エピローグ:そして私は『救国の女神』と呼ばれる。


「『救国の女神』様だ」

「わー、あの人が……」



 あれから早数か月……、私は王都に住んでいる。






 クロの屋敷で、奥様として暮らしている。……そう、クロと一緒に結婚式をあげたの。クロが私の美しい女神としての姿を見せつけるんだとかいって、盛大にしていた。

 ……陛下も私の事を祝ってくれた。エレファー様もクロが自分の元へ戻ってこないことを確信してか、結局お祝いの言葉を口にしてくれた。






 それで、何で私が『救国の乙女』でもなく、『救国の女神』なんて呼ばれるようになったかというと、クロのせいである。








 クロは「俺の女神」と私の事をよく呼ぶ。私の事をいとおしそうに見て、恥ずかし気もなく、私のおかげで国が救われたと、私は女神だとそんな風に語る。

 ついでに言えば、私の名誉が回復したことを喜んでいる陛下や友人たちが、クロの悪乗りに乗ってしまったのだ。




 ……恥ずかしいことに、私とクロに対する本とか出ているのだ。

 クロが喜んで私とクロがどんなふうに仲良くなったかを語りまくるのだ。羞恥心というのが全くないのだろうか。そう疑うぐらいクロは私の事を、のろける。いや、嬉しいのだけどね。







 ちなみに私が何で王都に住んでいるかと言えば、クロが「ジャンナともっと一緒に居たいから。ジャンナの名誉を回復するから!!」と言い張っていたからだ。……私が森に戻るなら騎士なんてやめるとかクロが言い張っていたしね。

 私もクロとずっと一緒に居たいし、注目を浴びたり、噂されるのは怖いと思ったけど――クロと一緒なら、頑張れると思ったから。




 あれから、昔交流していた友人たちとも、交流をまた結ぶことが出来たし。





 ――私はクロがどんどん広めていくため、行く人行く人に『救国の女神』様だなどと言われているのだ。クロがいかに、私が素晴らしいかというのを広めまくっているから。





「ジャンナ様、今日はどうなさいます?」

「ジャンナ様ー」






 ちゃんと私の名前を呼んでくれる人も沢山いて、やっぱり嬉しいなと思う。



 クロに出会って、クロと暮らして、そしてクロが私に救われたといってくれたから――今の私がいる。クロは私に救われたって、クロは私のことを女神だって、そんな風に言うけれど――私の方がずっとクロから与えられていると思う。






 私がクロの事を放っておけないと、そう思ってクロを拾っただけだった。それがこんな未来につながるなんて考えてもいなかった










「ジャンナ!!」







 今の私が、こんな暮らしを出来るのはクロが私を求めてくれたから。私に向かって、満面の笑みを浮かべてくれるクロのおかげなのだ。




 クロは呪術をかけられて――、大変な目に遭った。

 その経験から、クロは人の事を信用しづらくなっている。今まで親しくしていた人とも距離を置いていて、私の傍にいようとする。






 ランダン様たちはそんなクロの様子に少しのショックを受けながら、それでも自分たちが呪術にかかっていたとはいえ、やってしまった事の結果と受け入れているようだ。

 エレファー様も何だかんだで結局、私とクロの事を認めて、たまに私に会いにくる。私と仲よくしようとしてくれているようで、「あ、あなたに会いにきたわけではありませんから」と言いながら私に会いにきてくれるのだ。








 あと『救国の乙女』がお金を使っていると見せかけて横領していた人たちは、アランベーゼ様やクロの手によって処罰されたらしい。私はその場にいなかったから詳しくは知らないけど、ランダン様がその時の様子を「あれは『魔王』みたいだった。本当に恐ろしかった」と怖がっていたから相当、怖い顔をしていたのではないかと思う。






「クロ、おかえり」

「ただいま、ジャンナ」






 クロは私に対して、満面の笑みを溢している。

 私には一切、クロは恐ろしい表情何て見せない。——クロがこんな表情を見せるのは、今は私の前だけだと、ランダン様やエレファー様は言っていた。




 ――私と婚約者だった時も、こんな表情は見せていなかったもの。




 エレファー様は寂しそうにそんなことを私に言っていた。

 私はクロが私を大切に思っていてくれることが嬉しい。クロが愛おしそうに私を見つめてくれることが嬉しい。













 ――私はクロの傍にいて、クロと一緒に人生を歩めること。

 それが私にとって幸せなのだ。









 『救国の乙女』になると預言された。けれど、私は『救国の乙女』としての力を顕現することはなかった。

 一人で暮らしていながら、私は『救国の乙女』になることを諦めていた。

 そしてクロに出会った。そして私は特別な力も何も顕現はしなかったけれど、『救国の女神』と呼ばれるようになった。




 でも呼び名が幾ら変わろうとも、私が私であることはかわらない。







「クロ、明日は何をしようか?」

「ジャンナと一緒なら何でもいい」







 ――ただクロと一緒に、過ごせればそれでいい。





 『救国の女神』なんて呼び名は恥ずかしいし、私にはもったいない呼び名だと思う。けど、私の行動によって、クロが救われたというなら、それだけでも嬉しい。





 私はこれからも、クロと一緒に生きていく。























 あるところに一人の少女がいました。

 その少女は『救国の乙女』になると預言されました。そして、少女は城へと導かれます。




 けれど、少女は特別な力を持ちません。

 ある時、少女は森へと追いやられてしまいます。






 一人で暮らす少女は、すくすくと育ち、大人になりました。





 大人になった少女は、『魔王』の側近と呼ばれる青年を拾います。

 その女性と青年は、穏やかな日々を過ごしました。

 そんな中で青年の心は癒されていきます。






 青年が心の傷をいやすことが出来たのは、全て女性のおかげでした。




 女性のために青年は旅に出ました。

 そして悪の元凶を倒しました。そして青年が実は英雄であることが発覚します。




 青年を求める者は多くいました。けれど、青年は女性だけを求めています。



「彼女は俺の女神だ」




 青年はそう口にします。






 『救国の乙女』と呼ばれると預言された少女は、『救国の女神』になりました。

 そして『救国の女神』と『英雄騎士』は幸せに暮らしました。





 めでたし、めでたし。







 ――完――

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(本編完結まで投稿済み)『救国の乙女』になると預言されて、早二十年経ちました。 池中 織奈 @orinaikenaka

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