5分後

 俺は一人残されたベンチで、温くなった缶コーヒーを煽った。

 目の前には、5分前とあまりにも変わらない光景が広がっている。

 

 空になった缶をゴミ箱に向かって投げる。

 缶はゴミ箱の縁に当たって跳ね返り地面に転がった。

 それを拾うために、俺は立ち上がる。

 ああ。

 じわじわと胸の内から込み上げてくるものを感じた。


 これは、本当に久しぶりの温度だ。


 俺は外した缶を拾い上げ、指で潰してゴミ箱に放る。

 ……もう少しだけ。

 もう少しだけ、頑張ってみようか。

 頑張って。それでも駄目なら考えて、もう一度頑張って。


 上を向く。

 太陽はまだ高く、空は穏やかに青い。

 彼女は俺に教えてくれた。

 まだ、なんとでもなるって。

 今なら俺もそう思う。たとえここに何もなくても。

 俺は鞄を右手に持って、彼女の進んだ方向へと歩き出す。

 だって、そうだろ?



 ――5分後に、世界が終わるわけでもあるまいし。



(了)


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5分間だけ、世界滅亡の話をしませんか? 池田春哉 @ikedaharukana

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