第2話 悪役令嬢の祖父は孫娘と旅に出ます
会場から出ると、そこには馬車という単語の親戚辺りに位置しそうな乗り物が置いてあった。
異世界、日本ではよく知られてる乗り物。
所謂、キャンピングカーと呼ばれる大型の車がそこにはあった。
初めて見る乗り物にローザは興味津々のようで、ワクワクして瞳を輝かせていた。
そんな孫娘を優しく見つめてから、アルフレッドは助手席のドアを開けるとローザに言った。
「ほれ、ここから乗りなさい」
「お爺様はどちらに?」
「ローザの隣じゃよ」
「なら、いいです」
祖父が大好きなローザは、素直に頷くとそのまま初めての乗り物に乗り込む。
と……
「ふぁ……」
思わず出てしまった声にローザは恥ずかしそうにするが、それも無理からぬこと。
高級ソファーに負けず劣らずの座り心地と、抜群のクッション性は座った者を安らぎへと誘う悪魔のようにしか思えないだろう。
孫娘の姿にほっこりしながら、アルフレッドも座席に座ってエンジンをかける。
「お爺様、これからどちらへ?」
その孫娘の質問にアルフレッドはニッコリと微笑んで答えた。
「ローザの夢を叶えに行くんじゃよ」
「私の……それってもしかして……」
「言っておったよな?世界を見てみたいと」
ローザは、外の世界に憧れていた。
公爵令嬢であり、王子の婚約者であった頃には叶わないと諦めていた夢。
この国以外の世界を見たいと、アルフレッドに語ったことがあったのだ。
「お爺様……覚えていてくださったのですか?」
「当たり前じゃよ。ワシがローザとのことで忘れたことは1つもないわい」
「まあ、それ以外は忘れがちじゃがな。特にバカ息子とか」と、笑うアルフレッドの言葉に嬉しそうに微笑むローザ。
昔から、両親よりも誰よりも祖父であるアルフレッドだけが、ローザの心の支えだったのだ。
厳しい教育も、孤独な気持ちも、祖父と居る時は嬉しさへと変わる。
そんな祖父が、ローザは大好きなのだった。
「さて、騒がしい連中が来る前に行くとするかのぅ」
「はい、お爺様」
所謂、AT――オートマ車のこの車は、日本とは違い、魔力という力で駆動している。
ギアをP――パーキングから、D――ドライブへと動かして、アクセルを踏むと進み始める。
馬を使わない乗り物に、ローザは子供のようにはしゃぐが、そんなローザのためにアルフレッドは中央のナビ画面を操作して、音楽を流す。
「聞いた事ない曲ですね」
魔力を使って動く魔道具というものが、この世界にはある。
そこに、音楽を聴くものも存在するし、ダンスなどでも色んな曲を聞くことになる。
公爵令嬢であり、王子の婚約者だったローザはその手の知識に明るかったが、そんなローザが知らない曲に興奮を隠せないようだった。
ちなみに、その曲はこの世界のアーティストが歌った曲ではない。
異世界は日本の、名曲と呼ばれるそれを、ジャンル問わずに流す。
言語がそもそも違うので、日本語すら、違う国の言葉に聞こえるローザだったが、知らない曲に、知らない言葉、知らない文化と、未知に惹かれているのだった。
そんな孫娘の姿を横目に見ながら、驚く王都の住民に手を振り、夜の道を進むと、しかして、王都の公爵家へと辿り着いた。
「あの、お爺様?」
「なあに、ワシも歳じゃからな。もうこの国には戻らんし、使用人に別れを告げんとな」
そう言う、祖父の言葉の真意をローザはすぐに理解する。
必要な物があれば、取ってきていいし、知ってる使用人で別れを告げたい者がいたら好きにするといい。
そんな、気遣いをローザは微笑んで受け取ると、門から中に入る。
アルフレッドとローザの突然の来訪。
ローザに関しては、もう戻ってきたのかと事情を知らない使用人達が驚くが、アルフレッドが執事長に事情を話すと、執事長はすぐに納得する。
前々から、このような事態が後にあると、聞かされていた執事長。
まさかと思っていたことが起こり、驚きつつも、長年仕えた主の慧眼に心から驚くと共に、仕えた年月が間違いじゃなかったと思わされたのだった。
ローザの荷物は、事前にある程度アルフレッドが用意をしており、キャンピングカーの後ろに既にローザ用の荷物置き場もあるが、ローザは祖父に買って貰ったものだけを纏めると、数人の使用人に挨拶をしてから、すぐに車に戻った。
「もう良かったのか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか、では行くかのぅ」
車を走らせて、そのまま近くの門へと向かう。
突然の謎の乗り物に警備の騎士たちが驚く中、窓から片手を振っている人物を見て納得する。
アルフレッド・アルベルト。
公爵家の一柱であり、かつてこの国の騎士の頂点に君臨していた圧倒的な強者。
剣の腕や身体能力だけでも、その力は群を抜いており、その上魔法まで使えるという規格外の存在。
かつてアルフレッドの非常識さが騎士団を振り回していたのを年配の騎士達は良く理解しており、すんなりと門を通ることが出来た。
「ふむふむ、バカ息子より賢いのぅ」
さり気に酷いことを言うが、アルフレッドとしてはその息子の教育は間違って無かったと思っている。
元々は、常識ある公爵家の長男だったのだ。
まあ、その後で嫁に迎えたローザの母に毒されて、すっかりアホ息子へと変わり果ててしまったが。
アルフレッドとしては、孫娘を苦しめたことは許すつもりはないが、それでも、あの程度の折檻で済ませたのも温情だったのだ。
そうして、2人は王国を出て、街道を進むのだった。
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