転生させたら頭がおかしくなりそうです

宮脇シャクガ

転生させたら頭がおかしくなりそうです

 「やっちまったな・・・。首でも吊るか。」


中距離トラック運転手の山村忠直(43)は頭を抱えていた。

「親には頼れないし、家族には迷惑をかけないように離婚してもらおう。」

親はいわゆる団塊世代で、引退後の今もアルバイトのようなことをしているが、

何もなければ働かなくても食っていけるだけの貯えはある。

頭を下げて正直に話せばいくらかでも都合してもらえるだろうか。

もちろん、お金で許してもらえるとは思ってはいない。

相手方が納得するまで何年かけても償うしかないか。


一瞬だけ見えた人影は女の子の様だった。

娘も大きくなればああなっただろうか。

人殺しの子どもと言われるよりは母子家庭の方がいくらかましだろう。


瀬戸大橋と明石海峡大橋を使う辺りをぐるぐると回るだけの毎日。

大きなトラブルと言えば山道で鹿と接触したくらい。

そんなつまらないけど、なんとかやっていける日常は終わった。


絶望と諦めに支配されながらトラックの左前面を見ると、明らかにおかしい。

人を轢いたどころか、かすった形跡すらない。

奇跡的にトラックの下に潜り込んで無事でいるかもしれないと思って、下をのぞき

込んでもいない。

やっとのことで正気に戻って、110番と119番に電話をかけようと思ってもつながらない。

良くわからない何かが起きている。


時計も見ずに必死だったから体感で30分くらいのことだと思う。

必死に事故の相手を探していると交通事故を起こしてしまったストレスか、急に周りが光に包まれて、脳卒中やったっていう友人はこんな感じっていってたかなあと意識を失った。



昔はまっていたゲームの女神みたいな人が言うには

「あなたがさっきロードキルした人物は転生することが決まっていました。」

「今後もあなたが交通事故を起こした相手は転生することになっています。」


後ろの方でレア実績達成とか聞こえたような気がするけど聞かなかったことにしよう。


「ちなみに、以前接触した鹿、あれは大物になりましたよ。日本人の3割以上が知ってる

某アニメ映画のアレのモデルになりましたね。」


それではもう会うことはないでしょうと言いながら女神は現実に戻してくれた。

事故が起こったという事実は消えて、何事もなく客先に到着したところからになるらしい。

ひとまず、人生が終了しなかったことに感謝しつつ、一日が終わった。



が、もちろんそれだけで終わるはずもなく、しばらくしてから立て続けに転生案件が入った。

体感でいうと1週間で10人以上。

さすがに頭がどうにかなりそうだった。

接触した感触、はねた感覚、タイヤで乗り上げたという衝撃、重みで潰したという手ごたえ。

どんな記録にも残っていないけど確かに頭の中に残っている。

「俺が前世でどんな悪いことをしたっていうんだ。」

誰にも言えない悩みはある。しかし、女神の加護のせいか、おかしくなることも、不健康になることも酒やタバコ、クスリに溺れることすらなかった。


そして、そんな非日常もいつか慣れてきたとき、俺は一つの誓いを立てた。

俺が転生させた名前も知らない人達よ、あなた方がこの世にいたことを決して忘れない。




――どこか遠くの良くわからないところで――

「まさか、キャラクターが自分の運命を選べるとでも?」

と女神のアバターの彼は呟いた。



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