聶耳の草団子(下)
3
「どうした? 都へ向かうならば、
州都の
まあまあ、と彼女に
まさかここで
本来は別の
「この辺で良いかね」
周囲に人気が無いのを確認すると、ひゅぃ、と
すると
しかし、彼の得物を握る手を、
そのまま
「この子は
だから騒ぐな、と
彼は目を白黒とさせながらも、柄を掴む手から力を抜く。
なんとも主人に似たところのある
「
獣であるから表情に
「予は
しかし
意外とやわらかい毛先は、押さえると深く沈んで温かく、触れた手を
「はぁ、嫁に対して冷たい旦那さんだこと」
「お前を予の嫁と認めたことは無い!」
しかしその分着地の反動は大きく、走るとその勢いで
「は、放せ! まさか予を
二人の体温が汗で引っ付き合わさって、やけに熱い。
「真っ赤になって効いてて何言ってやがんのさ。 いいからもっと、胸にがばっとくっ付きな。 あんたを支えながらじゃ
4
蒼国と西域を分け隔てる
「
こんな
「いや、
「どういうことだい。 あんたを付け狙う何者かがいるってのかい――!?」
急に、
見るからに敵意を持った男たちが二人を乗せた
「
男の一人が
男たちは
彼女が考えるに、
だが、
「こういう事だ」
明らかに二人を狙い
「順位第二の
「じゃあ、返り討ちにしてやっても問題ないってわけだね?」
しっ、と静かな掛け声とともに、
そのまま体の開いた体勢になった男へ向け、
その様にぎょっとし、
ひとたまりもなく、その刺客は胸部を押しつぶされ
そうやって太ももで
そこでやっと気を取り戻した刺客どもは
その一撃は向けられた得物ごと強引に男を吹っ飛ばす。
もう片側には
血を噴きながら、男は
まさに
輝く白髪と、長耳がそれに続く。
赤を背景に、その神秘的な光景は
それが公主の身分であった
しかし、そこに
丁度
「
幸い、
それは一直線に
どかりと男の倒れ伏す音がするが、もはや
そのまま残った者たちの
それよりも
「おい、大丈夫かよ
「ああ、なんとか。 この通り少しの
5
国門をくぐって霊廟も目前という所、どうも
そのうちに十の頃のまだ幼い身体から血の気が引いて、
最初は
受けた傷は浅い筈であるのに、その腕は小刻みに震えていた。
彼の動きを見るに、
「おい、しっかりしろよ
今から人里へ彼を
「もうよい。
こぼれる涙を拭おうと手を差し伸べようとするが、身体の
彼女にはよくよく顔に何かと
「
「……どうしてだろうな。 お前の戦う姿が、美しかったからやも知れぬ」
それは
力なく笑う顔に、
ならば、
彼女は腹に決め、座る
「あれをやるしかねえか……辛抱してろよ、あんたを絶対手放してやんねえから」
近くの茂みへ入ると、
動けない身体で、
それからしばらくもしないうちに、彼女の腹の内を
――ぐおぉ、来た来たぁ。
腹を押さえて苦しみながら
次の
ふぅ。
その顔は一瞬、すっかり穏やかになっていたが、
そのままずいずいと彼に向けて歩み寄る。
「さあ、
手の内にころりと転がる、手で押せば潰れそうな
「これは何だ? 青臭い匂いがするが――まさか」
団子から唇に伝わる
青くなった顔からますます血の気が失われるが、これは毒のせいではない。
「
団子の正体を
「よ……よせ、そんなものを予へ近づけるな」
最後の
しかし
「命がかかってるって、分かってるのかねぇ。 仕方ない。 悪いけど言った通りなんだ。 もうあんたを死なせる気も手放す気も、あたいにはこれっぽっちも無いんだよ」
「おええぇ」
6
明け方には
ただ、彼は何か大切なものを失ったような
先に切り出したのは
「そうだな、ここまでの約束であった。 予のお前に対する気持ちを、ここで伝えておこうと思――」
だが、その言葉を
「いや、あたいに先を
そして、大声でこう、胸の内を告げた。
「
そのまま
「台無しだ馬鹿者!」
それを見ていた
しばらく誰の通過も許すつもりは無いようである。
余談であるが、
聶耳の草団子(完)
聶耳の草団子 イビキ @ibiki
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