ソロモン

 体に突き刺さったキマリススラッシャーを掴んだバアルイヴィルダーは、力づくで抜き去ると響に向かって斬りかかる。しかし響も大剣を手に取ると。防御の体勢を取って攻撃を防ぐのだった。

 後ろに下がった響はすぐさま大剣を横一文字に振りかぶるが、その一撃をバアルイヴィルダーはキマリススラッシャーを両手で持って防御する。

 一進一退の状態となった二人であったが、バアルイヴィルダーの向こう側まで見える傷口が傷んだのか、片手で抑えてうずくまってしまう。


「でやあああぁぁぁ!」


 それを見て好機と捉えた響は、勢いよく前に走り出すと大剣を上に振り上げて、一気に斬りかかるのだった。しかしそれはバアルイヴィルダーの罠であった。

 バアルイヴィルダーはニヤリと笑うと、キマリススラッシャーを構えて響の攻撃を容易く回避する。そして響の喉に向けてキマリススラッシャーを突き出した。

 襲いかかるバアルイヴィルダーの攻撃を、響は咄嗟に体をひねることで回避しようとするが、紙一重で攻撃は回避できず首を軽く傷つけるのだった。


「っく……」


 首筋を襲う痛みに響は苦悶の声を上げてしまうが、それを耐えきって強烈な横蹴りを、バアルイヴィルダーの腹部に目掛けて叩き込むのだった。

 バアルイヴィルダーも即座にキマリススラッシャーの腹で防御するが、響の一撃を完全に防ぐことはできず、そのまま後方にふっ飛ばされるのだった。そして吹き飛ばされた衝撃でバアルイヴィルダーは、キマリススラッシャーを手放してしまうのだった。

 すぐさま立ち上がるバアルイヴィルダーであったが、手にキマリススラッシャーがないことに気づくと、腰のデモンギュルテルに装填されているイヴィルキーを二度押し込むのだった。


「後少しで私の悲願が達成されるのだ! お前のような子供に邪魔されてたまるものかぁ!」


〈Finish Arts!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと、バアルイヴィルダーの足に目がくらむほどの雷撃が充填される。そしてバアルイヴィルダージャンプをすると響に向かって飛び蹴りを仕掛ける。

 それを見た響は咄嗟に腰のデモンギュルテルに装填されているイヴィルキーを二度押し込むのだった。


〈Over Finish Arts!〉


 デモンギュルテルからの起動音は、バアルイヴィルダーのものと比べると派手な起動音であった。そして響の足に向かって七つの光が集まっていく。

 そして飛び蹴りを仕掛けようとするバアルイヴィルダーに向かうあうように、響も空高くジャンプして飛び蹴りを仕掛けた。

 同時に飛び上がった二人はそのまま飛び蹴りを放ち、両者の姿はまるで鏡写しのようになり、拮抗するのだった。


「でりゃあああぁぁぁ!」


「はあああぁぁぁ!」


 すべての力を振り絞るように叫ぶ二人、しかし少しずつ状況はバアルイヴィルダーの優勢になっていく。だが負けられないと心に誓った響は、全力を超えるように力を出し切っていく。僅かながらであるが響の腕から血管が切れ血が漏れ出し、時には響の目の中の血管が切れ目を赤く染めていく。

 響が命をかけた全力により、徐々に状況は響の優勢になっていく。そしてバアルイヴィルダーはゆっくりとだが体勢を崩していく。


「これで終わりだあああぁぁぁ!」


 響の叫び声と共に、両者の拮抗は砕けて響が圧倒的に有利になっていく。そしてその全力の一撃はバアルイヴィルダーの腹部に叩き込まれるのだった。

 背中から床に叩きつけられたバアルイヴィルダー、全身の力が抜けて四肢を投げ出すように倒れ込む響、どちらが勝者か第三者が見ても分からなかった。


「う……が……た……た……な……きゃ」


「い……た……」


 立ち上がろうとする両者であったが、二人共重傷で起き上がることも簡単にできなかった。それでも全身の力を振り絞って立ち上がろうとする。

 先に立ち上がっていったのはバアルイヴィルダーであった。それを見た響は急いで立ち上がろうとするが、膝を立てた瞬間に全身から力が抜けて倒れ込んでしまう。


「うう……くそ……まだだ……」


「勝った、私の勝ちだ!」


 倒れた響を見てバアルイヴィルダーは歓喜の声を上げる。しかし喜びに満ちた彼の体に異常が起きる。


「んんん? 何だ……これは?」


 それは背中から生えていた蜘蛛の足が崩れて砂になった音であった。地面に落ちた砂を不思議そうに見るバアルイヴィルダーであったが、連鎖するようにバアルイヴィルダーの体が砂になり崩れていく。そして砂の中からは埋もれたイヴィルキーがあった。


