聶耳の草団子
イビキ
聶耳の草団子(上)
1
そもそも夷狄というのは
彼らは人の容姿を持ちながら、半身はまるで獣のような者どもで、それぞれ部族ごとに容姿があまりにも異なる様は
中でも、北部山中に
過去には歩く際に耳を両手で持ち上げる必要がある
何しろ
東西に山脈が続き、北には乾いた土地しかなかったので、他に向かう先もないのである。
両国の関係はよもや殺し合いという所まで行きかけた。
そこで持ち上がったのが、両国の
帝室が
大耳には首長の娘に
国ぐるみで
自身の
「冗談じゃねえよ、なんであたいの相手がこんな――赤ん坊じゃねえか!」
式会場。
結婚相手が
首長も彼女が確実に嫌がるのを分かっていて、直前までその情報を
黙っていれば西域一の美人から発されたその
「なんと
彼女は怒り狂ってひとしきり暴れると、感情任せにその場を去ってしまう。
こうして、縁談は花嫁に式を破壊されるという最悪の結果に終わった。
念願を果たせなかった首長は大耳の
幸いにして命だけは取り留めたというが、そのまま
2
事件から十年ほど経った時の事。
元州の
そこで一人の女が飲んだくれ、
店内は
どちらかと言えば、そう、関わり合いになることだけは避けるよう
何しろ、一目でわかるほど非常に
それが過去に名声を
しかし、部屋へ堂々と入り込み、
「おい、そこな
心地よく居眠りしていた白眉は、意志に反して起こされたことと、相手の高圧的な物言いとに
「……ああん?」
これはかつての自分を見慣れた
「なんだい、お坊ちゃん。 お姉さんの色香に我慢できなくなったのかい? 相手してやるからこっちに座んな」
生意気そうな
「それには及ばない、質問に答えてもらうだけでよい」
少年の
「あたいは座れって言ってんだよ」
白眉のどすを利かせた声に、少年は一瞬身を
「この、放せ無礼者が」
しかし、
そしてその手はそのまま酒瓶へと伸びた。
「大人しくしときな。 で、何が聞きたいんだい」
言って、白眉は少年を抱えたまま器用に瓶を傾けて酒を飲む。
口からこぼれた酒の筋が
おまけとばかりに、白眉は少年へ息を吹きかける。
――酒臭っ。
子供だねぇ、と笑う白眉へ、少年は胸に抱かれながら、いい加減にしろとばかりに言葉を強く問うた。
「女、おまえの名は何という」
「やっぱりあたいを
今じゃすっかり
そして――
「
少年は隠していた短刀を懐から抜き放つと、
「女の股座で言っても、
が、否や
重なりそうなほど顔を寄せ、目と目を合わせる。
その身のこなしや
「よしときな。 あたいの方がお坊ちゃんを好き放題にできる立場にあるんだからさ。 で、何が目的だい? 買った恨みの心当たりは色々とあるがね」
「くっ……殺せ。 もはやお前をどうにかしなければ、予には帰る場所がないのだ。 そうでなければ死ぬしかない」
奪った短刀で首を掻き切れと、少年は
その必死さに
と、そこで押さえつけた少年の手首に、見覚えのある
彼女は短刀を届かない所まで投げ捨て、少年を解放する。
「――あんた、あたいの夫って訳かい」
何か抵抗を
「いかにも、予こそは蒼帝嫡子、
そう言って
だから彼女が見間違えるはずもない。
「悪かったね。 今じゃずいぶん後悔してるんだよ」
身分だけでなく片目と片腕も失って、この十年という月日の中で
それに、今初めて知った事ではあるが、嫌がって突っぱねた夫は月日を重ねれば自分好みの男になったではないか。
あそこで耐えて、赤子を自分の思うとおりに教育してしまえば、今頃は色々と
誰も同情しないだろうが、全てを失っておいて馬鹿馬鹿しくなる結末である。
「こちらは後悔どころではない。 蒼国の男は嫁に逃げられたら、己の手で殺すまで次の嫁を取れん」
言いながら、
「生後間もなく
嫁を取れないという事は子供を望めない。
帝室の嫡子として、自らの
間もなく弟が
「分かった分かった。 むざむざ殺されてやる気はねえが、あんたの嫁に戻ればいいんだろ」
回想に
よしよしと頭を
大きすぎる胸に押しやられて開き過ぎた
「今更、お前のような
言葉とは裏腹に、白眉の背に両手が回った。
それは死んでも手放さないと言っているのか。
または死ぬまで逃がさないと言っているのか。
「これからあんたがあたいに
だからこれからあたいの宿へ来なよ、と誘おうとするが、
目には涙もなく、さっぱりとした顔になっている。
「ふん、せいぜい
そう言って、部屋の一角にある窓から遠方、蒼国の都のある東を望んだ。
「途中、帝室の
「上等じゃないか。
咳き込みながら、
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