ただただ美しく、儚い世界

本作の魅力は毅然としながらも、どこか儚げな文章だろう。本作で描かれる世界自体も十分に魅力的だが、その魅力をそれぞれの文章が最大限に惹き立たせている。
十の情報よりも雄弁な一文というのか、全く異なる世界ながらもまるで眼前に広がるかのような美しい言葉の連なり。
しかしだからといって物語の展開を疎かにしているわけではなく、むしろそこに繊細で豊かな心情描写が加わり、より読み手に没入させる。
ここまで作品全体で雰囲気を醸し出し、読み手を世界に入り込ませる小説も珍しいと思う。名作。