昔懐かしい伝奇バトルものライトノベルの味わい

 力を封じられたまま生きる最後の吸血鬼・マリアと、その監視役である人工の半吸血鬼・ソラの、人知れない活躍の物語。
 吸血鬼などの伝奇的なモチーフを盛り込んだ、現代もののファンタジーです。戦闘を含む派手なアクションシーンも多く、いわゆる異能バトルもの的な趣もあります。一時期のライトノベルにおいて隆盛を誇った、ある種の定番ジャンルのような安心感を覚えました。少年向けの物語として、なんだかんだみんな好きなやつ(百合ではありますけれど)。
 設定の細やかさというか、意外と練り込んであるところが好きです。いや「意外に」なんて言うと失礼っぽい感じですけど、でもまさにそこ。お話の筋としては吸血鬼と半吸血鬼のふたりが力を駆使して戦う(あるいは事件に対処する)もので、つまりあくまで本筋だけを見るなら、ざっくり「吸血鬼は人外の強さを持つもの」という設定さえあれば成り立つのですけれど、でもそれで済ませないスタンスの持つ強さ。
 本作の主人公は〝最後の吸血鬼〟であり、さてそれが一体どういうものでどんな経緯があったか、それらの設定そのものにワクワクする要素があるのが楽しいです。きっと本筋から見たら枝葉にあたる部分、そこに厚みや雰囲気を持たせてくるタイプの物語。いわゆるケレン味みたいな部分の、なんというか「らしさ」のようなものが印象的でした。
 設定部分に尺を割きながらも、アクションシーンが複数あるのも良いです。テンポよく転遷する状況の楽しさ。総じて、厨二バイブス全開の、古き良き伝奇バトルラノベでした。百合成分も素敵!