第6話 強化

命を救い、育ててくれた老人への恩返しの為に、手帳に記された獣魔関係の事件を解決してゆく朝陽とうらら。記されていた、「子食い獣魔の事件」を追うため、鬼呼町と呼ばれる田舎街に訪れる。

子食獣魔との戦闘の最中現れる獣魔対応組織"イコライズ"の女性捜査官 赤木有来の協力があり、なんとか討伐に成功。しかし、自らの身体に雷を落とし帯電させてから放つ新技を編み出した朝陽は気を失ってしまう。赤木の助けもあり、目を覚ますが、赤木たちは獣魔を殲滅するために行動している組織のため、いずれは朝陽と戦う運命だという事を知らされる。

そして朝陽とうららは、報酬としてもらった引換券を持って武器職人へ会いに行くのだった…


茂った森の葉が昼間の日差しを遮り薄暗くなっていた。

鬼呼町の町長からもらった地図を頼りに森を進んで行く。

「なぁうらら、こっちであってるのか?」

「うん。そろそろ滝が見えてくると思うんだけど…!!」

地図を見ながら辺りを見渡すと、滝が見えてくる。


「あれか?」「そうみたいだね」

木板でできた小屋に辿り着くが人の気配はない。朝陽がいつもの調子で小屋の引き戸を開ける。

「誰かいるかー?」「ちょっと朝陽!」

小屋の中は真っ暗だった。天井の隙間から刺す光が辛うじて一部を照らす。盾のような物体が壁に立て掛けてあった。

「留守か?」「みたいだね」


その時、何者かが短剣を構えて朝陽に飛びかかって来る!

「は!!」

キィィンッ!!!甲高い衝突音が響く!