「なぜだ私が勝ったのでは……な……い……の……か……?」


 そしてバアルイヴィルダーの体から全ての砂が崩れていくと、人間の姿になり老化したクスィパス・メンダークスが立っていた。

 しかしクスィパス・メンダークスは老化した体に耐えきれなかったのか、力なく膝を付いてしまう。それを見た響は様変わりした彼の姿に、恐怖しか感じなかった。

 老人と化したクスィパス・メンダークスの姿は、身の丈以上の力を望んだ者のの末路だったのだろう。ついに意識を失って動かなくなるのだった。


「何だったんだ……?」


 何とか立ち上がるまで体力が回復した響は、クスィパス・メンダークスの様子に注意しつつも椿の元に駆け寄っていく。そして椿を縛り付ける縄を、響はイヴィルダーの常人を超えた力で無理矢理解くのだった。


「大丈夫椿君?」


「はい……大丈夫です。先輩は?」


「平気さ!」


 心配そうな椿を安心させるために、響は右手を上げるとサムズアップを見せるつける。それを見た椿は柔らかく微笑むのだった。

 椿は椅子から立ち上がろうとしたが、緊張で立ち上がれずにそのまま響の胸元に倒れ込んでしまう。響は咄嗟に椿の体を支えるが、異形であるイヴィルダーの体のために、すぐに椿から離れようとした。しかし椿は小さく指で離れようとする響の体を掴むのだった。


「離れないで……ください……」


「ん、わかった」


 そう言うと響は腰のデモンギュルテルからイヴィルキーを抜き取り、変身を解除するのだった。そして背中を向けると、屈んで椿をおんぶしようとする。

 椿は響の好意を受け取って恥ずかしそうに、響の背中におんぶされるのだった。

 響は椿をおんぶした状態で、散らばったイヴィルキーを全部回収すると椿を安全な場所に急いで連れて行こうとした。

 その時響は戦闘の疲れで気づけなかった、背中に当たるスマートフォンとは違う硬い四方形の物質の感触に。




 椿を安全な場所に連れて行ったその後、響は椿のスマートフォンを借りて千恵に急いで連絡をするのだった。

 もっとも電話をかけてきたのが響だと知った千恵の反応は、怒りに満ちた叫び声であった。それを聞いた響は心配をかけたことに全力で謝罪をするしか無かった。

 すぐに処理班が千恵の指示のもとに向かい。クスィパス・メンダークスの身柄を確保するのだった。しかし歴戦練磨の処理班も、老化したクスィパス・メンダークスの姿に驚きを隠せなかった。

 そして七十二個のイヴィルキーと、響が奪い取ったセブンデモンイヴィルキーは、全てのイヴィルキーに響との繋がりがあり契約下にあることが分かり、そのまま響の元に保管されることが決定した。




 クスィパス・メンダークスの事件が収束して一週間後、響は自室のベットに寝転がって休んでいた。そしてふと、キマリス達と交わした契約を思い出し、キマリスを呼び出す。

 するとキマリスが実体化して響の隣に寝転がる。


「なあキマリス? 結局契約は本気なのか?」


「さあどうだろうね? ただあのときの言葉は響に本気にさせるための言葉だった、とだけ言っておくよ。ああそれと、おめでとうソロモン王」


 キマリスは響から煙を巻くように小さく笑いながら、響の胸元に顔を近づけるとそのまま目を閉じてしまう。

 そんなキマリスの様子に響も目を閉じて、ゆっくりと脱力するのだった。

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魔神との契約者(イヴィルダー)~悪魔と契約したら同じ契約者と戦うことになりました~ 高田アスモ @ru-ru

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