27. ダンジョンの前でパーティを組むのは準備不足だろうか
◇◆◆◇
「はあ…………しょうがない。斬りに行くか」
「…………アル兄さんは、血に飢えた辻斬りにジョブチェンジした」
何コイツ、成敗! とか言いながら脱税者を過剰に斬りまくって正義感を振りかざしアピールするけどドン引きした私たちに下克上されるんですねわかります、みたいなジト目の視線を投げられた。なげーよ。目は口ほどに嘘も回る、というがここまで純粋な瞳で正直に見つめられたことないぜ。さすがは僕の妹である。さす妹。
ちなみに、社交界の付き合い会話で兄を尊敬していますと言っている時は、瞳が濁った感じになるんだぜ。さす妹。
まあ、今は建物に囲まれた小さなパティオで陽気な光に包まれながらおやつタイムを過ごしていたので、突然こんなことを言いだした僕に犯罪者かよ、みたいな奇異の目で見るのもさもありなん。せめて不審者程度にしてください。
「や、”コレ”が斬りたい斬りたいって煩いんだよ」
「傍から見ると、やっぱり血に飢えた
僕の座っている椅子に立て掛けてあった木剣を目の前に掲げ、僕の所為じゃないアピールをする。だが確かに、物語の主人公が呪われた剣に魅入られた人斬りと対峙している描写で、人斬りが、
伝承は古くなればなるほど、信憑性が低くなる。国の歴史編纂なんて建国する度に都合の良いよう書き換えるのは当たり前だ。戦争で負けた国を悪とし勝った国は正義となる。勝者は理由を好きなように言える権利を持てるのである。都合の悪い出来事は歴史から消され隠蔽するのは、古代から続くもはや国造りの慣習だと思う。
伝承もそれを伝える書物などが国にとって禍害になるなら封ずるだろうし、口伝なら些細な部分が間違って解釈され、長い月日が経つに連れその間違いが大きく曲解されて伝わっていくかもしれない。噂話の尾ひれの如く。
そう、本当は魔剣なのに、聖剣として間違って伝わっている……かもしれないのだ。や、絶対そうだろ。
聖剣『カラドコルグ』、栄華極まったフェーン時代よりも前に存在していたと云われる意志を宿す剣。先のグリムオールの時に浄化の光を出したんだから、そういう性能を持っている部分だけ
……なーんか重いんだよな、設定が。僕から見れば他の
下克上をされないように生き延びることが出来るか、な
「所持しているだけで満足してくれない、我儘な剣だな」
「訓練でソレ使えばいいんじゃないの? 木剣だし、模造刀代わりになるでしょ?」
「これさあ、見た目は木なんだけど切れ味抜群で鉄剣と変わらないんだよ……」
「ほ~」
帯剣してほしいが為に木剣へと擬態しているが、実は性能変わってないんだよな。結局は物騒な物を常に持っている状態なのである。黙ってるけど。
「んで、とりあえず剣の鍛錬で使ったことあるんだけど……それ以降使うなと言われた」
「え、なんで?」
「騎士たちが、神々しい感じを醸し出すエセ剣を傷つけるのを嫌がったのが一つ。そして僕がわざとコレを折らせようとした立ち回りをラーンスに見咎められて、変な型がつくからと叱られて使用禁止になってしまった」
「あー目に浮かぶわ」
巷じゃあ遺憾ではあるが、コレをお気に入りで帯剣していると思われている。
ラーンスの下、僕は騎士たちと共に混じって訓練をしていて仲も良好だ。打ち込みの容赦はしてくれないけどね。まあ打ち身なんて剣の鍛錬すれば当たり前に出来る。酷いのは神官さんたちが治してくれるし。だけど、いくら打ち解けていると言っても王子と兵である。王子が気に入っている物を傷つけようなら、打ち首獄門されるんじゃないかと臆しているのだ。……あれ? 僕をフルボッコするのは気にしないのだろうか? 王子な立場が呪物に負けた気がするぞ。今度から嬉々として剣を交える騎士の顔を覚えておこう。全員じゃねーか。
気にしないから、一回だけ、先っちょだけ、と無理やり騎士を剣術訓練に誘い、あわよくば事故を装ってコレが折れるように大雑把に動いていたらラーンスに見つかってしまい、騎士に代わって容赦なく打ち付けてきた。その際、手加減していただろうけど、僕にとっては重い剣戟をコレで何度か捌いたが折れるどころか全く傷一つ付かなかった。とんだ打たれ損である。
