夢を捨てた日
カーテンで仕切られた狭い部屋。
陽の届かない部屋。
僕は小説投稿サイトのランキングを漁る。
見たことあるようなタイトルばかり。
見たことある作者ばかり。
こんなランキング、存在する価値あるのかな。
また僕は、スマホをベッドに放り投げる。
僕は社会人になってから、執筆というものをほぼしなくなっていた。
何を書いても無駄に見える。
何を書いても面白いと思えない。
僕も、僕の作った作品も。
「……全部ゴミだ」
フラッシュバックする記憶。
「きみに創作を続けて欲しい」
ごめん。
もう駄目かもしれない。
「きみにはきみの作品を書いて欲しいんだ」
わからない。
学生の頃からずっと探してるけど、自分が何なのか、ずっとわからないままだよ。
「きみみたいな人が、まだこの時代に抗ってることが嬉しい」
もう抗えないよ。
僕も現実を知ったんだ。
君が執筆を捨ててから、沢山書いたんだ。
これだけ書けば、どれかは目に留まるだろうって。
得意じゃないジャンルにも挑戦して。
色んな書き方を模索して。
ひたすらに探し続けたんだ。
わかった事はひとつだけ。
僕は元々、何も無い空っぽな人間だったんだ。
そのくせ、何かを残したくて必死に物語を書き続けた。
才能も、人より優れてるところもない。
こんな僕が出来ることなんて、何も無い。
人生の大切な時間をこんな事に費やして。
僕の人生は何だったんだ。
何が夢だ。
何が小説家だ。
間違ってた。
僕が一丁前に夢を見ること自体が間違ってた!
もうどうでもいい。
夢も人生もどうでもいい。
馬鹿みたいに叫んで、机のものを散らかして、八つ当たりを繰り返して。
友達も青春も明日も金も執筆も生活も詩も思い出も何もかもどうでもいい!
夢を叶えられない自分なんてどうでもいい!
認められない社会も、認めてくれない人も、みんな死ねばいいのに。
こんな社会存在する価値なんてない。
僕は、一冊の小説を手に取った。
僕が投稿するサイトから、書籍化が決まった作品だ。
嫌いじゃないけど好きでもない作品。
内容は忘れた。
異世界に行ってたような気もするし、主人公が成り上がっていたような気もする。
その太いくせに薄っぺらい本を投げ捨て、踏みつける。
「おかしいよ」
なんでこんな作品が人気で、売れているんだ。
こんなクソみたいな小説、僕でも書けるさ。
きっとこの『螟「繧呈昏縺ヲ縺溘¥縺ェ縺?h』って奴も自分の魂を売った馬鹿だ。
こんな作品、どうせ少し話題になりゃ誰からも忘れられるんだろうな。
あいつもこいつも馬鹿だ。
書籍化されたくらいで浮かれた面して。
こんなもの……。
僕は部屋を乱暴に漁る。
一箱のマッチを手にして、その小説擬きに火をつける。
シンクの中で、一つの本が炎上する。
火災報知器が鳴り響く中、僕は声を抑えて笑っていた。
自分でも気味が悪いくらい引きつった笑み。
水をかければ勝手に火は消える。
真っ黒になって、読めるページはほぼ存在しない小説擬き。
奇跡的に作者名だけは燃えずに残っていた。
そうだ、これでいい。
この世界に価値のあるものなんて無い。
作品もヒトも心も景色も生命も。
全て。全てゴミだ!
何もかも壊れてしまえ!
必要ない。
この世に存在などしなくていい!
そうだ……!
僕は黒焦げになった小説擬きを握る。
この調子で、どんどん燃やそう。
こんなもの。
破き、床に叩きつけ、ぐちゃぐちゃになっていく。
これでいい。
これが正しい。
現代小説なんてゴミは燃やしてしまおう!
この日、僕は夢を捨てた。
代わりに得たものは、何も無い。
現代小説なんてゴミは燃やしてしまおう MukuRo @kenzaki_shimon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます