圧巻の心理治療バトル【医療系ヒーロー✕メンタルメディカルサスペンス】
- ★★★ Excellent!!!
――人間の内面心理・深層心理への侵入を物語の重要舞台とする――
いわゆる〝精神侵入物〟と言うべきジャンルがある。
商業作品で言えば――
山本英夫の『ホムンクルス』
富沢順の『TRICK STAR』
夢枕獏の『サイコダイバーシリーズ』
筒井康隆の『パプリカ』
テレビドラマの『バーチャルガール』
――などがある
この〝精神侵入物〟というジャンルは、いずれも名作傑作揃いであり、それらを書いている人々もスゴ腕揃いなのが分かる。逆に言えば、このジャンルは書き手に極めて高い技量を要求する。なぜなら――
〝設定を組み上げ、世界観を完成させるのが恐ろしく難しいからである〟
登場人物たちが存在する〝現実世界〟
そして物語の中で事件の主体となる〝心理内面世界〟
この二つは全く異なるものであり直接繋がることはない。しかし人間の内面には間違いなく存在しているものであり、人間一人一人の肉体や行動に影響を及ぼしている
まず、現実と心理、この二つの異なる世界をどう繋ぐか? その法則やルールをいかにしてわかりやすく、かつ説得力を持って設定できるかが最初の壁となる
次に〝真理内面世界の描写〟が作者のもとに立ちはだかる。現実の物理法則が当たり前に通用する現実世界を描写するならまだいい。しかし心の内面というのは物理法則は全く通用しない。そこは幻想世界でありイメージそのものの世界だ。それをどう描写するのか? そして、どうルール付けてストーリーを描くのか? 作者の表現力が強く試されるのである
現実と心理世界とをどう結びつけるか?
捉えようのない幻想と心理世界をどう描くのか?
そしてそれを成功させてストーリーとしてどう結実させるのか?
立ちはだかる壁はあまりに分厚いのだ
そしてここに、その分厚い壁を見事にぶち破った怪物作品がある
人々の精神と心を蝕む心の病【亜種夢強制共感病】
この病は患者本人だけでなく、伝染病のように周囲の人々へと伝播していく。死に至ることもあり単なる心の病として軽視することもできない恐ろしさがある
この作品が卓越しているのは、まさに〝精神侵入物〟の王道と言うべきスタイルで、患者の内面世界に治療者がダイブする事で〝命を救うための戦い〟を展開させていると言う部分だ
病により歪んでしまった患者の心の中――
その歪んだ世界を、主人公の【湧泉 凛】をはじめとする治療者たちが、死のリスクを背負いながら文字通り命をかけて患者の命を救おうとする
本作では、その治療者自身が、かつては元患者であり共感病という病を克服しているという背景が語られている。それゆえに主人公の凜たちが病に向き合おうとする姿勢は掛け値なしに真剣なのだ。そして、そこから生み出されるドラマが圧巻である。この難易度の高いジャンルを見事に書き上げた作者を私は称賛したい