「という訳で、お城ダンジョンでサクッと斬って満足させるか」
「物足りないとか言って、
「リーシャはどうする?」
「どこまで潜るの?」
「もうすぐ陽も落ちるだろうし、1フロア奥まで行って戻るくらいかね。ちょうど御夕飯には間に合うでしょ」
「じゃあ、一緒に行こうかな。服着替えないとね。……このぐうたら妖精はどうする?」
いつもは騒がしいミューンがさっきから静かなのは、おやつを食べて満足したのか、鼻提灯を自分の身体並みの大きさで浮かべて寝ていたからだ。というかそれで自分もプカプカ浮かんでやがるし。
「居なくても構わないし、放っておこうか。風に流されるか、従者が片付けついでに処分してくれるだろ」
◇◇
ということで、お城の地下入口にやって来ました。
お互いに一端部屋へ戻って、戦闘用である厚めのギャンベゾンを着込んできた。全身は肌を晒さないようにする。そうしないとダンジョンに潜る許可が下りないのだ。リーシャはその上から魔法使い用のフード付きローブを羽織っている。
そして、ここらへんで暇そうに巡回していた騎士さん一人を調達した。
これも同行者がいないと許可が下りないからである。僕たちがダンジョンへと潜る際にはいくつかの条件がある。低階層なら大人一名から三名ほど、戦闘職とパーティを組まないと駄目という一つの条件だ。今回は1フロアのみの探索なので、一人でも通るだろう。
僕と妹と騎士の三人は、階段を降りて陽が通らない薄暗い通路を進む。壁には等間隔にランタンが設置されていて如何にも、な雰囲気を感じさせる。
進んだ先には少し広い間取りの区画があり、そこが迷宮入口手前の検問所となっていた。常時防備に就いているのは五・六人ほどで、横奥には詰め所や倉庫などの小部屋が見られる。頑強な石材で造られ、僕たちが入って来た入口には正門のように丈夫な
そして、検問所入って真っ直ぐ進む先には迷宮入口が在るのだけど、その前には外界と断絶するかの如く五つもの鉄製の格子を降ろして封鎖していた。
物々しいがこれらは”
ダンジョンには原因はいまいち解っていないが迷宮内の魔物が溢れだすほど湧く現象があるらしい。このお城ダンジョンでそれが遭ったとは聞かないけど、何が起きるか分からないのがダンジョンだ。まして王族が住まう居の地下に在するのだから、厳重に対策するのは当たり前だろう。え? そんな物騒な処に住むなって? 建国王に言ってください。
何でもこの城が出来て暫くしてから、元々は地下室として造られた此処に迷宮が出来ちゃったそうな。
おそらく先祖様は、入口を封印して放って置いたら”魔物氾濫”起きそうだし、せっかく立派なお城建てたんだから引っ越すのもだるい。どうせなら城の訓練施設として利用してやろう。敵には困らないし、魔晶石や素材も手に入れられる。お手軽に兵士を育成出来るぜい、ワシ天才。と考えに至ったに違いない。
今のは僕の推移だけど、当たってるんじゃないかなー。血的に。面白そうだし。
此処を訪れると冒険心が
僕たちが区画に入って来たのを見つけ、守りに就いていた騎士の一人が此方に寄って来た。腕章を見るに此処を担当する指揮官クラスのようだ。
「ごきげんよう、アルス王子、リーシャ王女。……その身なりですと、迷宮に潜るつもりですかな? 今日はもう夕刻に差し掛かる頃合いですが……」
「ああ、1フロアの奥まで行ってすぐ戻るつもりだよ。暖かい御飯を食べたいからね」
「おっと、それじゃあ準備を急がせましょう。スープを冷ませるわけにはいきませんからな」
潜る”深度”を申告し、朗らかに応対してくれた。もしこれが、三階層以降だと時間的に許可は下りなかったかもね。此処では王族より指揮官の判断が優先される。強権を振りかざしても非が此方にあるならば、シャスからお仕置きが待っているのだ。魔王様には逆らえない。
準備をする為、担当の者に横手の倉庫へと誘導される。そこで探索用の装備を受け取るのだ。
「では、軽装タイプで良いですかな?」
「大丈夫」
王子は上級皮防具セット(防御+5・魔法抵抗+3)を装備した!
