伝説の木の下で

タマゴあたま

伝説の木の下で

『伝説の木の下で告白すると結ばれる』


 そんな噂が俺の通っている高校にある。

 といっても、今日でその高校ともお別れなんだけどね。

 卒業式も終わり、高校生活を惜しんだり友達と抱き合ったり。今はそんな時間帯。

 俺は今日、一つ下の後輩――沙月さつき――に告白する。


「先輩。話って何ですか?」

「おう。来たか。この木のこと覚えてるか?」

「覚えてますよ。私が入部して初めて描いたものですよね。『これが美術部の伝統だ』って」


 美術部では新入部員の歓迎と力試しを兼ねて『伝説の木』の絵を部員全員で描く。

 沙月は誰よりも上手く絵を描いた。同じ新入部員はもちろん、当時の三年生でさえ褒めたたえるほどだった。


 その才能や実力に嫉妬し、あるいは自分の実力との差に失望し、沙月の陰口を叩く者が出てきた。


 ――――

「私、部活辞めようかと思うんです」

「なんで? あんなに絵が上手いのに」

「私がいると部の空気が悪くなっているような気がするんです。みんな私のこと嫌ってるっていうか」

「そうか。じゃあ辞めろよ。俺も辞めるから」

「ええ!? あっさりしすぎですよ! しかも、なんで先輩まで辞めるんですか!」

「いつだったかな。沙月が『部活を忘れてただ絵を描いていたい』って言ったことあるだろ?」

「はい。言いました」

「それ聞いて思ったんだ。『そういえば部活以外で絵を描いていないな』って。だから部活のない日に絵を描いてみたんだよ。するとびっくり! 今までで最高の出来だったんだよ」

「そうなんですか」

「だからさ。沙月も描いてみろよ。部活なんてしがらみ忘れてさ。いい景色見つけたんだ。今度連れて行ってやろうか?」

「ふふ。変な先輩」

 ――――


 あれから沙月と色々な場所で絵を描いた。自由気ままに。思うがままに。

 そうしていくうちに俺は沙月に惹かれていった。いや、ひょっとするともっと前からだったかもしれない。


 俺は意を決した。


「沙月、俺と付き合ってくれ!」

「ごめんなさい。私好きな人がいるんです」


 即答だった。泣きたい。


「私の好きな人は一つ年上なんです。つまり、今日卒業しちゃったんです。私も受験生だし、勉強に集中するために告白しないって決めてたんです。振られちゃったらメンタルやられそうですし。それに、私の目指している大学はその人と同じなので、合格できたら告白しようと思っているんです」


 そこで言葉を切り、深呼吸してから沙月は言った。


「だからあと一年待っててくださいね。先輩」

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伝説の木の下で タマゴあたま @Tamago-atama

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