エピローグ
雲一つない、快晴の日。
戦いが終わり、今日は国民達への演説の日だ。
本来こういったことは国王が変わった時や建国記念日など、特別な日しか行わない。
しかし、先日街を襲った魔獣ハスター。そして、魔王ノーデンスとヘイグのつながり。
私はノーデンスを倒した後、ヘイグの私物を徹底に洗い出した。結果は、散々たる有様──。
彼らから利益を供給してもらう代わりに、この国の機密事項や奴隷たちを売り渡していたこと。そして、リムランドへの侵攻計画も存在していた。
なんでも、街を分断させ争い合うようにしてから大量の魔物を呼び寄せる。
そして、仲違いを起こした国民達を次々と奴隷にして売り飛ばしていくとのこと──。
実際に起こされていたら、国民達はどうなっていたことか。ぞっとする。
しかし、それは何とか防がれた。警戒していくことは必要だが──。
今必要なのは街の人達を一つにまとめ上げること。そのために、私は声を上げる。
街が滅亡の危機に瀕していたこと。そして、街のみんなで救ったこと。
そして、それをバネにして街を結束させて一つにするために、私は大勢の国民の前で演説をすることになった。
戦いから数日が立った日。
とうとう私はその日を迎えることになる。
街は、少しずつ復旧作業が進んでいる。住処を失った人たちのために、仮の住まいや炊き出しをしたり、破壊された家屋のがれきの撤去。そして、更地になった場所への住宅の再建。
やることはまだ、山積み。しっかりと彼らを見捨てないと、またスラム街ができて街が荒廃してしまう。
どんな困難な状況になっても、それを防ぐのが私の職務だ。
街の人達は、みんな協力的だった。共に戦ったことによって、連帯感が生まれ──まだぎこちないけれど一緒になって街の復旧を手伝ってくれた。
私から見ると、その事実がとても嬉しい。
これからも、彼らがいがみ合ったりしないように支えていきたい。
演説前。王宮の控室に私はいた。
国民達に顔を合わせるとなって、身づくろいにも気合が入る。
侍女とライナ、ミットがいる部屋で、演説に使用するドレスを試着している。
隣では、ソニータが身づくろいを行っていた。
白を基調とした、上品なドレス。フリルがついていて、買いらしいのと、胸元がぱっくりと開いていて、ちょっと恥ずかしい。
体をくるりと回転させる。スカートがひらりとめくれ上がり、足が丸見えになってしまう。
う~~ん、私に似合うのかな……。
「どうかな──似合ってる?」
「センドラー様。とっても素敵です」
ライナが、目をキラキラさせながら言ってくる。ほかの人達も、うらやましそうな眼付や声で私をほめたたえてくれた。
「とても似合いますわ。センドラー様」
「きれいで、本当に似合っています」
直球で褒められると、やはり照れてしまう。顔をほんのりと赤くして、お礼を言った。
「ありがとう──。じゃあこれでいかせてもらうわ」
かなり気合が入った服。これでいこう。
ただ、一つ疑問がある。
「なんで私が最初なのよ」
苦笑いをしながら言葉を返す。
通常、こういった集まりで最初に話をするのは、国王だ。
今であれば、ソニータが本来の適役だ。
私はあくまで参謀役。国王はソニータ。私は、表に出るにはピーキーで敵を作りやすい性格だとは思う。
王宮の中では、いまだに私のことを警戒している人もいる。
不安な表情をしていると、ソニータが優しい笑みを向けて言い放つ。
「どうしてだ? この騒動で、一番この国を守るために傷ついて、戦い抜いて、走り回ったのはセンドラーだ。今やお前は、私を超えてこの国の象徴なのだ」
「そ……そう。ありがと」
そこまで褒められると、ちょっと照れてしまう。
顔を赤くして頬をポリポリとかいていると、センドラーが話しかけてきた。
(何照れてるのよ。本当のことじゃない。
(私にはない、情熱や思いを持っていた。だから、ここまでくることができたわ)
(ありがと、受け取っておくわ)
まあ、お言葉に甘えておくわ。そろそろだ──演説に向けて出発しないと。
手を振って、挨拶をする。
「じゃあ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃい、センドラー様!」
そういって、ライナは私のほっぺにキスをした。ポッと顔を赤くする。
こつんとライナの頭をたたいた。
「もう、こんな時に──」
「えへへ。でも、センドラー様のほっぺ柔らかかったですぅ」
照れながら頭を抑えるライナ。
赤絨毯の水戸を歩いて階段をのぼり、王城のテラスの吹き抜けに出る。
視線を向けると、王城の庭にあふれんばかりの国民達。集まった国民達──、多くの人達に顔を見せた瞬間、今まで聞いたことないくらいの歓声が上がった。
「センドラー様! 憧れてます」
「この国を救ってくださってありがとうございます!」
オオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!