対抗したのは朝陽だった。攻撃を仕掛けけてきた謎の人物が照らされ、容姿が確認できた。緑色の頭巾を深く被った140cm程の女の子だ。

「お、女の子?」

驚くうららの前に、攻撃された事に腹を立てた朝陽が出る。その手には刀が握られていた。

「関係ねぇ!こいつは俺を殺そうとした。おいガキ!何者だ!」

「礼儀がなっとらんのぉ。反射速度は上々だがの」

「ち!礼儀とやらは学んでねぇんだよ!!」

「朝陽待って!!」

止めるうららを無視して、女の子に刀を振るう。しかし女の子は笑いながら避け、朝陽の肩に乗る。

「遅い遅い。そんじゃあ、礼儀を教えてやろうかの」

片足を踏み込み、高く飛んで距離をとった。

「!!!」

女の子が乗っていた右肩が急激に重く感じる。仁王立ちでは耐えられなかったのか、片膝を付いてしまう。駆け寄るうららに忠告する女の子。

「止めたほうがいいぞ?お主も同じ目に遭う」

「そんな…。何者なのあなた!!」

「魔法使いじゃ。わしの魔法で武器を強化しておる」

「じ…実は鬼呼町の方から引換券を貰ってて」

うららは、町長から貰った引換券を少女に見せる。

「ほう中々の額じゃの。よいぞ」

「おいガキ!!これをなんとかしろ!」

「わしはガキという名前ではない。笑寺来琉わらじ くるじゃ」

笑寺が被っていた緑色の頭巾のフード部分を取ると、銀髪ショートヘアが広がる。その容姿に思わず本音が溢れるうらら。

「かわいい…」

「なんとかしてくれ、地面に埋まりそうだぜ…。笑寺さんよ」

「次に舐めた口を聞いたら埋めるでな」

笑寺が魔術を解いた瞬間、朝陽の肩が軽くなった。

「か…軽くなった…」

「お主ら、名前は?」「鴨江うらら」「神木…朝陽」

「承知。それで、購入と強化どっちにするんじゃ?」

「強化を頼む」「私も」

2人はそれぞれの武器をテーブルに置く。


笑時は、2人の武器を見て言った。

「これは…。もしかして、神木の爺さんの物かい?」

「何故それを知っている?」朝陽が返す。

「20年前くらいじゃのう。わしもまだ獣魔ハンターをしていた時、偶然、神木の爺さんと依頼が被ってのう。協力することにしたんじゃ…」

朝陽とうらら心の中で思う。

{何歳なんだこの人!!!}


「彼は、刀とロッドを起用に使い分けておったわ。戦闘の後も付き合いがあって、彼の息子の修行も付けてやったっけの」

「そうだったのか…。あんたの言う通り、あの爺さんから受け継いだ物だ」

「受け継いだ…という事は、会ったのか?」

「あぁ…。俺たちを育ててくれた」

「訳あり…といった所かの」


笑時は武器を釜に入れて、2人を奥のテーブル席に座らせる。

「2時間ほどほっといておけば、強化される。お主らの話を聞かせてくれ」

口を開いたのは朝陽だ。

「俺は、獣魔と人間の間に生まれ、獣魔に育てられてきた。ある日、そいつが2人の女を連れて来た。うららと彼女の母親だ。うららの協力で脱出に成功したが、彼女の母親が犠牲になってしまった。逃げだしたはいいものの、途方に暮れているとき、その爺さんに拾われて、この歳まで面倒見てくれたんだ。名前が無かった俺に「神木朝陽」という名前もくれた」

「そうか…聞いたことがある名前だと思っておったが、そういう訳か。辛い思いをしてきたんじゃの。お主ら…」

笑時は優しくうららの肩を叩く。


「それで、神木の爺さんは今も元気か?」「いや…。獣魔にやられて死んだ」

「…良い戦士じゃったの…」

「あぁ。俺たちは、爺さんの意志を受け継ぎ、恩返しのために、日記を見て旅をしている」

朝陽は、神木の老人の手記を笑時に渡した。

「ほう。獣魔による被害記録か…。よくもまぁ、こんなにまとめたもんじゃの。長い道のりになるぞい」

「俺の夢は、獣魔を出来る限り狩る事だ。その道しるべになるなら、長くても進んでやるさ」

朝陽の真剣な眼差しに、共に戦った事のある神木の老人を見る笑時。

{こ奴の目…。似ておるな神木の爺さんに…}

「良い志じゃな。まだ1時間は掛かるからゆっくりしておれ」

「そうだ、あんた20年前って言ってたけど、実は俺らより年上…!!」

ドォンッ!その時、朝陽の上半身がテーブルに押し付けられた!笑時の術式による攻撃のようだ。

「次に、年齢を聞いてみろ。お主を地中に埋めてやるぞ」

「す…いません…」


姿見地方にあるイコライズ本部…

イコライズ専用に作られた巨大な日本家屋だ。朝陽とうらら、そして雨潮に接触していた女性捜査官赤木が、反獣魔の青年の資料を見ていた。

「…神木朝陽という青年でまずは一人か…。情報によれば、あと三人…。なかなか直ぐには見つからないな…」

その時、部下である下田が声を掛ける。

「赤木さん、半獣の青年を知っていると名乗る者が訪ねてきました!」

「何!通せ」「はい!」

赤木のオフィスに入ってきたのは、雨潮だった。

「よう、赤木さん」「君は…森で会った大剣使い…」

「傘丘城下町の宿に半獣の男がいる」

雨潮は、写真を見せた。

「確かに、半獣の一人だ」「情報を提供したぞ。赤魔の居場所を教えろ」

雨潮は、恋人を誘拐した赤魔を追っていた時、赤木に出会った。半獣の青年の情報を提供すれば、赤魔の場所を教える約束になっていた。

「夢黒三崎の洞窟だ。つい最近判明したから、イコライズが既に調査している可能性もある」

「そいつらに言っておけ、手出ししたら斬ると」

雨潮は、赤木を睨みつけて去って行った。


「血の気が多い奴だ…!!」

赤木は、背後に殺気を感じる。


赤木の背後に、2m程はある屈強な男が立っていた。金髪のモヒカンヘアが特徴の鷲御電次わしお でんじだ。

「鷲御…!」「半獣の小僧を一人、逃したそうだな。それも故意に」

「その通りだ。彼は獣魔との戦闘中に傷を負っていた」

「万全な状態でフェアに潰そうって訳か?残酷なんだか、優しいんだか分からねぇなぁ」

「私も人間だからな。情くらいはあるさ」

「ムカつくぜ。お前のそういう思想。このガキは俺が潰すからな」

鷲尾は、傘丘城下町にいるらしい半獣の青年の写真を指差して言った。

「待て鷲御!私たちは警察だという事を忘れるなよ!お前のやり方は人々に恐怖を与えかねない」「ふん…。うるせぇ」

過去の失態を知っている赤木は、不安な気持ちを抱えつつ鷲尾を見送る。

{めんどくさい奴に嗅ぎつかれたな…}


草原道で地図を開き、夢黒三崎の場所を確認する雨潮。

{待ってろ…絵見…!必ずお前を連れ戻す!}

ついに、赤魔の居場所を知った雨潮は、復讐心を燃やして突き進む!!


