『(ボク-記憶)×罪滅ボシ≒悪夢喰イ?!』
示鹿
第1章:湧泉凛は悪夢に魘されない
第0夜 ボクト悪夢ト罪ト罰
0:誰がために医師になったのか
…… ZZZ ……
「さすがにえぐいな」
燃え
その結果、ドロドロに溶け落ちた腹部から、ペットボトルや缶が転がり落ちて、
それが、今回の患者である
火事に
空は
「凛のやつ、どうしてここまで放っておいたんだ。さっさと見つけ出して、ここから早く連れ出さないと、あいつ自身もこの炎に焼かれて死んじまうぞ!!」
「……待って、
嶺吾は、この『悪夢を感染させる病』の発症者、いわば、この世界の核となる凛を探すため走り出そうとした。
しかし、同様に、この夢界に
彼女も、嶺吾と同じく悪夢を治療する医師だったが、こちらは彼と違い、幾分か冷静だった。
切れ長の目を細め、胸元まで伸びる黒髪を後ろで束ねると、顔色を一つ変えずに、状況を分析し始める。
「……ここは
聖はそう言って、隣に立つ
有栖は、頬にたれる黒いエクステを指で弄り、焦りが表に出ないよう努めていたが、聖の質問に対し、手を止め、口を開く。
「
この場で最年少ながらも、凛と一番付き合いの長い有栖が、
「……決まりね、有栖ちゃん案内お願いするわ」
「わかりました。聖姉様、こちらに」
聖の指示に有栖は頷くと、目的地へと足早に駆けだした。
所々、
しかし、そんな彼らの行く手を阻むように、黒い炎で形成された体長6mほどの巨人が、突如として現れ、地面に拳を叩きつける。
その時生じた衝撃波は、しっかりと熱さを感じられる熱波だった。
嶺吾は、咄嗟に聖と有栖の前に立ち塞がり、彼女らを守る。
「……嶺君大丈夫?!」
「ああ、少し腕に違和感はあるが問題ない」
「……問題あるじゃない!」
嶺吾は、熱波から顔を守るためにあげた腕を擦りながら答えると、聖は申し訳なさそうに唇を噛みしめる。
「咄嗟ながら、守ってもらったことには感謝します。
「それには返す言葉もないな」
有栖は礼を告げると共に、一抹の不安要素を感じ、苦言を
嶺吾も自分の行動を顧みて、最善の行動ではあったが、反省の意を示した。
「今ので確信したが、今回ばかりは俺たちも『
「……嶺君、凛も私たちも五体満足で現実に帰ってくる、って『
聖は、珍しく弱音を吐く嶺吾の背中を叩いた。
しかし、気を確かに持って見える彼女の手が震えていることに気付く。
その強がりを見て、嶺吾はようやく、自分の中の恐怖心と向き合うことが出来た。
一歩間違えれば、全員この夢界内で炎に焼き尽くされ、死んでしまい、現実世界で目覚めることは無い。
ましてや、今回の患者である湧泉凛は、嶺吾と聖にとっては研修時代からともに
友人とも家族とも呼べる彼を、自分たちの医療ミスで殺せない、というプレッシャーが嶺吾たちには圧し掛かっていた。
「――そうだな、最善を尽くすためにも、覚悟決めてやるしかないな。『
「……合図無くても私なら合わせられるわよ」
「ワタシ、凛のためなら出来ること、何でもするつもりよ」
嶺吾は、それぞれの反応を受け取り、号令をかける。
「それじゃあ行くぞ!」
「
「……ええ」
「「――『
「――……『夢充』」
嶺吾たちが特定のキーワードを発した瞬間、黒い
初めは、靄が膨張するように膨れ上がったが、次第に彼らの体表面へと収束し、さっきまで着ていた、
嶺吾は、改造された長ランを
聖は、灰色の男物パーカーだけが、その柔肌を包んでおり、
有栖は、
『俺が先行して突っ込むから、聖と大神は援護に回ってくれ』
「……背中は私に任せて、絶対嶺君は死なせたりしないから」
「貴方ばかりに責任を肩代わりはさせることはしないわ」
嶺吾は、手話を交えながら、口をわざと大きく動かし、聖の
彼女は、そこから彼の意を汲み取り、すぐさま返事する。
有栖もそれに続き、返答すると、嶺吾の行動を待った。
彼女らの反応を見て、嶺吾は言葉の通り、炎の巨人に向かって駆け出した。
近づけば近づくほど、体感温度は増していくため、嶺吾は腰元の木板を一枚外すと、そこに文字を指で書き込み、口の前に構える。
「何秒維持できるか分からんがやるしかねぇ!
嶺吾が【
そして、もう一枚続けざまに木板を突き出し、巨大なメアの腹部に向けて、言葉を放つ。
「吹っ飛べ!
