第133話 最終決戦
「さあノーデンス様。あなたに逆らおうとするこの裏切り者を、焼き払うのです」
ヘイグが自信満々にそういった瞬間、ノーデンスはヘイグに向かって近づき、その腕を鷲掴みにする。
「なんだ貴様──」
「ですので、この不届きものを──」
「ふざけるな」
そう言ったノーデンスは、ヘイグの身体を鷲掴みにし始めたのだ。
驚いたヘイグが、もがいて逃れようとするが人間であるヘイグではどうにもならず──。
「貴様のような、小銭で魂を売る小物が、この俺に指図するな」
ノーデンスが何をしようとしているか理解した私が、割って入ろうとするが間に合わなかった。
ノーデンスはそう言って頭を口の中に入れ、生きたまま食べてしまったのだ。
バキバキバキバキッ! グシャァァァ──。
飛び散るヘイグの脳みそと血。ぞっとして、思わず言葉を失ってしまう。
「ふっ、貴様のような器の小さい人間がこの我に指図をするなど片腹痛いわ」
しかし、いつまでも怖がっていられない。立ち向かわなきゃ。勇気を出してノーデンスに視線を向ける。
ノーデンスは異形の指で口を拭いた後、私に視線を向けた。
「器は──そこそこあるようだな」
「どういたまして」
意外にも褒められた。実力しか見ていない、器がない奴はたとえ味方であっても切り捨てる。こいつは、そういういうやつなのだろうと感じた。
「ふん。悪党ぶった金の亡者ごときが俺様に命令すること自体がおろかなのだ」
「あんた、自分の手下でも容赦ないわね」
「まあ、リムランドを侵略するための足掛かりとして利用させてもらった。少し金や兵器をちらつかせたら、簡単に寝返ったよ」
「だが簡単に寝返るやつは、簡単にほかにも寝返る。猜疑心が強く、信用できん」
「それは、同感だわ」
言葉を詰まらせ気味に返すと、ノーデンスは左手をこっちに向けてきた。
「さあ、これ以上言葉はいらん。われの一撃受けてみよ。この国を、守りたいならな──」
「やっぱり、戦わなきゃいけないのね」
「安心しろ。今は貴様の覚悟と、決意を確認するだけだ」
その瞬間、ノーデンスの左手に、大きな剣が出現した。人の半身くらいあるかなり大きいサイズ。そして、まがまがしい魔力を持ち紫色に光り輝いている。
おぞましい力の気配に身震いがするが、すぐに後ずさりしそうになるのをやめる。
引いたところで逃げ場所なんてない。戦う以外に、道はないのだ。
(もしここで逃げたら、また街が戦場になってしまうわ。そんなことは、絶対にあってはならない。絶対に、ここでこいつを止めましょう)
(もちろんよ!)
私も、ノーデンスに対抗するように剣を召喚。思いっきり、魔力を込めた。
(余計な小細工なんていらない。ただこのひと振りに、自分が持てる全力の力を込めて、ふるうだけ)
その通りだ。こんな狭い通り、動き回って戦うなんてできない。
「俺はこれから一振りで貴様を斬る。死にたくなくば、我に勝って見せよ」」
「望むところよ!」
勝負は一撃。それに、全力を込める。
込める力、ハスターの時と違ってどこか心細さはある。
ハスターと戦った時とは違う。ラヴァルも、カルノさんも、街の人達も誰もいない。
それでも、私は負けるつもりなんてない。
不安なんて、全く感じなかった。みんなの想いが、私には詰まっているからだ。
みんな、不器用ではあったけれど街のために精いっぱい戦っていた。
今までは争い合うくらいの仲であったにもかかわらずだ。
彼らだって自分たちの感情を超えて、戦っていたのだ。私だって、困難の一つや二つ、乗り越えないでどうするんだって話だ。
(自信たっぷりって感じね)
(まあね。みんなが待っているから、負けられないわ)
そして互いに見合って剣を持っている腕を振り上げる。
「さあ、貴様の覚悟、我に見せてみよ!」
ノーデンスの言葉と同時に、私もノーデンスも一気に距離を詰めた。
そして私は体を回転させ、ノーデンスはそのまま突っこんできて、剣同士がぶつかり合った。
ノーデンスの剣がぶつかってきた瞬間──。
「ぐはっ!」
思わず声が漏れる。その強さに、腕がちぎれそうなくらいだ。今までにないくらいの重さ。それでも、私は負けるつもりなんてない。
体中の持てる力を、両腕に込める。
力の中に、みんなの思いが詰まっているような気がした。
だから、力が尽きるなんてない。
普段の自分なら、全く歯が立たなかっただろう。しかし、負けられない今ならノーデンスを打ち破るだけの力がある。
そして、徐々に押し返していく。
「私には、みんながついている。だから、負けるわけにはいかない。折れるわけにはいかない」
そう叫んで、最後の力を振り絞る。
「何っ、我が力で負けるだと──」
その言葉通り、私の力はノーデンスを打ち破った。