一方、武器商人 笑時に武器強化をしてもらっていた朝陽とうららは…

傷が完治していない朝陽は、疲労からか眠っていた。

{朝陽…疲れているんだね…}

「彼は無理をする性格かい?」「え…?は…はい」

「お主も大変じゃの…。気が気でないじゃろうな」

「いつでも全力なんです…朝陽は。口も態度も悪いけど、正義感は人一倍で、いつも頑張っちゃうような人なんです…」

「刀の朽ち方を見れば分かるぞい。こんな戦い方をすれば、武器だけではすまないぞ。まぁ、師匠でもある神木の爺さんがいない今は、独学でやるしないがの…。そんな中でよくやっておるわ。おそらく、戦闘の中で応戦力を身に付けているんじゃろうな」

「応戦力…?」

「神木の爺さんは、そういう人じゃて。元々持っているセンスを引き出せるような戦術を使っているんじゃよ。それが応戦力じゃ。修行の中で自然に染みついたんじゃろ。お主らは」

「そうだったんですね…。この力…大切に使わないと…」


武器の様子を見ながら神木の老人を思い出す笑時。

{大したもんじゃな…神木の爺さんよ…}


程なくして武器の強化が終わる。ほぼ同じタイミングで起きる朝陽。

「で…できたのか?」「急に起きた!!」

「終わったぞい。試しに近くに岩場があるから、振ってくるといい」

「ありがとうな。笑時さん」「口の聞き方がマシになったの小僧」

「ありがとうございます!」「礼の方は試してからにしな」


笑時の言う通り、森の開けた所に出る朝陽とうらら。

3m程はある巨大な石がそこらじゅうに転がっていた。

「ここなら存分に試せそうだぜ!!」「そうだね!!」

朝陽は自分の生み出した必殺技「閃光拡線 落雷」を試す!

「落雷ぃぃ!!!!」

空に稲妻が走り、朝陽の刀めがけて落ちる。

バリバリバリィィイイイ!!!!

凄まじい雷音と共に、刃先に帯電することに成功した。

「おぉ!す…すげぇ…。俺の体じゃなく、刀の刃に落ちた…!これなら、体に負担が掛からねぇ!!」

うららも負けじとロッドを伸ばして、必殺技「結晶砕」を岩に放つ!

「精神結集……やぁぁぁぁ!!!!」

ドォォォォォンッ!!ロッドで岩を叩くと、粉々に粉砕した。

新技の名前を考えていなかったためしっくり来ないうららを弄る朝陽。

「やぁぁぁって…。名前考えとけよ。大事だろ?こういうの」

「う…うるさいな…。雷が落ちたから落雷って…朝陽だって大して考えてないじゃん」

「あぁ!?カッコいいだろ!落雷って!!」


2人を遠くから見守る笑時は、呆れながらも少しだけ嬉しそうな表情をしていた。

{強化は成功したようじゃな。しかしあの朝陽という青年…なんちゅう派手な技を…。さすがは神木の爺さんの教え子じゃの…。しかし、今の音で獣魔が寄ってくるかもしれんのぉ…}

「お主らその辺にしておけ!あまり音を立てると獣魔が寄ってくる。取り敢えず小屋へ入るんじゃ」


朝陽とうららを気に入ったのか、パンとスープを出す笑時。

「かつて共に戦った戦士の教え子じゃ。食べていきなさい」

「いいのか!?腹減ってたから助かるぜ!!」

「い…いただきまーす!」

腹が減っていた朝陽とうららは、パンとスープにがっついた。


気付けばあたりはすっかり夕暮れ時になっていた。

近くの森が怪しげに蠢き、暗闇に赤い斑点のような光が笑時の小屋を見つめていた。朝陽の放った落雷に気付き、獣魔が寄ってきたのだ。


食事を終え、洗い物をするうららが台所の窓からふと外を見ると、獣魔らしき赤い斑点と目が合う。

{…獣…魔…??}

目を凝らしてみていると、その斑点は瞬時に大きくなる!

