悪役令嬢の祖父は、孫娘の婚約破棄現場に乗り込んで連れ去る〜ワシの孫は世界一可愛い!〜

yui/サウスのサウス

第1話 悪役令嬢の祖父は孫娘を救います

「ローザ!貴様との婚約は破棄する!」


意気揚々と、そう告げるのは、この国の第2王子、レグスだ。


場所は、学園の卒業パーティーの席でのこと。


周りは、いきなりのことに驚いて、静観しているが、そんなことはお構い無しにレグスは1人の令嬢に続ける。


「貴様のような悪辣な女に、この国の王妃など務まらない!更に、エルザにした数々の非道、決して許せるものではない!」


そう言って、隣にいる庶民の女を抱き寄せるレグスは、勝ち誇ったような顔をしていた。


彼の周りの取り巻きも、皆口々に、目の前にいる1人の令嬢を責めてるいるが、その令嬢である彼女――第2王子レグスの婚約者の、アルベルト公爵家の長女、ローザ・アルベルトは黙ってそれを聞いていた。


いや、正確には何も言えなかったのだ。


確かに、最近婚約者がその庶民の女を寵愛していたことは知っていた。


とはいえ、まさか、冤罪を吹っかけてくるとは思わなかったのだ。


反論しようにも、会場の空気も、完全に彼女が悪者のようになっていた。


でも、家族なら或いは……そう思っていた、ローザの期待はすぐに裏切られた。


「お前をそのような娘に育てた覚えなどない!この馬鹿娘が!貴様とは縁を切る!勘当だ!」


父のそう責めるような口調と、縁を切るという言葉、そして、母の冷たい瞳がローザの心に悲しみを募らせる。


悔しくて、悲しくて、誰も味方が居なくて、怖くて声が出せずに、断罪されるのを黙って見ているしか出来なかった、その時であった――


「こ・ん・の……バカ息子がぁ――!」

「げふっ!」


――突然、バァン!と開かれた扉から、弾丸のように飛来した人影は、そのままローザの父であるアルベルト公爵の顔面をドロップキックをして盛大に吹き飛ばしたのだった。


いきなりのことに目を白黒させるローザだったが、その人物が誰かはすぐに分かった。


「お……お爺様!」


白髪の如何にも紳士な渋い男性、その正体は、ローザの祖父にして、元アルベルト公爵家の長である、アルフレッド・アルベルトだだった。


突然のことに、警備兵もどうしていいか、対応に苦慮しているが、いきなりドロップキックをくらったアルベルト公爵は気絶していた。


そんな彼の胸ぐらを容赦なく掴むと、左右に往復ビンタをして無理矢理意識を覚醒させる、アルフレッド。


その、鬼のような所業に、断罪者である王子もビビって何も言えなかった。


「ち……父上……」

「なーにが、縁を切るだ!冤罪なんぞで娘を見捨ておって!それでも父親か!」

「で、ですが、殿下が――」

「シャラップ!」

「ぐぼっ!」


ガンガンと容赦なく顔面に拳を叩きつける、アルフレッド。


その鬼のような所業は、アルベルト公爵の顔面が原型を留めなくなるまで続き、次にアルフレッドは力なく倒れる息子を放り出して、ギロりと馬鹿王子を睨みつけた。


「殿下、その娘を娶るならご自由になさってください。ただ――ワシの可愛い孫娘にこのような不当仕打ち、ワシは許しませんぞ」

「だ、だったらなんだと言うのだ!」


その鬼のような形相のアルフレッドにビビりながらも、なんとか強気な発言をする王子にアルフレッドはチラリと黙って静観している国王陛下を見てから言った。


「本来なら、ワシの可愛い孫娘を不当に貶めたことを後悔させながら地獄に送りますが……それをしても、孫娘は悲しむでしょうからな、ワシは孫娘と共に国を出るのことにしましょう」

「ちょ……!待て!アルフレッド!」


好都合と思っていたのは馬鹿王子だけのようで、待ったをかける国王陛下。


ギャラリーも、皆がそれは不味いと思い始める。


アルフレッドは、かつて、アルベルト公爵家の長だった頃、騎士団長も兼任しており、その力は他国にまで轟くほどの実力だった。


王国の最終兵器とまで言われた、その圧倒的な力が、このようなことで失われる――到底見過ごせないが、力で止めることは叶わない。


何故なら、アルフレッド単体で、この国の人間を皆殺しにも出来る程だからだ。


だから、慌てる国王に大してもアルフレッドは特にリアクションを見せずに、孫娘であるローザに近寄るとそっと頭を優しく撫でて好々爺のごとく笑みを浮かべた。


「すまんな、ローザ。そんな訳で、悪いがワシと共にこの国を出てくれんかのぅ?」

「お爺様とでしたら、喜んで」


実は、大のお爺ちゃん子のローザは、その提案にすぐに頷く。


そんなローザを「いい子じゃのぅ」と優しく愛でてから、アルフレッドは目付きを鋭くして、国王陛下に向けて一言発した。


「陛下、この国への義理は貴族時代に果たしました。追ってくるようなら容赦はしませんぞ」

「……分かった」


本気なのが分かったので、国王は刺激をしないようにそう頷いておく。


「ち、父上!今すぐこいつを捕らえて打首にしてください!」


――ただ、状況を分かってないのが1人。


国のことを知ろうとせず、好き勝手やってきた馬鹿王子は、そう無謀なことを口にするが、国王はそこで自分の子供への甘さを痛感させられて項垂れてしまう。


「お前は全く……もういい、レグス、お前は廃嫡だ」

「なぁ……!?何故ですか!?」

「私の甘さがお前をそうしてしまったが……アルフレッドが本当に敵になるのは不味い。だから、私はお前を切る事にする」

「そ、そんな……」


後ろでそんなやり取りしている中、ローザとアルフレッドは悠然とその場を後にする。


「お爺様、よろしいのですか?」

「なに、可愛い孫娘を無碍にする国に価値はない。それより、いきなりすまんかったな」

「いいえ、お爺様が助けに来てくださって、凄く嬉しかったです」

「そうか、本当にいい子じゃのぅ」


和やかな会話をしながら、会場を出ていく2人を誰も何も言えずにいた。


そうして、この日、王国から最大戦力が失われたのだった。









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