後方に吹き飛ぶノーデンス。
ノーデンスは、座り込みながら話しかけてくる。戦意は、感じられない。
。
「われの手下にならないか。貴様の強さ、勇気、素晴らしいものがある。金も、名誉もいくらでも得られるぞ」
勧誘かい……予想しなかった行動に啞然とする。強ければ、敵だったとしてもかまわないということか……。
思わずあきれて、ため息をつく。
そんなの、答えなんて決まっている。腰に手を当て、自信をもって言葉を返した。
「大丈夫に、決まってるわ。絶対に、この国を守って見せる! だから、貴方の勧誘には乗らない」
「本当に守れるのか? 貴様たちの内情は耳に入っている。だいぶ争いが頻発しているようだが、強がっているのか?」
ノーデンスは、自信があるように笑って言葉を返す。
──誰かが、リムランドの情報を漏らしているのだろう。嘘をついたところで、意味はなさそうだ。
コクリと頷いて、言葉を返す。
「確かにそうね。否定はしないわ」
「それなら話は早い。くだらないだろう? 醜く争い合うやつらなど。どれだけ尽くしたところで、自らの欲望に屈しきれずに貴様を裏切ってしまうのがオチだ。それならば、貴様も裏切ればいいのだ。こやつらを──」
まるで、私をこいつら側に墜とすために誘惑しているようだ。まあそんな口だけで、私の心が変わるわけないのだが。
「でも、私は見捨てなんかしない。あなたの意見は受け入れない」
当然のこと。
自信たっぷりに、笑みを浮かべて言葉を返した。
「信じてるから──この街の人達を」
確かに、人間たちは完璧じゃない。
時には仲違いをしてしまうかもしれない。
うまくいかないことだってあるかもしれない。それでも、みんながこの街を大切に思っている限り、私はここにいる。
私だって、どれだけ苦しい思いをしても、戦い続ける。
「この街の人達は──時に迷いがあったり、一時的におかしい判断をしてしまうことはある。それでも、最終的にはみんなで共存していく道を選んだ。私は、そんな彼らを信じている。この人たちのために、戦う」
間違いなく言える。自信たっぷりの口調と表情でそう言い放つと、しばらくの間 とにらみ合う形となった。
そして、しばらくにらみ合っていると、ノーデンスが大きくため息をついて、表情が緩くなった。
「今の言葉──、貴様から発せられる魔力と気配でわかる。嘘は八百でも口から出まかせでもないという。本当にこの国のことを理解して言っているというのがな」
「当然よ。今までずっと本音で、真剣にこの国の人達とぶつかってきたんだから──」
そういいながら、私はラストピアへ追放された時からのことを思い出す。
いろんな立場の人と、いろんな考えをした人たちと出会い、接し、戦った。
いい人ばかりではなくて、今までにないくらい怒りの感情を持ったことだってあった。 強い思いで対立し、ぶつかり合うことだってあった。
いいことばかりではなかった。それでも、彼らなりの考え方で周囲の環境と戦っているのが理解できた。
「そして、心から理解したわ。そんな彼らの強い思いをつないで、この国に平和を守っていくのが私の天命なんだって──」
今なら迷いなくそう言える。だから、こういうやつを絶対に許すわけにはいかないのだ。
ノーデンスに、私の言葉がどう届いたかはわからない。やがてノーデンスはくるりと方向を変えて、私に背を向けた。
「われの出番は、まだ先になりそうだ。貴様のような器を持った者がいなくなったら、また来ることにするか」
「歓迎しないわね」
今の言葉に、大きな安堵があったからか大きく息を吐いた。私がいる間は、大丈夫だということか。
「さらばだ。貴様のこの国に対する想い、見事なものだった。貴様のような人格を持ったものがこの世界に数多にいれば、私はこの世界に進出することは困難であっただろう。これからの、健闘を祈るぞ」
シュゥゥゥゥゥゥゥゥ──。
そう言った後ノーデンスは、蒸発するかのように消えていった。
(いっぱい、ほめてもらったわね。秋乃)
(喜んでいいのか、ちょっと複雑だけどね)
確かにこんな場所で予想外に褒められて、ちょっと複雑な気持ちだ。
(ま、今まで頑張ってきた成果と考えられなくもないわ。あれだけ周囲のために戦ってきたからあいつはリムランドを諦めざるを得なかったんだからね)
(そう受け取っておくわ)
何とか、街の危機は去った。
その事実に気持ちが少しだけ緩んで、ほっとひと息をつく。
これから先も、いろいろな障害が私たちを待ち構えているだろう。
それでも、私は人々のために戦っていくだろう。
この国の平和を願っている人のために、私はこれからも頑張る。
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