第18話 美少女王子の異母妹4
数日後、クロード様が王宮にやって来ました。
指定された場所はあの初めて会った庭でしたので、少し久しぶりに足を向けました。
私が学園に上がってからあまり来られなくなっていたことと、最近の騒動でクロード様達も王宮に近寄ることすらなくなっていたことで間が空いていたのです。
そこで既に待っていて下さったクロード様と2人で庭を散歩することになりました。
侍女達にも下がって貰っているので本当に2人きりです。
何だか、ドキドキしました。
「昔、セシルがここを天国みたいって言ったの覚えているか?」
「はい。今でもそう思っておりますから」
「そうだな。ここに居る間は俺達は何も考えずに守られていれば良かった。フレデリック殿下やステファニー姉様がいつだって見守って、俺達に及ぶ悪意を全て事前に排してくれていたから、ただ笑っていられたんだ。
……楽しかった。幸せだった。世界が明るく見えた」
そう。ここに来る時間さえ確保出来ていれば、他の時間がどれだけ灰色でも耐えられました。
ここに来る為だけに私は生きていられたのです。
「いつまでもこの小さな世界に居たいとそう願った」
いつまでもあるとそう思っていました。
「だけど、俺達はもう巣立たなければいけない。フレデリック殿下とステファニー姉様はもう俺達だけを庇護して居られる立場ではなくなるんだ。俺とミュリエルの婚約はそういう意味もある」
巣立つ?
それは、どういう意味なんでしょう。クロード様までお母様達のように居なくなるのでしょうか。
「ミュリエルはヨアンと共に行くことを選んだ。そうするとセシル、君が一人残ることになる」
残る……一人ぼっちになる、ということでしょうか。それは……
「だからセシル、俺と一緒に来るか?」
「え?」
クロード様と、一緒に?
「昨日の質問。王族と婚姻を結んだら幸せになれないのか。そんなのは俺にも誰にも分からない。だけど、幸せになろうと努力することは出来る。セシルが俺と一緒に幸せになれるよう努力してくれるのなら、俺の手を取れ。
俺はステファニー姉様と違って何でもは出来ないけど、凡人は凡人らしく努力するよ。それでも良ければ俺と幸せな家庭を作ることを、ここのような小さな天国を作ることを一緒に夢見てみよう」
幸せな家庭。小さな天国。
私にそんなもの作れるでしょうか。
自信はありません。
でも、クロード様なら、クロード様と一緒になら作れる気がします。
だって、クロード様の傍はいつだって幸せですから。
だから私は……
建国パーティーで、フレデリックお兄様の立太子が宣言されました。
フレデリックお兄様は見違える程に大人の男性のようになられていて、皆さんとても驚かれておりました。
私も初めて見た時はとてもとても驚きました。双子ではないかと疑ってしまったくらいです。
ステファニーお義姉様はいつも通り無表情で大した反応は見せていませんでしたので、知っていたのかもしれません。
お陰様で私とクロード様、ヨアンとミュリエルのペアで入場したことは忘れ去られたかのように思えました。
後でクロード様から聞いた話ですと、“フレデリックお兄様のステファニーお義姉様への溺愛が転じて弟妹に王族をあてがった説”と“ステファニーお義姉様の実家の権力が弱いので弟妹を王族と婚約させることで補強した政治的判断説”が主に囁かれていたらしいです。
ですが、そのような噂が私の耳に入らないくらいにはフレデリックお兄様の見た目の変わりようが話題をさらっておられました。
女性は美少女派と美青年派とどっちも最高派に別れてはおりましたが、概ね良い反応でした。
しかし、男性方はかなり悲壮な空気を纏っておられ、少し怖かったです。
ある程度歳を重ねられた方々はむしろ安心した空気を纏っておられましたので対比が凄かったです。
本当にフレデリックお兄様は何をされても、とても影響力のある方だと再認識しました。
翌年にクロード様が入学して来た時も、もっとクロード様の周りは人が集まるかと思っていたのですが、クロード様曰くそんなことは有り得ないそうです。
フレデリックお兄様がステファニーお義姉様と自分以外の誰一人とも踊らせないくらい独占欲が高いことも溺愛していることも皆分かっているので、不興を買う方が恐ろしいという空気になっているそうです。
「巣立つ覚悟だったけど、フレデリック殿下もステファニー姉様も優秀過ぎて、俺達程度の庇護は息をするくらい当たり前にやってしまうんだ。多分俺達は一生あの2人の庇護下で生きていくんだろうな」
何だか、悲しそうな、それでいて嬉しそうな、複雑な表情でクロード様は笑いながら言いました。
「俺達とクリストファー殿下の違いは、天才が兄妹を気に掛けて自発的に手を伸ばす人だったかどうかだろうな。ステファニー姉様が優しく愛情深い人で本当に良かったよ」
私はクロード様と婚約しても、ステファニーお義姉様と話したことはありません。
だからステファニーお義姉様がお優しい方なのかどうかはよく分かりません。
勿論、色々と手回しをしていることはクロード様から聞いていますが、実際に見たことがないのでよく分からないのです。
ですが、クロード様とミュリエルが本当にステファニーお義姉様を尊敬し、そしてステファニーお義姉様からあらゆる意味で離れられないことは理解しています。
けれどいつか、クロード様がステファニーお義姉様から離れられた時も私はクロード様の傍に居られるでしょうか。
クロード様と共に笑い、幸せな日々を送れているでしょうか。
あの王宮の小さな庭には久しく行っておりません。
もうそれぞれ忙しく過ごしているからです。
けれどいつかまたあの小さな庭で、皆と思いっきり笑える日が来ることを信じております。
天才悪役令嬢は攻略対象者である美少女王子に溺愛される 朝樹 四季 @shiki_asagi
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