主人公の住む近江の町に大蛇が出た。そんな噂を聞きつけて彼が現場に赴いてみればそこに居たのは巨大な竜だった。
見つめ合ったのち、恐れることなく踏み越んで、踏み越えた主人公。その夜、彼の現れた美しい少女。彼女が語る「依頼」とは…?
題名の通り、物語は藤原秀郷という人物の大ムカデ退治を描いた(翻訳した?)もの。
フジワラノヒデサトと言われるとわかりませんでしたが、「俵藤太」と言えば某英霊ゲームの姿を想像できる方もいらっしゃるのでは?
彼がその名前で呼ばれるようになる逸話を古風な文体で綴った作品です。
昔話ということで、難しい単語、時代背景が読む側に求められるのだろうな…と、身構えていたのですが、きちんとその辺りには注釈が添えられ、知識を補完してくれています。
むしろ、口語含め過度に現代語訳しないことが物語の雰囲気を作り上げていて、滋賀県あたりが近江と呼ばれていたかつての日本を想起させてくれました。
その上で読む人にわかりやすく。そんな作者様の意図が感じられました。
そうして臨場感のある物語の世界で、人の身である主人公が、山を7巻もする大ムカデにどのようにして挑むのか。なぜ、挑むのか。主人公の前に現れた少女の正体とは。
短編と言える長さの英雄譚。歴史物だと敬遠せずに、ぜひ、その眼で確かめてみてください。
かつての日本を生きた傑物の逸話、必見です!
藤原秀郷というと、平将門を討った男として知られています。
しかし――その経歴には謎に包まれている部分が多く、その平将門追討以外で知られていることは、蜈蚣(ムカデ)退治の伝説ぐらいです。
本作は――その蜈蚣退治にスポットを当てつつ、藤原秀郷という男が、いかなる人物かということを描いています。
そういう横糸を張りつつも、藤原氏の祖・藤原鎌足との縁という縦糸も張られ、綾なす物語は、蜈蚣討伐というクライマックスを迎え――何故「俵藤太」と称されるようになったのかを述べ、そして最後に――その俵藤太が東国において「強敵」と相対する運命にあるということを示唆して、終わりを告げます。
全五話、7000字弱という短編ですので、それほど構えることも無く、古代の英雄の活劇と運命を、ご覧になってはいかがでしょうか。