湧泉凛は悪夢に魘されない
士笑(ジエイ)@💤😈
第1章:湧泉凛は悪夢に魘されない
第0夜 ボクト悪夢ト罪ト罰
-1:悪夢の中で
…… ZZZ ……
「さすがにえぐいな」
燃え盛る
ドロドロに溶け落ちた腹から、ペットボトルや缶飲料が転がり落ちて、
それが、今回の患者である
火事に見舞われた住宅街を、再現した悪夢世界、通称『
空は、
「凛のやつ、どうしてここまで放っておいたんだ。さっさと見つけ出して、ここから早く連れ出さないと、あいつ自身もこの炎に焼かれて死んじまうぞ!!」
嶺吾は、この『悪夢を感染させる病』の発症者、いわば、この世界の核となる凛を探すため走り出そうとしたが、同様に、この夢界に
彼女も、嶺吾と同じく悪夢を治療する医師だったが、こちらは彼と違い、切れ長の目を細め、胸元まで伸びる黒髪を後ろで束ねながら、顔色を一つ変えずに、状況を分析し始める。
「……ここは
聖はそう言って、隣で頬にたれる黒いエクステを指で弄りながら状況を俯瞰している
有栖は、聖の質問に対し、指を止め少し考えた後、口を開く。
「
この場で最年少ながらも、凛と一番付き合いの長い有栖が、焦燥感を押し殺しているのを見て、嶺吾も「すまん、熱くなって」と冷静さを取り戻した。
「……決まりね、有栖ちゃん案内お願いするわ」
「わかりました。聖姉様、こちらに」
聖の指示に、有栖は頷くと、目的地へと足早に駆けだした。
所々、炎海で寸断された道や、崩壊した家屋に押しやられ、道端にはみ出した石垣を、現実離れした
しかし、そんな彼らの行く手を阻むように、黒い炎で形成された、体長6mほどの巨人が、突如として現れ、地面に拳を叩きつける。
その時生じた衝撃波は、しっかりと熱さを感じられる熱波だった。
嶺吾は、咄嗟に聖と有栖の前に立ち塞がり、彼女らを守る。
「……嶺君大丈夫?!」
「ああ、少し腕に違和感はあるが問題ない」
「……全然問題あるじゃない」
嶺吾は、熱波から顔を守るためにあげた腕を擦りながら答えると、聖は申し訳なさそうに唇を噛みしめる。
「咄嗟ながら、守ってもらったことには感謝します。
「それには返す言葉もないな」
有栖は礼を告げると共に、一抹の不安要素を感じ、苦言を
嶺吾も自分の行動を顧みて、最善の行動ではあったが、反省の意を示した。
「今ので確信したが、今回ばかりは俺たちも『
「……嶺君、凛も私たちも五体満足で現実に帰ってくる、って『
聖は、珍しく弱音を吐く嶺吾の背中を叩いた。
しかし、気を確かに持って見える彼女の手が震えていることに気付く。
その強がりを見て、嶺吾は、ようやく、自分の中の恐怖心と、向き合うことが出来た。
一歩間違えれば、全員、この夢界内で炎に焼き尽くされ、死んでしまい、現実世界で目覚めることは無い。
ましてや、今回の患者、湧泉凛は、嶺吾と聖にとっては研修時代からともに
友人とも家族とも呼べる彼を自分たちの医療ミスで殺せない、というプレッシャーが嶺吾たちには圧し掛かっていた。
「――そうだな、最善を尽くすためにも、覚悟決めてやるしかないな。『
「……合図無くても私なら合わせられるわよ」
「ワタシ、凛のためなら出来ること、何でもするつもりよ」
嶺吾は、それぞれの反応を受け取り、号令をかける。
「それじゃあ行くぞ!」
「
「……ええ」
「「――『
「――……『夢充』」
嶺吾たちが、特定のキーワードを発した瞬間、黒い
初めは、靄が膨張するように膨れ上がったが、次第に彼らの体表面へと収束し、さっきまで着ていた、黒いラバースーツを異なる衣装へと変化させる。
嶺吾は、改造された長ランを
聖は、灰色の男物パーカーだけが、その柔肌を包んでおり、
有栖は、
『俺が先行して突っ込むから、聖と大神は援護に回ってくれ』
「……背中は私に任せて、絶対嶺君は死なせたりしないから」
「貴方ばかりに責任を肩代わりはさせることはしないわ」
嶺吾は、手話を交えながら、口をわざと大きく動かし、聖の
彼女は、そこから彼の意を汲み取り、すぐさま返事を返す。
有栖もそれに続き、返答すると、嶺吾の行動を待った。
彼女らの反応を見て、嶺吾は、言葉の通り、炎の巨人に向かって駆け出した。
近づけば近づくほど、体感温度は増していくため、嶺吾は腰元の木板を一枚外すと、そこに文字を指で書き込み、口の前に構える。
「何秒維持できるか分からんがやるしかねぇ!
嶺吾が【
そして、もう一枚続けざまに、木板を突き出し、巨大なメアの腹部に向けて、言葉を放つ。
「吹っ飛べ!
再度、【
それを狙ったかのように、嶺吾の後方で聖は簪の矛先を傾け、有栖は、首に掛けられたホイッスルを咥えながら言葉を紡いだ。
「……
「行くよ【
嶺吾同様、彼女らも【
頭部と腹部の質量を失ったメアは、動くこともままならず、【
「……嶺君ぼうっとしてる暇はないみたいね。まだこれと同じ大きさのメアは、ごろごろいるみたい」
『そうだな、急ぐぞ。お客さんも大勢、ご機嫌なこった!』
メアを一体
それに加え、彼らの視界の先には、それを小型化したメアが、複数体、視認出来ていた。
嶺吾は、手話を交えながら『気を引き締めて行くぞ』と指示をすれば、彼女らも「……お互いね」「貴方もね」と返し、地面を蹴った。
…… ZZZ ……
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