15秒

「……それは、なんとかならねえのか。こっちでずっと暮らすとか」

「無理です。タイムリープマシン本体が消滅すれば、その使用者も同時に消滅します」

 タイムリープのことはよく知らない。

 彼女が無理と言うなら無理なのだろう。

「……あと15秒くらいでしょうか」

 腕時計を見ながら、本当に落ち着いた声で。

 自分はあと少しで消えるというのに。

「じゃあそろそろ行きますね。目の前で消えられるのも後味が悪いでしょうし」

 楽しかったです。ありがとうございました。

 そう微笑んで彼女は立ち上がり、ジュースの空き缶をゴミ箱に静かに入れて歩いていく。

 俺はその後ろ姿に声をかけずにはいられなかった。

「……せめて」

 何だっていい。何だってよかった。

 何か、彼女に残してやりたかった。

 最期の5分を、こんなつまらない話に付き合わせてしまったのに。

 それでも「楽しかった」と笑ってくれる彼女に。

 俺はタイムリープなんて知らない。世界の滅亡を止める力もない。

 だからどうした。探せ。

 俺にできること。

 何も持っていない、俺にでもできること。

 せめて。


「せめて俺だけは覚えとくよ」


 彼女は立ち止まる。

「……やめて、そんなこと言わないでください。最後まで他人でいてくださいよ」

 振り返った彼女は、微笑んでいて。

 その大きな瞳に涙を浮かべて。


「消えるのが、嫌になるじゃないですか」


 そう言って彼女は消えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る