第130話 つないだ想い

 そう言葉を返した瞬間。


 フラッ──。

 体か軽くふらついてしまう。

 すぐに体勢を立て直すものの、体全体がふらふらとする。

 身体が破裂しそうに痛い。街を守りたいという想いで気力を振り絞り、必死に耐えているといった感じだ。


(それでも、この状態で肉体が分解しないのはあなただけよ)


(ありがとう)


 確かに、そうかもしれない。

 何はともあれ、ハスターを倒せるだけの力は手に入れた。後は、みんなの想いを私がつなぐだけ。


 みんなの想い──それが、私がハスターを倒さんと考え出した作戦の肝だ。

 具体的に説明すると、街中の人たちの力を、私に集めるという作戦。

 まさに、国を背負う私ならでばの力だ。



 以前、カルノさんからどんな術式が使えるか聞いた事があった。有事の際に使用するかもしれないとのことで相談したのだ。その中に、人々が持っている魔力を特定の人物に集めるというのがあった。


 今頃、ライナが街中を駆け回って私に力を供給して、私のことをイメージして、願うだけでいいからと叫んでいるはずだ。


 その想いが、通ったのだろう。みんな、答えてくれたのだろう。


 何でも魔力が使えない人であっても、人には微量ながら心の奥底に魔力が眠っているらしく、それを何百人何千人と集めれば、どんな強大な魔物でも十分に戦えるとカルノさんは言っていた。


 ただ、強大な力ゆえに欠点もある。


 容量だ。一人の人間が所持できる魔力には、個人差があるものの限界がある。

 人によって差はあるとはいえ、その人物の容量を超えて魔力を供給すると、その魔力に身体が耐え切れなくなり、体が破裂してしまうという。


 それでも、今ハスターとまともにやり合おうと思ったら、他に戦術なんてない。行くしかないのだ。


 体が温まるような、そんな力が次々に私の体の中に入っていく。

 この瞬間にも、この街の人が次々に私に力を送っているのがわかる。私のことを知らない人もいるだろう。ライナに言われて、よくわからないけど力を送っている人もいるだろう。


 周囲にも、まるで祈るようにして力を供給している人がいる。


 強くこぶしを握って、決意した。絶対に、この思いはつないでみせると──。


 私には、幸いにもその資格があるようだ。苦しい思いをしているとはいえ、まだ立っていられるからだ。

 そんなこと考えていると、カルノさんが話しかけてきた。


「多分、センドラーには、その資格があるんだ。君なら、この街の想いをすべて、つなげることできる。苦しいかもしれないけれど、頑張ってくれ。絶対に、できると思うから──」


 正面から褒められて、思わず照れてしまう。思わず鼻をこすりながら、言葉を返した。


「ありがとう。真正面からそう言われると、ちょっと照れちゃうわ」


 でも、まだハスターを倒したわけじゃない。この最高のチャンスを、絶対に生かさないと──。

 どこか自信をつけた表情で、再びハスターに視線を向けた。


 カルノさんが──ラヴァルが──みんなが必死に戦ってくれたからこの状況がある。

 この街を守りたいって思っているたくさんの人が、今の私を支えていた。


 絶対に、彼らの想いは叶える。深呼吸をして、体をリラックスさせる。

 私の中にある魔力を、自身の剣に込めた。


 ハスターはそれに答えるようにこっちを向く。明らかに敵意を向けてきて、強い魔力を


 私が、最後の一撃を繰り出す。ハスターも、それに呼応するかのように殴り掛かってきた。

 今まで、感じたことが無いようなパワー。


 全力の力だというのが私にもわかる。


 大丈夫。私一人じゃない──


 そう感じた瞬間──。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 ライナの抜けた穴はやはり大きかったらしく、ラヴァルとコンラートがハスターの攻撃に耐え切れずに、大きく吹き飛ばされてしまう。


 そしてハスターは、2人の息の根を完全に止めようと倒れこんでいる2人に向かっていく。

 彼らをかばうために、今度はカルノさんが前に立つが……。


 カルノさん一人では難しく、一撃で吹っ飛ばされてしまった。


(行くわ! 私たちの想い、アイツにたっぷりと見せつけてあげなさい!)

(もちろんよ!)


 センドラーの言葉に、元気よく言葉を返す。今こそ、カルノさんからもらった

 私の身体に、何かが入ってくるのがわかる。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


 私の身体に、何が入ってきたのかがわかる。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


 白く光る、オーラの様な力。数えきれないくらいの人の力。


 感じる。街の人みんなの想いを。この街時には喧嘩をしたり、争いになることだってあるかもしれない。それでも、この街を愛して、唯一の居所にしている人だっている。


 そんな人がいる限り、私は負けるわけにはいかない。戦わなきゃいけない。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



 ただ、互いの力をぶつけ合うだけ。私が剣にこもっている強い光をハスターに向けてぶん投げていく。強い光はハスターに一直線に向かっていった。互いの全力の攻撃が衝突。勝負は一瞬。


 一瞬で、ハスターが繰り出した攻撃を私の攻撃が打ち消し私のはなった攻撃はハスターに直撃。大爆発を起こした。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォンン!!


 ハスターの肉体は蒸発するかのようにして、姿を消し消滅。その瞬間、紫色になっていた空が薄く光り出し、青空が戻った。

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