第131話 戦いが、終わって──

 その光景を見て、安堵して大きく息を吐く。何とか勝ったんだ──。


 街の危機が去ったことにより、一瞬気が抜ける。その場にへたりと座り込んでしまった。

 何とか立ち上がろうとするが、体に力が入らない。よほど体力を消耗していたのだろう。


(お疲れ様。よくやったじゃない)


(それほどでも──)


 確かに、街の平和は一時的には戻った。しかし、大元の問題は解決していない。

 次は、それを何とかしないと──。街で、私たちを裏切った存在。


 そんなことを考えながら青空を見ていると、誰かがやってきた。

 ボロボロの姿、剣をかついてすましたような表情をしている。


「もっと喜んだらどうだ? てめぇの力で勝ったんだぞ」


「いいえラヴァル。みんなの力よ。それに、まだ終わってないわ」


「ああん。第二形態でもあるのか?」


「私には、まだやることがあるから──」



 そういってふっと笑みを作る。ラヴァルはあきれたように大きく息を吐いた。「このお人よしが──とでも思っているのだろうか」


 まあ、彼ならそんな風に考えると思うし、私もつくづくそう思う。こんな体を張って、ボロボロになって──戦って。


 自分のためだけだったら、どんなにお金を積まれてもやらないし、どこかで折れていたと思う。

 この街の──国の人と一緒にいて、戦って──本当の彼らの日常を守りたいって思ったから私は戦っている。


 そして、これからも私は戦い続けるだろう。みんなの、かけがえのない日常のために。

 なんにせよ、私の戦いはまだ終わっていない。諸悪の根源を倒さない限り、また同じようなことが起こるだろう。


 それに、戦い自体は終わってもやることはある。


(ずいぶん派手にやってくれたわね)


 センドラーの言葉通り、かなりの建物が崩壊していたりして街は壊滅的な状態になっている。


 まずは、これを何とかしないと。

 そう考えた矢先、どこかからか子供の泣き声が聞こえた。周囲に視線を向けて、後ろを向いた瞬間に理解した。



 子供が、倒壊した建物に足を取られてしまったのだ。けがをしてしまっているようで、足から血が出ている。


「ヒース、今助けてやるからな」


 息子の両親が、息子を何とか助けようと建物を持ち上げたり、息子を引っ張って取り出そうとしているが、息子の身体は全く動かない。


 このままでは、彼は力尽きてしまうだろう──。私も、何とか助けたいと思っているがもう魔力がない。


 もどかしい気持ちで何とかならないか、疲れ切った頭で考えこんでいると──。


「俺たちに任せろ!」


 ラヴァルの手下たちだ。亜人である彼らの中で、動ける人たちが流れ弾に当たったり、倒壊した建物でけがをした人たちの対応に当たっていたのだ。隣にいたラヴァルが、苦笑いをしてつぶやく。


「へへっ、命令した覚えはないんだけどな」


「みんな、いい人ばかりじゃん!」



 倒壊した建物が、その部分だけわずかに盛り上がる。


「引っ張り出すぞ!」


 そして、両親と男たちが子供の身体を引っ張ると、子供の身体はがれきから引っ張り出される形になり、すぐに両親のところへ駆け寄った。


「よかった──よかった──」


 子供を抱きしている母親が、泣きながら息子を抱きしめている。

 そして、それをうれしそうに眺めているラヴァルの部下たち。


 みずほらしくも、どこか誇らしげな表情だ。両親が、泣きながら彼らに頭を下げる。


「ありがとうございます。本当にありがとうございます──」


「いいってことよ。お互いさまってやつだ」


 金髪で、目つきの悪い男が気さくそうに親指を上げて答える。


 それだけではない。ボロボロになった街をよく見ると、必死になってみんなで助け合ったり、協力し合ったり。


 そこには、亜人も人間も関係なかった。


 街の人達全員が協力し、何とか人々を救おうと必死になって動いている。

 その姿を見て、思わず笑みがこぼれていた。


(何よ、やるじゃない。さっきまではケンカしあってった癖に──)


 センドラーも、やれやれとほほ笑みながら言う。


(まあ、本当に街が危機を迎えて、危ないって思って、喧嘩なんかしていられなく名たんじゃないの?)


(まあ、そうかもね)


(それに、みんながみんな敵対心を持っていたわけじゃないみたいでしょうしね)


 おそらく、殴り合いになるまで恨みを持っていたのはほんの一部の人だったのだろう。ほとんどの人は、なんとなくうまくいかなかったり──その原因を自分とは違う人たちになんとなく求めていて流されてあんな行為に走ったのだろう。


 だから、熱が冷めてこのままでは自分たちの生活が根底から破壊されると理解すると、そんなことも忘れてみんなで力を合わせ始めたのだ。


 これから、少しでもこの街が良い方向に向かって行くといいな。



 現実には、そううまくいかないだろう。一時は和解しても、また対立しあったり──時にはまた争うような形になってしまうことだってあるだろう。


 そんな時は、私が──街の平和を望んでいる人たちが止めればいい。

 大丈夫。この街の人なら最終的にはともに歩く道を選ぶだろう。


 街も体もボロボロの中、助け合う彼らを見て、なんとなくそう思った。


 今は体を休めよう。来る──最後の決戦に備えて。

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