「
「はいよ」
王子は背嚢(携帯食三日分・簡易キャンプセット詰め合わせ)を装備した!
「解毒、
「ほいさ」
王子は水筒を腰に装備した!
「武器は…………木剣? そんな装備で大丈夫ですか?」
「問題ない」
其処らへんに立て掛けてあった鉄剣を抜き身にし、台になっているところへはみ出す様に置いて足で抑えながら刃の部分へ縦に一閃する。
短い金属音と共に、綺麗な断面を残して剣を折った。ドヤ顔で木剣を掲げ、兵士に斬れ味を見せつける。
「なるほど、見事な代物ですね。良いでしょう。それはそれとして、備品損壊を王家に請求しときますね」
「ぶほぉっ」
調子に乗り過ぎてやらかしてしまった。ガックリと膝をつく僕を尻目に淡々と準備を進める兵士達。この国では、王家と言えども物を大切に扱わないと罰を受けるのである。
倉庫に常備している装備を身に纏い、迷宮へと潜る準備も済みつつある。
本来ならば冒険者だと自分で持ち込みを用意し、装備も調達しなければいけないだろう。
だが、此処はマイキャッスル・ダンジョンであーる。
自分の家に有る迷宮であり騎士達もほぼ独占的に利用出来る施設扱いだ。ならば、予め背嚢や探索ツールを常備し、すぐに出立出来るよう国で管理すればいいじゃなーいという訳である。そして僕たち用に上質な武器や防具も用意をしてくれている。リーシャは自分用の
いくら簡単な探索でも何日分かの携帯食などはちゃんと持ち込んで挑む。不測の事態が起きても的な感じで。これも条件の一つだ。
というか一連の目的の潜る深度申告から装備受け取り持ち込み配分まで、要所で行うのが条件だね。他人を交えて不備がないかをチェックする。身分が高いからこその
保護者的扱いで同行する騎士さんも、僕たちとパーティを組むのは初めてだからか、準備をしながらも経験者らしい人からレクチャーを受けている。力不足な人物なら交代させられるかもだけど、その様子もないのでまあ信頼に足ると判断した。
無事、三人とも準備と条件は整い、迷宮入口を封鎖している格子前へと並び立つ。
通路横で指示を待つ指揮官へ向かって、僕は力強く頷く。
「五つ、開門ッ!!」
『五つ、開門ッ!』
指揮を執る騎士の掛け声を周りが連呼し、呼応するかの如く目の前落とし格子が次々と上げられていく。
「通過後、三つまでを落とし、警戒一段階引き上げるぞッ!」
『ヤーッ!!』
格子の仕掛けの駆動音に負けじと大声で掛け合う騎士たち。
「わざわざ仕事増やして済まないね」
「なんの。夕飯前の軽い訓練みたいなものですよ。御武運を」
全部の格子が完全に上がり、どうぞとばかりに指揮官が敬礼をした。正面を見据えると薄暗い通路と突き当りには魔法の灯りで照らされた深淵へと誘うかのような迷宮口が在るのみ。もはや阻むものはない。
通路を進んだ先は、長箱部屋っぽい区画にまるでお城の地下室へと降りるような、実際、元々はそうだった普通の、大人が三、四人くらいの幅の階段が有った。それこそが迷宮に続く侵入口だ。そして検問所からは視えなかったが、区画の横手には昇降機が有る。これは素材や資材等、階段では運搬が厳しい時に使われ、上からしか操作出来ない様になっている。区画の要所要所には聖石が幾数置かれているのが見て取れた。魔物避けと、”瘴気”が漏れないように浄化をしているのだ。
三人と向き合い、階段の底までは闇で視えず常人ならば恐怖で足が竦むかも知れない雰囲気とは裏腹に、陽気なゆるーい気合と共に腕を掲げる。
「では、いきまっしょう!」
「いきま~っしょう」
「背後はお任せを」
冒険へと
―――――――――――――――――――――――――
補足
アイテムボックス的な設定はナシにします。
どう考えても国が完全管理しない限り、否、しても戦争暗殺密輸泥棒など犯罪し放題なブラック世の中になるからです。
仮に主人公のみな特別な能力だとしても、露骨な売買はいずれバレてしまい、どんな手段を使ってでも捕らえろという展開にしかならないと思います。
リスティノイス城 日常奇譚! あしな @asina
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