次の瞬間、目の前にドリル型の尖った頭部を持った獣魔がうららを目掛けて飛んで来た!!!


ドリル型の頭部を突きつけ、真っ直ぐに向かってくるドリル獣魔!

ガラスを突き破り、うららは直撃する寸前で尻餅を付きつつも回避に成功した。


刀を抜いてドリル獣魔に走る朝陽!

「うらら!大丈夫か!!」「う…うん!!」

「笑時さんを連れて逃げろ!!」

うららは、笑時の元へ駆ける。

「笑時さん!」「……」

しかし笑時は俯いたままその場を動こうとしない。

「?」

朝陽がドリル獣魔に斬りかかるが、上手く回避されてドリル攻撃を受ける。

ギィイイイン!!!!

刀を持ち替えて防御しつつ、うららと朝陽を黙認する。

「何やってんだ!早く…!」


「やかましいわぁああああ!!!!!」

大声を上げながら地面に両手を付く笑時。

次の瞬間、ドリル獣魔の足下に魔法陣が広がり、凄まじい重力で地中深くまで埋め落とした!!ゴォォォォォォォッ!!!!!!

距離を取った朝陽は辛うじて魔法陣を回避していた。

「あ…危ねぇ…」

地面に空いた大きな穴を覗くと、ドリル獣魔が地中に埋まったまま絶命していた。

{しかし強烈な技だな…。一歩逃げるのが遅れていたら…}

「2人とも怪我はしてねぇか?」

「大丈夫だよ」

「わしもご覧の通りじゃ。すまんのぉ小僧。城を荒らされてムカついておった。その獣魔は埋めておくさね」

「手伝いますよ。食事のお礼です」

「そうかい?すまないね…」


程なくして…

朝陽が集めた薪を穴が塞ぐように並べる。

笑時の魔術で、薪を地面に埋めて穴を塞いだ。同じ要領で窓ガラスも塞ぐ。

「これで良いじゃろ。助かったわ。しかし随分長居させてしまったのぉ。お主ら泊まっていけい」

朝陽とうららは顔を見合わせ、朝陽が口を開いた。

「気持ちはありがたいが、これ以上迷惑をかける訳にもいかねぇよ」

「先を急ぐ気持ちは分かるが。戦士であっても休息は必要じゃよ。明日の朝出ていけばいいさ」

「そ、それじゃあ…泊まって行くか?」「すいません。お世話になります…」

朝日とうららは笑時の小屋に一泊することに決めた。


傘丘城下町…

石造りの閑静な街並みが特徴の町だ。オレンジ色の街頭が、夜道を照らしていた。そこに現れるイコライズの男性捜査官鷲御。

金髪のモヒカンが目立っていた。手には、半獣の青年と思しき写真を持っていた。雨潮の情報通り宿に向かってみる。


木でできた扉を開け、薄暗いロビーへ向かう。

小太りのおばさんが鷲御を迎えた。

「いらっしゃい。宿泊かい?」「人を探している」

写真を見せる。

「こいつを見たか?」

「いやぁ、知らないねぇ。地方から来る客が多くてね。いちいち顔なんて覚えてないよ」

「そうか。宿泊者がいる部屋を訪ねても?」

「おいおい。あんたにはデリカシーってものがないのかい?」

「…ふん」

ドォン!!!カウンターを思いきり叩き、受付のおばさんを睨みつける!

「嘘を…付いているな?さっきから目が泳いでいるぞ」

今まで感じたことが無い殺気に後退りをする。

「一歩引いたな?同様している証拠だ。こいつはどの部屋にいる?」

「2…202号室…です…」


202号室…

紅い瞳に、水色髪の青年が布団に入っていた。

{ん!?}

半獣のため、人一倍音を聞き分ける事ができる青年は鷲御の足音に気付く。

{部屋の前で止まった…。大柄だ…。受付のおばさんじゃない事は確かだけど…}

ドォォォォォォン!!!!

次の瞬間、鷲御がドアを蹴破って入ってきた!!


水色髪の青年は鷲御目掛けてナイフを投げる!

寸前で避けるが、再び目を向けると青年の姿は無く窓ガラスが開いていた。

「野郎!!」

状況を確認する為、窓に駆ける。青年は石造りの道を走っていた。

鷲御も窓から飛び降りるが、既に距離を離されていた。

「俺からは逃げきれんぞ?」

角張った銀色のブーツの脇のボタンを押すと、魔法陣が両足下に出現する!

「飛々術式ひびじゅつしき上じょう!!!」

次の瞬間身体が10m近く飛び上がり、青年との距離を一気に縮めた!

上空から青年を確認して、再び術を放つ!

「飛々術式 下げ!!!!」

猛スピードで青年の顔面を掴んで、地面に叩きつける!

ドォオオオン!!!


「一丁上がり…??」

土煙が晴れ、手元を見るが青年の姿は無い。

「!?」

真横に殺気を感じて顔を上げると、獣魔と化した青年が爪を立てていた。

次の瞬間、右目の視界が奪われる!青年は鷲御の右目を潰して真っ暗な森の中へ逃げた。右目を抑える手から血が垂れる。

「く!!…野郎…絶対に殺してやる!!」

青年の後を追い、森へ入った。


3時間後…早朝5:00

朝日が登り森を照らす。身支度を済ませた朝日とうららは、笑時に挨拶をして再び旅路に出る。

「優しい方だったね」「あ、あぁ。怖い魔術使われたけどな…」

「朝陽の態度が悪いからでしょ」「ち…うるせえ」

朝陽は老人の手記を開き、獣魔事件を参照する。

「この辺は何地方だ?」「えっと…。海が近いから…。傘丘あたりかな」

手記をパラパラとめくり、傘丘地方のページを開く。

「傘丘…。あった!…黒崎山村で獣魔による疫病被害…」「疫病…か…」

「疫病ってなんだ?」

「生命を蝕む、伝染病の事だよ。ほっておくと感染者が増える可能性もある」

「そいつはやばいな…。取り敢えず黒崎山に向かおう!」「うん!!」

2人は、黒崎山へ向かうために傘丘地方の森を西へ進んだ。


一方、鷲御から逃げていた半獣の青年は…岩場に腰を下ろして獣魔化を解いた。

{はぁ…はぁ…。あいつ…イコライズか…。何処で僕を知ったんだ…。しかし、適当に走ってきたけどここは…?}

休憩しつつ辺りを見渡すと、海が見えた。

{海沿い…。まだ傘丘か…は!!}

殺気を感じ、木陰に目を向けると、片目に包帯を巻いた鷲御が立っていた。

{あいつ…!もう追いついたのか…!!}

腰を上げて走ろうとした時、鷲御も同時に動き青年の前に立つ!

「逃がさないぜ…クソ獣魔が!!」

思い切り腹にパンチを食らわせて、顔面に回し蹴りを放って蹴り飛ばす!あまりにも強烈な一発に突っ伏してしまう青年。

「く…あ…」「まずは右目から潰してやるよ」

笑いながら近近付く鷲御。青年はあまりの恐怖に悲鳴を上げる。

「う…うわぁあああああ!!!!」


同族である朝陽の耳にも青年の叫び声が聞こえる。

「!!!」「どうしたの?」

「悲鳴が…聞こえた…」「え…。私には何も聞こえなかったけど…」

「悪い!少し寄り道する!!」「朝陽!」

朝陽は悲鳴がした方へ駆ける!


血がボタボタと垂れる。

半獣の青年は胸ぐらを掴まれて口から出血していた。

「仲間を呼んだのか?」「…どう…かな…」

「馬鹿にしやがって。苦しみを与えながら殺してやる!!」

青年の右目を潰そうとした時、石が鷲御の頭部に直撃する。

振り向くと朝陽が刀を振り上げていた!ビュンッ!!

振り下ろす寸前で避けて間合いを取る鷲御。

「おいおい、なんだお前」

青年の前で刀を構える朝陽。数秒遅れてうららも合流して青年に寄り添う。

「君、大丈夫?」「う…うん」

{朝陽と同じ赤い瞳…。この傷、あの軍服の男にやられたんだ…}


勘のいい鷲御は朝陽も半獣である事に気付く。

{赤い目。此奴も半獣と見た。つくづく運がいい!2人まとめてブチ殺す!}


鷲御の殺気を感じ取った朝陽は、うららに指示を出す。

「うらら!そいつを連れて離れろ!!」「分かった!」

うららは青年の肩を担いで離れる。

「逃すかよ!!!」

ブーツのスイッチを押し、ジェットを利用して猛スピードでうらら達に迫る鷲御!朝陽は高速技「雷」を放ち、鷲御の動きを止める。刀とブーツがぶつかり合った。

「てめぇの相手は俺だぁぁ!!!」

刀を思い切り振り上げると、鷲御に向かって雷が走る。ビリリリリリィッ!!

「く!」

側転で雷を避けるが、朝陽の猛攻は止まらない!しかし、警察の戦闘術を持つ鷲御は避けつつ朝陽の足を蹴る。体制を崩すした所に強烈なキックを放つ!

「ぐはぁっ!!!」

腹部に入り、5mほど飛ばされた。

仰向けになりながら鷲御の位置を見るが、姿が無い。正面に目を向けると、両足を向けて落ちてくる鷲御がいた!朝陽は咄嗟に刀で防御をする。

ドゴォォォン!!

刀の上に両脚で乗ってしゃがんだ体制になった。

「ほう…丈夫だな。だが、貴様の身体は違う!どこまで耐えられるかな?」

「かかったな(罠に)」「何…!!」

「閃光拡線…落雷ぃいいい!!!!」

笑時による武器強化で、刃に雷を落とせるようになったのだ!刃の上に乗っていた鷲御に直撃する。ドガァアアアン!!!!

「ぐぁあああああ!!」

高電圧で気を失い倒れてしまった。衝撃で胸につけていたピンバッジが取れる。


刀を納めつつ手に取ると、名前が彫られていた。

「鷲…御…電次…?」

以前、イコライズの女性捜査官赤木に言われた事を思い出す。

「赤木が言ってた鷲御には気を付けろって…こいつの事か…。確かに、手負いじゃなかったら、やられていたかもな…」


半獣の青年に引っかかれた右目に包帯を巻いていたが、血が滲んでいた。

朝陽は腕に巻いていた包帯を上から巻いてあげた。

「悪いな鷲御…。これぐらいしかやってあげられねぇ…」

胸にピンバッジを置いて、うらら達の元へ急ぐ。


うららと青年は、数百メートル程離れた渓谷にいた。顔に着いた血を川で落とす青年に話しかける。

「君…半獣なの?」

「うん。あいつらにバレないように隠してきたんだけど、結局この様だよ」

「そっか…」「助けてくれた男の人もそうなんでしょ?」

「そうだよ。彼もイコライズに追われてる」

「君は人間の様だけど…どうしてあの人と?」

「私の、命の恩人なの。獣魔から守ってくれた」「…勇敢だね」「うん」

程なくして、朝陽も合流する。

「朝陽!大丈夫!?」「あぁ。なんとか逃げ切ったよ」

「あ…あの。助けてくれてありがとう」

青年は深々とお辞儀をする。

「気にするな。間に合って良かったよ」「君たちは何者なの?」

「半分同族の俺が言うのも変な話だが、獣魔ハンターってやつだな」

朝陽の言葉を聞いて、青ざめて後退る青年。

「き、君たちもイコライズと同じじゃないか…!」

「一緒にしないでくれよ…。確かに獣魔を退治しているが、人間の心を持った半獣とは戦わないぜ?」

「ごめん…酷い事を言ってしまったよ…」「構わなねぇさ」

うららが口を挟む。

「君、これからどうするの?」

「奴らに見つかった以上、逃げ続けなきゃいけない…」

朝陽とうららは顔を見合わせる。朝陽は、青年に手を差し出す。

「来るか?道のりは険しいが、一人でいるよりいいかもしれないぜ」


身寄りがいなかった青年の心に朝陽の言葉が響いた…

手を握り返して、再び深々とお辞儀する。

「あ…ありがとう…。君たちの旅路に参加して、恩を返す事にするよ」


こうして、朝陽とうららの旅路に仲間が加わったのだった……






続く

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DIABRO-半獣の青年- むー @ayumucho

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