第132話 ノーデンス

 次の日の夜。私は、宮殿の地下にいた。


 真の敵に出会うために──。


 あの後、ハスターを呼び寄せた術者らしき人をラヴァルが捕まえてくれた。その後、手荒い尋問の末ここにこの騒ぎを引き起こした張本人と取引をすると吐かせた。

 その人物に出会うため、この場所にいるということだ。


 ランプが照らす真っ暗な闇。時折水滴の音が聞こえる石畳の地下通路。蜘蛛の巣が張っていて、普段は人が通らないところだというのが理解できる。


 ここは本来戦争や大災害が生きた場合に使う地下の秘密通路。


 巨大な魔物や、街を破壊しつくす巨大な爆弾にも耐えうるつくりをしているこの場所は、緊急時に参謀本部や国に中枢を担う機能を擁している秘密裏の場所でもあった。



 街が大きな災禍に見舞われても国家としての機能を喪失しないよう議会、兵站、国民達が一時的に攻撃をしのげる場所。もし戦場になった時にための兵器や仕掛け。

 あらゆるものが備えられている。

 そんな場所で、しばらく真っ暗な闇で物陰に隠れていると、コッ──コッ──と足音が聞こえてきた。


 足元は徐々に大きくなっていき、数メートルほどまで近づいてくると、私はランプを魔法で照らして目の前に立ちはだかる。


「あんたが、黒幕だったのね」


 そう言ってにらみつけた視線の先にいた人物。


「よくたどり着いたじゃないかセンドラー。さすがだ。おまけにハスターも倒してしまうとは──。素晴らしいの一言だ」


「あんたに褒められたって何にもうれしくないわよヘイグ。さあ、あんたが犯した罪、絶対に償ってもらうわ!」


 そう、その言葉通り私の目の前にいたのはヘイグだ。

 まるで罪悪感を感じていないかのように、余裕そうな笑みを浮かべている。


「それはできないな」


 この自信たっぷりの表情。もしや──。


(多分、裏に何かいるわね)


(それ、私も思った)


 強力なバック。それがヘイグについていて、何かあればそいつが出てくる。だから、私を目の前にしても自信満々な表情をしているのだろう。


「あんた。誰かと組んでるでしょう。言ってごらんなさい」


 腰に手を当てながら指摘する。まあ、素直に言ってくれるとは思っていない。

 色々調べていくうちに、少しずつ分かっていくようになるだろう。今までのように。


 そう思ったのだが──。


「闇の世界の王──。ノーデンスというのを知ってるか?」


 あっさりと口を割ったヘイグに愕然とする。こいつ、どんだけ自信があるのよ。

 その言葉を聞いて、恐怖のあまり背中が震え思わず一歩引いてしまう。


 しかし、ここで引いたらヘイグの思うつぼ。すぐに強気な表情に戻ってまた一歩踏み込んだ。



「まちなさい。それは、いくら悪党だといってもやっていい一線を越えているわ」


 すぐに私はヘイグに接近して止めようとする。


 全く次元が異なる話だ。もし大ごとになろうものなら、彼にきわめて重い処罰を与えなければなければならない。


 ノーデンス。現魔王ともいうべき存在。今まで戦ってきたやつらとは、比べ物にならないくらい力を持っている。

 それだけではない、人の闇や邪悪な心を本能でかぎつけることができ、そういった人物を利用してどんどんこの世界を侵略して言っているのだ。


「一応言っておくわ。もうやめなさい、じゃないと、極めて重い刑罰をあなたに課さないといけなくなるわ」


 ごくりと息を飲んで、そう警告する。しかし、最後の忠告が、彼に届くことはなかった。


「黙れ、貴様なんと言われようと俺様が選択肢を変えるなどあり得ぬ。ノーデンス様の庇護下で、俺様は成り上がるのだ」


 そう叫んだ瞬間、ヘイグの後ろが紫色に光り始めた。その光からあふれ出る、今までにないくらいのオーラに、思わず警戒。


「私は、どんな手段を使ってでもこの国の王になる。そのために、貴様を乗り越える」


「やり方が間違ってる! それなら、自分の力でやりなさい。自分の欲望のために、他国の──それも悪の力を受け入れるなんてしたら。もうあなたは、この国においてはおけないわ」


「好きにしろ!」


 私の最後の忠告。当然だ。そんな行動、私たちへの反逆以外の何物でもない。自分の欲望のために、人々を──街をあんな目に合わせるようなやつを要職に就けるわけにはいかない。



(来るわ、この世界を覆いつくす力のある闇が──)


 センドラーの言葉通り、ただならぬ存在が現れるというのは、理解できた。果たして、追い返せるのだろうか──、まだ魔力は回復しきっていない。私を支えていた仲間たちはいない。


 現れた大きな光が、次第に強くなっていく。


 警戒の目つきでその光を見つめていると、その光が人型に変化していった──。

 その姿を見ているだけで、理解できる。目の前にいる生き物は、今まで見てきたどんなものよりもおぞましいということを──。


 一見人型にみえる、筋肉質で私より頭一つ大きい体形。

 見ただけで怖気が走ったくらい、恐怖を感じる容姿。鋭い目つきをした、醜くて異様な気配をしたいる物体がそこにいた。


「さあノーデンス様。あなたに逆らおうとするこの裏切り者を、焼き払うのです」

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