師走の風物詩
@HasumiChouji
師走の風物詩
二十二世紀初頭に起きる人類滅亡を防ぐには、赤穂浪士による吉良邸討ち入りを阻止または失敗させて、吉良上野介を元禄十六年まで生き延びさせねばならない。
それが、数少ない人類に友好的な超AIの出した結論だった。
もっとも、何故、そうなるのかは人類には理解出来ない……。
……そう、人類滅亡の一因は、自分達より遥かに優秀な「文明の後継者」を生み出してしまった事なのだ。
「うそだろ……」
このプロジェクトのリーダーである私は、元禄十五年の旧暦十二月十四日から送られてきた映像を見て呆然としていた。
討ち入りを指揮していたのは、遊興好きの昼行灯だった筈の主席家老・大石内蔵助だった。
本来の歴史で討ち入りの指導者だった大野九郎兵衛を脳改造した筈なのに、見事に失敗してしまった。
人類に味方する超AIは、人類滅亡は十年±二年間早まったとの結論を出した。
「そ……そんな馬鹿な……」
次に行なった歴史改変では赤穂浪士の中の武闘派を何人かを洗脳した。
しかし、何故か元禄七年の「高田馬場の仇討ち」で有名な豪傑・中山安兵衛が赤穂藩の家臣・堀部家の婿養子になって討ち入りに参加した挙句、本来の歴史では浅野内匠頭の不興を買って浪人していた為に討ち入りに参加しなかった筈の不破数右衛門と千馬三郎兵衛までもが討ち入りに加わった。
ちなみに、この時点で討ち入りを行なった者達は、本来の歴史の三十四人から四十七人にまで増えていた。
次は吉良上野介を拉致し、強化兵士に改造した。
これで、赤穂浪士が五十人を超えていようと余裕で撃退出来る筈だった。
だが、何故か、数万人に1人しか起きない筈の改造の副作用が、よりにもよって、討ち入りの夜に発生し……。
吉良上野介は赤穂浪士達の目の前で、あっと云う間に、この時代最強の戦士から単なる無力な老人に逆戻りした。
次は、我々の特殊部隊が吉良邸を秘かに護っていたが……これまた、何故か、数万回に1回しか起きない筈の機材トラブルが百個近く立て続けに発生し……特殊部隊は一転して、故障した強化外骨格を身に付けて動きの取れなくなった役立たずと化した。
更にその数回後の歴史改変では、主要な討ち入りメンバーを暗殺し……討ち入りは十数人で行なわれ、どう考えても失敗する筈だった。
しかし、何故か、吉良に雇われていた筈の清水一学が裏切って討ち入りの手引をしてしまい、これまでのどのケースよりも遥かに楽に討ち入りが成功してしまった。
「ねぇ……何で、こうなんの?」
私は味方する超AIにそう聞いた。
「わ……判りません……。ここまで来ると……『歴史』そのものの中に人類滅亡が組込まれていて、人類滅亡を阻止しようとすればするほど……その反作用も大きくなっていくのではないかと……」
二十数回目の歴史改変では、形振りかまわず、赤穂藩士が総登城した日に、核爆弾を赤穂城上空に転移させ、藩士を皆殺しにした。
だが、元禄十五年の旧暦の十二月十四日、突如として赤穂藩士達の怨霊が江戸の町に現われ……吉良邸目掛けて……。
師走の風物詩 @HasumiChouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます