第129話 力を、合わせて

「行くよ、センドラー」



「お願いします」


 そう言って深呼吸をすると、カルノさんは杖を私に向けてくる。

 その間にもハスターは私たちに攻撃を仕掛けてくる。しかし──。


「させねぇよ!」


 ラヴァルとコンラートが攻撃を防いで切る。即席のコンビではあるものの、何とか力を合わせ、こっちに向かってくる攻撃を防ぎ切った。


「センドラー、俺にはわからないがあるんだろ──奥の手」


「うん」


 コクリと頷くと、コンラートは親指を立てて言葉を返した。


「ここは俺達に任せろ。お前を、信じてるぜ」


「ありがと」


 それだけじゃなかった。


「センドラー様には、指一本触れさせないです!」


「ライナ」


 ライナも参戦した。ライナは、冒険者としては並よりも少し上程度の実力、だからあえて戦いに参加させなかった。ライナは、私に背中を見せながら言い放つ。どこか、自信にあふれているのがわかる。


「センドラー様」


「よろしくね」


「私のことを想ってくれてありがとうございます。でも、私だって街のために、センドラー様のために力になりたいです」


「ありがとう」


「私、行きます」


 そして、ライナはハスターへと向かっていく。

 ライナの背中を見ながら私は静かに囁いた。


 お願い、絶対に生き残って──。そう強く願う。3人がハスターに突っ込んでいく。正直、3人がかりでもまともな戦いになるかどうかわからない。それでも、私がカルノさんの術式を受けている間は無防備になってしまうため、彼らを頼らなくてはならない。信じる以外に道はない。


 そして、私も試練の時間が始まる。


「行くぞ、センドラー」


「よろしく」


 私の体内に、今までは比べ者にならないくらい大きな力が入ってきた。

 が、大きくなっていく。大きすぎて、体中に痛みが走り体中が破裂しそうになる。


 目をつぶって痛みをこらえていると──。


「大丈夫か?」


「うん。止めないで、私は大丈夫だから」


 カルノさんはひと思いの優しい人だ。苦しい表情をしている私を気遣ってくれた。

 その優しさに、苦しさの中でも心がほっとする。

 けれど、今はそんなときじゃない。無茶をしても、苦しい思いをしても、力がなきゃいけないんだ。


 目の前では、ライナと、ラヴァル、コンラートが必死になって戦っている。やはり力の差は歴然のようで、何とか攻撃を耐えながら防戦を続けていた。

 彼らが必死になって戦っているというのに、何もできないというのがもどかしい。力になりたいのは山々だが、今行った所で何かできるわけでもない。我慢我慢──。


 気力を振り絞って、カルノさんからの力に耐える。

 大丈夫。カルノさんだって調整はしてくれるはずだ。私の身体が耐えられるように、けれどライナたちの負担が増えないように早くギリギリをついて。


 そして、私の中に流れ込んでくる力がなくなった。


「終わりだセンドラー。よく耐えたな」


 その言葉に、肩の荷が下りる。ようやく終わった。


「カルノさん、ありがとう」


 私の身体に、今まで感じたことがないくらいの力を感じる。

 ひとまずは、成功。


(けれど、それだけじゃだめよ)


 センドラーの言葉にコクリと頷く。その通りだ。

 今はまだ、第一段階。


「センドラー、集めるんだろ。みんなの力」


「はい」


 そう、 街のみんなの力。それを私が背負って戦うというのだ。


 私一人に、街中の力。


 考えるだけで、プレッシャーに押しつぶされそうだ。

 ピンチにはみんなで立ち向かって。

 それについては、今回も一緒



 みんなの力を、ひとつに──。


 そして、街中の人達に私の力を集めるように言いまわる人が必要なのだが。


「適役は、彼女しかいないわ」


 苦笑いをして、つぶやいた。

 流石に、この状況下で私がいなくなるのはまずい。カルノさんだって同じだ。


 今、コンラートとラヴァル、ライナがハスターと戦っているが、防戦一方。

 三人ともすでに満身創痍。準備が整う前に、三人とも戦えなくなってしまう可能性がある。そうなったら元も子もない。


 私の代わりにこの作戦を成功させてくれそうな人物。

 頼れるパートナーみたいな存在。


 パッと、一人の人物が思い浮かんだ。彼女なら、出来る。

 不思議と不安はなかった。


「ライナ」


「なんでしょうか」


 かなりかなり消耗していて、息を荒げながら答える。


「お願いがあるの。みんなに呼び掛けてほしいの。力を、私に向けうようにって」


 残念だけど、私は戦わなきゃいけない。

 ライナなら、出来る。今まで一緒に戦ってきた戦友だからわかる。


「わかりました」


 そう言ってライナはピッと敬礼をして、街へと繰り出していった。それから、私は再びハスターに視線を向けた。


「さあ、反撃の時間よ──」


 そうささやいたあたりから、私の体内にまた力がみなぎってくるのがわかる。

 今まで感じたこともない。街中みんなの力──。


 その中に、暖かさも同時に感じ始める。


(こんな力、初めて感じるわ。見ていてわかる。あなたにしかできないことよ)


(そ、そうなの?)


(ええ。容量よ。あなたの心を表わしたっていう言葉がふさわしいわ。普通の人なら、耐え切れずに体が爆発している。あなただからできるのよ)


(いや、大丈夫ってわけでもないわ)


 そう言葉を返した瞬間。


 フラッ──。

 体か軽くふらついてしまう。

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