Episode20:仕組まれた背徳
高級カジノホテル『砂漠の宝石』オーナー、ヴァンサンの結婚記念パーティー。基本的に普段はその所在さえ定かではなく捕捉が困難なヴァンサンが唯一『表』に出る機会であり、カバールの悪魔でもある彼を唯一
パーティーは3日に渡って開催される。そして今日はその最終日である3日目。ユリシーズ達5人はこれまでの2日間と同じように『砂漠の宝石』の会場入口に、
ここまでは前2日と同じ。しかし今日この最終日はこれまでと
「ふふ……入場条件が相方との『情熱的なキス』だなんて随分洒落てるわね。そう思わない?」
ルイーザたち他の女性陣に妙に上機嫌で話し掛けているのはユリシーズの相方の女性。それはビアンカ……ではなく、CIAの腕利きエージェントにしてユリシーズの
「あなた達もこの2日で、大好きな彼と大分親密になったんじゃない?」
「…………」
しかしマチルダに話しかけられた女性陣は、ルイーザもナーディラも彼女を徹底的に無視するように眉をしかめてそっぽを向き、リンファとオリガは困ったように両者を見比べて、さりとてマチルダと話すのも(ルイーザ達が)怖いという感じで敬遠状態になっていた。
女性たちのギスギスした空気に、アダムやリキョウ達男性陣の方も居心地が悪そうに咳払いしたり襟元を緩めたりしている。マチルダが苦笑して肩をすくめる。
「あらあら、嫌われたものねぇ。私はただ純粋に
「……無駄話はいい。さっさと行くぞ」
ユリシーズもまた不機嫌そうな様子を隠そうともせずに、腕組みしてしかめっ面のままパーティー会場に向かって歩き出す。当然マチルダもその後に追随する。
「ふふ、ユリシーズ。あなたもそんな態度じゃ駄目なんじゃない? このパーティーの
「……! 言われなくても分かってる。俺を見くびるな」
指摘されたユリシーズは唸りながらも渋々首肯する。そう……このパーティーに入場するためには、前2日と同じく相方との
しかも既にビアンカを手に入れた以上こちらを入れたくないであろうヴァンサンが、ぐうの音も出ない程の『情熱的なキス』を披露しなければならないのだ。むしろ前2日よりハードルが上がっているとさえ言えた。
そもそもマチルダを拒絶してアダム達だけに任せるという選択肢もあった。だがそれをよしとせずにこの選択を選んだのは彼自身なのだ。マチルダにいつまでも不機嫌な態度を取り続けるのも、ある意味でお門違いではあった。ビアンカをむざむざ攫われたのも別にマチルダが何かした訳ではなく、全てこちらの読み違いによる落ち度なのだ。
それを改めて自覚したユリシーズは、一旦気持ちを落ち着けるように大きく息を吐いた。そして振り返った彼の顔は既に吹っ切れたものとなっていた。
「悪かったな、マチルダ。これは完全に俺たちの失態で、別にお前は何も悪くないのにな。お前にどんな思惑があるにせよ、それを承知で頼んだのは俺だ。今回は素直に助かった。改めて礼を言わせてくれ」
「……っ。な、何よ、急に。私は別に……」
険が取れた表情で真摯に感謝してくるユリシーズの姿に、不意を突かれたマチルダが若干狼狽える。ユリシーズは少し意地の悪い表情になって口の端を吊り上げる。
「おいおい、入場条件がどうとか言ったのはお前だろ? しっかりしてくれよ。お前こそ大丈夫か?」
「も、勿論よ。当たり前でしょう。あなたこそ私を見くびらないで頂戴」
若干顔を赤らめながら強弁するマチルダ。まあ自分から持ち掛けてきた話だし、色んな意味でプロである彼女なら
「あ、あの……」
その時後ろから声を掛けてくる者があった。ルイーザだ。複雑そうな表情を浮かべている。
「その……さっきまでの態度は謝るわ。協力してくれる事、私達からもお礼を言わせて」
「あら、急にどういう風の吹き回しかしら?」
ユリシーズの時と違って特に動揺する事もなく、眉を上げて聞き返すマチルダ。答えたのはナーディラだった。
「……そもそもビアンカを護れなかった私達が、あなたに不満を抱いたりする
どうやらユリシーズとの会話を聞いていて思う所があったらしい。
「ビアンカの友人としてはあなたがやろうとしている事を認められないけど、この事態を招いた原因が私達にもある以上その感情は置いておくしかないわ。今はビアンカの確実な救出が優先だから」
つまりナーディラもルイーザも感情ではマチルダの事を認めていないが、自分達にも責任があるので
「ふふ、仕事柄普段は欺瞞に満ちたやり取りばかりしてるから、そういう正直なのは嫌いじゃないわ。ええ、それで結構よ。今だけは協力し合いましょう。裏切ったりはしないから安心して」
「ええ、そう願っておりますわ」
マチルダが手を差し出すと、ナーディラもルイーザも悪びれる事無くその手を握り返した。リンファとオリガは元々そこまでマチルダを忌避していた訳ではなかったので、ナーディラ達がとりあえずでも和解?したなら安心と、彼女との協力体制を受け入れたのだった。
そして男性陣は(イリヤだけは過去の
そして
こちらに気づいたヴァンサンは苦虫を噛み潰したような顔で睨みつけてきたが、スタッフや他の招待客たちの手前、表立っては何も言ってこなかった。
サディークたち他の4組は流石に3日目という事もあって大分慣れてきた感があり、また事前にとりあえずマチルダとの間の蟠りも解いていたので、特に問題なくヴァンサンにも文句の付けようがない『情熱的なキス』を披露して会場への入場を果たしていた。
そしてユリシーズ達の番がやってくる。
「さあ、ユリシーズ。
「!! ……ああ、そうだな、マチルダ」
ここで失敗したら何もかも台無しだ。彼は今この瞬間だけビアンカの事を完全に忘れ去った。彼は自らもまたマチルダの背中に手を回して彼女を抱き寄せた。そして躊躇う事無く彼女の唇に自分の唇を重ねた。
「……っ!」
マチルダは一瞬だけビクッと身体を震わせたが、すぐに蕩けたような表情になって自分から舌を絡めてくる。ユリシーズもそれに応えるように自らの舌を絡ませる。
実際の時間は10秒程度だろうか。濃密なディープキスを交わした二人の身体が自然と離れる。ヴァンサンの方を見やると、奴は小さく唸りつつも頷いて彼らの入場を認めた。マチルダとの接吻がヴァンサンも認めざるを得ない『情熱的なキス』だったと証明された形だ。
こうしてビアンカ不在ながら無事にパーティー会場への入場を果たしたユリシーズ。だが彼は受付会場の天井に据え付けられていた一台の監視カメラの向こうに
人魔大戦ドゥームスクワッド ~ファーストレディの悪魔討伐記~ ビジョン @picopicoin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。人魔大戦ドゥームスクワッド ~ファーストレディの悪魔討伐記~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます