第3話 悪役令嬢の祖父は室内を説明します

「さて、今夜はこの辺で休もうかのぅ」


国を出てしばらく街道を走ると、目立たない場所に車を停めるアルフレッド。


キャンピングカー自体がそもそも目立つのだが、場所さえ良ければその辺は何の問題もないのだ。


「お爺様、野宿ですか?」

「ほほ、それもでも良かったがのぅ、ワシも歳じゃ。シャワーも浴びたいし野宿はせんよ」

「ですが、この辺に集落は見当たりませんし……もしかして、ここで寝るんですか?でも、さっき、シャワーと仰ってましたが……」


うーんと考え込む孫娘に微笑みつつ、アルフレッドは座席の真ん中のシートをズラして後方への入口を開ける。


少し小さいが、人が通れるサイズの扉を開けると、そこは別世界だった。


玄関先のようなそこは、明らかに屋敷レベルのサイズであり、車の体積を越えて存在していた。


ローザは、何度か外とその扉を確認して明らかに超過してるそれを見て驚きの表情を祖父へと向けた。


「お、お爺様、これは……」

「魔法じゃよ。とはいえ、ワシのではないがな」


ニコッと微笑むと、アルフレッドは車から降りて、ローザ側の扉を開けると「着いてきなさい」とローザを車体の後方へと案内した。


外側の後ろには先程より大きな扉があり、どういう仕組みなのかローザは理解の出来ないその未知に心を逸らせて思わず扉を開けていた。


すると、またしても想定外のことに絶句する。


先程の屋敷の玄関先やその先があると思っていたローザだったが、開けた先には見た目と同じくらいの広さの、でも寛ぎやすそうな空間がそこにはあったのだ。


「これは……先程とは違う場所なのでしょうか?」

「正しくは、ここが本来のこの乗り物の居住スペースじゃよ」

「では、先程の屋敷のような所は……」

「ふむ、では、ローザよ。今一度閉めてからもう一度開けてみるといい」


その祖父の言葉にローザは頷くと閉めてから、ゆっくりとドアを再び開ける。


すると、今度は先程の屋敷の玄関先のような場所に続いていたのだ。


「これは……伝説の空間魔法なのでしょうか?」

「惜しいのぅ、だが、近いとも言えるじゃろう」


孫娘の推理に微笑むと、アルフレッドは真実の一部を話すことにする。


「これはな、神の遺産……所謂アーティファクト、神器とも言われておるな。その力によるものじゃ」

「では、古代の文明の遺産ということでしょうか?」

「まあ、遠からず当たりじゃ」


真実とは少し違うが、孫娘が理解しやすいものが真実でいいだろうとアルフレッドはそう頷いた。


「凄いですね……流石お爺様です!」

「ほほ、まあの。ちなみにじゃ、前の扉もこの乗り物本来のスペースへと移動することが出来るのじゃよ」

「あの、何か条件とかがあるのでしょうか?」

「まあの。ワシかローザ以外は皆、先程の本来の空間へと直通じゃが、ワシとローザの魔力に反応して扉の出現場所が変わるのじゃ。その後は、何処に行くのかイメージすれば自然と行けるということじゃよ」


これも、少し説明としては不十分だが、アルフレッドは全てを語るつもりはなかった。


何故なら、謎とは、未知とは知らない方が楽しいとアルフレッド自身も経験によって知ってるからだ。


「なるほど……では、先程シャワーと仰っていたのは……」

「うむ、こっちじゃよ」


そう告げて再び扉を開けると、屋敷の玄関先のような場所が扉の先に現れた。


「住んでた屋敷に比べれば小さいがの、それでも一通り揃っておるし、シャワーも浴びれる。色々あって疲れたじゃろ?その後はゆっくり部屋で休むといい」

「あの、この乗り物はここにこのままで良いのですか?」


車の外を見てから、隠れてもやはり目立つそれを疑問に思って聞くと、アルフレッドはふと、悪戯を思いついたようにニヤリと笑って言った。


「そうじゃな、ではそれも教えるとしよう」


そう言うとアルフレッドは運転席へと移動する。


続いて外でそれを待っていたローザは、次の瞬間、本日何度目かの衝撃を受けるのだった。


「え、お、お爺様!どこに……」


先程まで目の前の運転席に座っていたはずのアルフレッドだが、何かをした途端にアルフレッドと車の両方が消えてしまったのだ。


「お、お爺様ぁ……」


少し不安になり、オロオロしているローザを見て、アルフレッドは流石にやり過ぎたと反省してすぐに姿を表した。


「お爺様!」

「すまんかったの」

「いえ……それより、今のは……」

「ふーむ、簡単に言うとこの乗り物はな、魔法で透明に慣れるんじゃよ」


抱きついてきたローザに、そう説明するアルフレッド。


このキャンピングカーにおいて、最も凄い点はきっと空間魔法のような別空間への移動だが、次に凄いのは完全隠蔽の機能だろう。


透明化など比べ物にならないほどに、気配も魔力も何もかもを隠すその能力は、運転中でも発揮出来るという優れもの。


その分、魔力の消費も大きいが、アルフレッドの魔力量は人外なのでその心配は不要だったのだ。


「さて、じゃあ、運転席から入るとしようかの。ローザや、乗ってからドアを閉めなさい」


その言葉に頷くと、ローザは助手席から乗り込んでドアを閉めた。


すると、次の瞬間にはキャンピングカーは世界との繋がりを断ったようにその場から姿を消したのであった。











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悪役令嬢の祖父は、孫娘の婚約破棄現場に乗り込んで連れ去る〜ワシの孫は世界一可愛い!〜 yui/サウスのサウス @yui84

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