再度【
それを狙ったかのように、嶺吾の後方で聖は簪の矛先を傾け、有栖は、首に掛けられたホイッスルを咥えながら言葉を紡いだ。
「……
「行くよ【
嶺吾同様、彼女らも【
頭部と腹部の質量を失ったメアは、動くこともままならず【
「……嶺君ぼうっとしてる暇はないみたいね。まだこれと同じ大きさのメアは、ごろごろいるみたい」
『そうだな、急ぐぞ。お客さんも大勢、ご機嫌なこった!』
メアを一体
それに加え、彼らの視界の先には、それを小型化したメアが、複数体、視認出来ていた。
嶺吾は、手話を交えながら『気を引き締めて行くぞ』と指示をすれば、彼女らも「……お互いね」「貴方もね」と返し、地面を蹴った。
…… ZZZ ……
嶺吾たちが目的地に向かう
そこは周りこそ燃えているが、一定の範囲には火の手が回っておらず、不思議と無傷のままで、異質そのもの。
その空間の中心には、泣き崩れ、
その姿は実に異様なもので、身体の一部が炎と同化し、朱く揺らいでいる。
嶺吾たちは、周りの注意を怠ることなく凛に近付くと、彼もまた、その存在に気付き振り返った。
しかし、再度、虚ろな表情で地面を見つめる。
凛は、女性のような顔立ちをしており、それに似合う大きな瞳から大粒の涙を垂らしながら、嶺吾たちではなく、別のなにかに、ずっと謝罪を続けていた。
「……ごめんなさい。ごめんなさい。死なせてしまって、助けられなくて。ごめんなさい。見捨ててごめんなさい。――全部、全部忘れてしまって」
凛は、壊れたレコードのように、ぶつんぶつんと途絶えながら謝罪の言葉を紡ぐ。
その姿はいたたまれなく、嶺吾は慎重にならざるを得ない場面で、思わず言葉が漏れてしまう。
『凛、大丈夫だ、俺たちと帰ろう。もともとお前は【 】を見捨てたんじゃない【 】はお前を救うために自分から――』
「
有栖は、嶺吾が何を言わんとしていることに気づき、寸での所で、地雷を踏みかけた嶺吾を止める。
しかし、時すでに遅かった。
「そもそも僕は助けてほしいなんて言ってなかったんだ……【 】を助けるためだったのに、ううっ、くそっ! くそっ! 【 】! 【 】!! ダメだダメだダメだ!! もう誰への償いで、医師になったかすらも忘れてしまったんだぁぁぁぁぁァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」
凛は、抱え込んでいた【想い】を世界にぶちまけた。
発狂すると同時に、その体を媒体として炎の巨人へと変貌させる。
黒い炎を纏った凛だったものが、
先ほどまで相殺治療のために対峙していたメアが放つ炎を凌駕する熱波が、嶺吾たちの肌を焦がす。
よく知る人間が目の前で
「……どうするの、こうなったらメアを全部消すしかないけれど、そうしたら彼のPTSDの原因を、すべて忘れさせることになっちゃうわよ」
『ああ分かってる分かってるさ!! でもこうなったら全員死ぬよりはマシだ!! 先のことより今すべきことをするんだ!!』
聖の提案は至極真っ当なものであったが、それをした結果、凛に及ぼす影響は計り知れなかった。
ただ、凛の【想い】が消えるか、ここで全員丸焦げになるかの二択の前では、非情にならざるをえなかった。
「貴方なにもわかってない! それが凛にとってどれだけ苦痛かを! 雫姉もそれを避けながら凛に接してきたのに!」
有栖の言うことも分かる嶺吾だったが、今、まさにメアと【
凛の姉さんの名前を出され、一瞬迷いが生じたが、その意志はもう変わりようがなかった。
『聖と有栖は先に
嶺吾は、有栖の言葉を跳ねのけると【
嶺吾が認識できなくなったことで、なにをするつもりか完全に理解した聖は、
『嫌いか……、本当にそのまま嫌いになってくれたら、どれだけ楽なものか』
嶺吾は、そう呟いた後、同じように書き連ねた複数の
有栖は、この後、凛に降りかかるであろう困難を予期し、涙を堪えることができなかった。
ひとしきり、嶺吾にありとあらゆる罵声を浴びせた後、聖に諭され、嫌々ながら、意識を現実世界へと帰還させた。
普段より、彼女から罵倒を浴びるほどくらう嶺吾だったが、今日ほど想いの込められた罵倒は、彼の心に強く突き刺さった。
が、今は動揺し【
二人の意識が夢界から現実世界へ戻り、姿が見えなくなったのを確認した嶺吾は、片膝をつき、祈りをささげるかのように
『ごめんな凛、全力をぶつけること、許してくれ。……
込めた想いと裏腹に、力なく口から零れ落ちた【
…… ZZZ ……
これは
…… ZZZ ……
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