまい。


「お前は何か知っているんじゃないのか?」

「何のことを言っているのだ?」


彼女はヘアピンの前髪に手を当てるとやれやれと言わんばかりの顔で、

「あなたは自身の価値観のみで”Status quo ante bellum”を望んでいる。違うだろうか?」

「いやDe factoの追認で十分だと言わんばかりじゃないか。それが”お前ら”の本音か?裏がいるんだろう。」と返す。


「複数ある世界からはどれがスタンダードなどと決めることは不可能だ。規定事項を実行しているのがあたしだ。」

その言葉を聞き俺は階段を下った。

どうやら俺はこの世界をようやく理解し始めたようだ。なあに、どうにかしてみせるさ。

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兵士ジョン・スミス Tylorson @LibertyLiterature01

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