割れるような歓声が響き、波紋のように広がる。みんなが、私を慕ってくれているのがわかる。
頑張った結果だなと考えると、どこか誇らしい気持ちだ。
これからも、この彼らの気持ちを、無駄にしないようにしていきたい。
そして国民達と向き合う。
私はにこっと笑顔を作った後に視線を国民の方に向け、手を振った。
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、私は自信満々に国民達への想いを伝え始めた。
「国民の皆さん──先日は本当にありがとうございます。皆さんの、一致団結した思いのおかげで──私はハスターを倒せました。この国に、平和が戻ったのは皆さんのおかげです」
その言葉に、聴衆たちはざわめきだす。そして、一部の人達から声が上がった。
「いやいや、どう考えてもセンドラー様のおかげですよ」
「そうよそうよ。私たちは、センドラー様に救われたのよ」
思わず苦笑い。声を上げてくれた人には、感謝したい。
けれど──
「本当です。偽りではありません。私一人で、この国を救ったわけではありません。この国を、この街の平和を願っている、皆さんのおかげです。皆さんが、私にくれたから──私は戦うことができました。皆さんのおかげです」
嘘は言っていない。私一人なら、どこかで気持ちが切れていた。長く戦って、折れていただろう。
しかし、みんなが私のために戦ってくれていて、それを見て私は──もっと戦おうって気持ちになれた。
「最後のハスターとの戦い。今まで争っていた人たちが共に戦い、助け合った。それが、私の希望になって──みんなの力を一つににして受け取ろうということができた。だから皆さんのおかげなんです」
(自分の手柄は国民達の手柄。よく考えるじゃない。あなた、ここにいる人みんなの心をつかんだわね)
(別に、そんなんじゃないわ。私の本心を言ってるだけだし──)
計算高くて、頭が回るセンドラーからすれば、そう見えるのだろう。
私ににっこりと笑みを向けて、言葉を返して来た。
(あなたのそういうところが、国民達をよく引き付けているんだと思う。これからも、私が補佐するからしっかりと人々のために尽くしていきなさい)
(わかったわ)
演説を続けながら、センドラーに向かって言葉を返し軽くウィンクをする。
もちろん、これからもそんな関係が続くかどうかはわからない。また、街が仲違いになって争うようなことがあるかもしれない。私自身も頭に血が上ってしまうことだってあるだろう。
ソニータだけでは足りない。
彼女以上に、求心力のある存在が、今この国には必要なのだ。
(それが、あなたってわけ。ハスターとの戦いで、あなたの活躍をたっぷりと国民中に見せつけてくれた。今やあなたは、国を救った英雄なのよ)
(英雄って、照れちゃうわね……)
(それくらいのことをしたってことよ。これからも、この国の象徴として戦いましょう)
象徴という言葉に思わず照れてしまい鼻の頭を軽くこする。
そこまで褒められると、逆に恥ずかしくなる──。
でもその言葉で、勇気が出た。
これからも、センドラーの言葉通り戦っていかなきゃ。
わたしだけじゃ、届かないことだって向いていないことだってある。
そんな時に、センドラーがいる。私とは水と油かってくらい性格も考え方も違うけれど、向かっている方向は一緒。
これからも、時々言い争ったり喧嘩になっちゃうこともあるけれど、一緒に頑張っていこうね。
演説をしながらそんなことを伝えていく。センドラーは、顔を赤くして照れていた。
なんていうか、いつも強気で──こうしてほめたり乗せたりすると顔を赤くして照れる。
自分の気持ちを、見せまいとする。
いつもは冷徹な性格だけに、こうして人間味あふれるそぶりをする姿がかわいい。それからもしばらく演説を続けていたが、そろそろ終わりの時間になる。この後にはソニータの話もある。
今日はこれくらいにしよう。最後の締めの言葉、さっき以上に気合を入れて国民達に向かって叫ぶ。
「だから、これからも力を貸してください。絶対に、その想いは私がつないで見せるから──。この国のために、みんなで一緒に頑張りましょう!」
最後にそう叫んで、一歩下がった後に頭を下げる。
演説が終わる。その瞬間、今まで聞いたことがないくらい、大きな声援と拍手に包まれた。
パチパチパチパチ──。
ウォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!
「センドラー様。素晴らしかったです」
「これからも、センドラー様に尽くしますぞ!」
みんな、私を慕ってくれているのがわかる。惜しみない拍手を送ってくれるのを見るだけで、じわっと涙が出そうになった。これだけ、みんなが私のことを思ってくれているんだ。
それなら、私がやることは一つしかない。彼らとともに、未来を歩んでいくこと。これから、いいことばかりではないだろう。怒りに震えて、争いになってしまうことだってあるだろう。それでも、私は戦い続ける。
私を求めている人や、助けを求めている人のために、全力で戦う。私は再度国民達に頭を下げる。今まで、私を支えてくれたことに対して深々と。
それから、くるりと後ろを向いて奥にある控室へと進んだ。
「終わったわ。次はソニータ、あなたよ」
「わかった。しかし、あんな大声援の後だとさすがに緊張するな──」
ソニータは、襟を正して少しだけ硬い表情で言葉を返してきた。
そんなソニータに、笑みをこぼして言葉を返す。
「大丈夫よ。あなただって、この国のために一生懸命やってる。その想いをぶつければ、絶対に人々は答えてくれるわ」
「……ありがとう。少しだけ、勇気がわいたよ」
そういってソニータはほっと肩をなでおろす。
少しは緊張が解けたみたいだ。よかった。
そしてソニータは壇上へと進んでいく。その瞬間、誰かが抱き着いてきた。ライナだ。
「センドラー様、素晴らしかったです!」
「ありがと、ライナ」
「センドラー様、素晴らしかったニャ!」
それだけじゃない、ミットも抱き着いてくる。
正面から抱き着いてきた二人。両手で髪を優しくなでる。どっちも、いい匂いがしてとても気持ちがいい。
「そう言ってくれて、とてもうれしいわ」
二人とも、私にずっとついてきてくれた。私の力になってくれた。
いつも仕事で忙しいけれど、たまには大切にしていきたい。
さすがに一線は、超えないけれど。
そして、ソニータの背中を見ながら、思う。
みんなが私を支えてくれた。だから──私は戦っていく。
これからも、ずっと──。
これからも、戦っていこう!
──鋼鉄の令嬢── 静内(しずない)@救済のダークフルード @yuuzuru
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