謎の追跡者は、こう言った「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜wwww」

@HasumiChouji

謎の追跡者は、こう言った「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜wwww」

 冬のボーナスが出て最初の日曜日、自宅から電車で1時間弱の政令指定都市に遊びに行き……結局、帰りは終電になった。

 電車の中には、ほとんど人が居ない。

 寝過したらマズいなと思いつつ、つい、ウトウトしていると……。

「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜」

 近くの席から、そんな声が聞こえてきた。

 おそらくは、二十代から三十代の男の声。

「マスクつけてる奴から先に死ぬんじゃないですかねぇ〜」

 まだ、例の伝染病は流行しているのに、呑気なヤツも居たものだ。

「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴から先に死ぬんじゃないですかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴から先に死ぬんじゃないですかねぇ〜……」

 同じ事を何度も繰り返している。

 誰に話しているのだ?

「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜」

 その男は……目の前に居た。……おい……俺に話してたのかよ? ……って何故、俺に?


 黒いジャケット。

 黒いシャツ。

 黒いズボン。

 黒いビニール傘。

 5分後には、どんな男だったか忘れていそうな……これと言った目立った特徴の無い男。

 ただ、ここ数日、気温が低い快晴続きなのに、秋口のような格好で傘を持っているのと、この御時世にマスクをつけていない点を除けば……。

「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜」


 俺は席を立った。

 男は追って来ない。

 助かった……。

 俺はトイレに入り……。

 待つ。

 待つ。

 更に待つ。

 そろそろ、自宅の最寄り駅だ。

 トイレのドアを開ける。

 助かった……。居ない……。

「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴から先に死ぬんじゃないですかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴から先に死ぬんじゃないですかねぇ〜……」

 その声は、段々大きくなっていった。

 ヤツは、隣の車両から……ゆっくりと俺の方に向かって歩いて来る……。

 だが、ギリギリで、電車が自宅の最寄り駅に到着。

 俺は、電車を飛び降りた。


 走った。

 走った。

 更に走った。

 改札口に辿り着いた。

 改札口を出た瞬間……背後から……。

「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴から先に死ぬんじゃないですかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴から先に死ぬんじゃないですかねぇ〜……」


 背後から声が聞こえ続ける。

 駅前の交番に駆け込もうとしたが……灯りが点いていない。

「只今、職員はパトロール中です」

 あまりにも非情な一言が書かれた貼り紙が有……そうだ……交番は……もう1つ有った。

 駅の反対側の口に。

「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜」

 背後を見る勇気は無い。

 走る。このままでは倒れそうな気がするが、走る。

 息苦しい。原因は……マスクだ……。マスクを外し捨てる。

 駅と反対の方向へ。

「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜」

 最初の交差点を曲がる。そして……なるべく「奴」を見ないようにしながら、駅の方向へUターン。


「助けて下さいっ!!」

 こっちの交番にはお巡りさんが居た。

「どうしたんですか?」

「変なヤツに付き纏われてて……」

「えっ?」

「助けて……」

「あの……その変なヤツ……どこに居るんですか?」

「えっ?」

 外には誰も居なかった……。そう言えば……あの声も、いつの間にか消えていた。

「あの……この御時世なんで……なるべく、マスクつけてもらえます?」

「は……はい……」


 ようやく、今住んでいる賃貸マンションに辿り着き……。

 おかしい……部屋の電灯を消し忘れていたっけ?

 いや……もっと変だ……。玄関の鍵までかけ忘れ……。

 嫌な予感がした。

 自宅の玄関のドアを開けるのに……ここ十数年で最大の勇気を振り絞る必要が有った。

「マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴から先に死ぬんじゃないですかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴なんて馬鹿っすよねぇ〜。○○ウイルスなんてホントに居るんすかねぇ〜。マスクつけてる奴から先に死ぬんじゃないですかねぇ〜……」

 その声は……俺の部屋の中から聞こえてきた。


 翌日の朝……隣の部屋の住人が、気を失なっている俺を発見した。

 冬の夜に野外も同然の場所で倒れていた俺は……例の伝染病では無いが、見事に肺炎になり緊急入院する羽目になった。

 病院でも、夢の中であの声を聞き、絶叫と共に何度も目を醒した……。同じ病室の別の患者からは苦情を言われているようだ。

 そして……退院して自宅に帰ると……あの男が居て……延々……あの台詞を言い続けているのでは無いか……?

 その恐怖に……今にも押し潰されそうになっている。

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