第三幕

 シャークサメだけに骨のない奴らだ。気絶した悪党四人に語って聞かせながら、俺は連中の財布から万札を失敬した。活きの良いカニをいれたクーラーボックスも頂戴するが、貴金属類は足がつきやすいので残しておく。

 おおかた、この「社員」どもは、バイトへの支払いをケチって、さんざん私腹を肥やしていたに違いない。

 俺は帽子とコートを拾い上げると、事務所のトイレを借りた。鏡で身なりを整える。

 帽子を被る。吸盤の隠蔽よし。

 コートの襟を立てる。エラの隠蔽よし。

 俺はビルを出て、自販機でコーラを二本買ってから、さっきの寿司屋に戻った。

「…いらっしゃいませ。ご注文は?」

 板前は相変わらず、へろへろのようだ。

「いやいや、さっき注文したばかりの客ですよ」

「はぁ」

 バイトの精神は、カニと金への欲にまみれた社員のせいで、摩耗しきっているようだ。

「ええっと、まあ、こんな店、さっさと辞めてしまいなさい」

 俺は、カニを詰め込んだクーラーボックスと札束を、若者に押し付ける。

「これを、退職金代わりにして、他の職を探すことです」

「あー、はい」

 脳味噌にブドウ糖が足りてないような返事だ。

「これもどうぞ」

 俺は板前にコーラを一本わたしてから、残しておいた寿司を礼儀正しくいただいて、店を出た。


 この後、例のバイトと社員たちがどうなったのかは知らない。確かなことは、夜八時には灯りの消える別の会社がビルの六階に入居したことと、寿司屋が閉店したことだけだ。

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シャーク・サッカーVS悪徳寿司屋 糸賀 太(いとが ふとし) @F_Itoga

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