2分

「は?」

「信じられないですよね。あと5分で世界が終わるなんて。いえ、正確にはあと2分もないですね。あと2分弱で世界が終わって、私も消えるんです」

「……世界が終わる?」

「あ、この時代の世界は大丈夫ですよ。遠い遠い、未来のお話ですから」

「え、いや、は?」

「まあそういうことなので、最期に誰かと話がしたかったんですよ」

 彼女は軽い口調で話をまとめた。

 いや、理解が全然追い付かない。

 どこかの未来で世界が終わる? しかも2分後? 彼女は自分が消える前に誰かと話がしたかった?

 ……彼女はもうすぐ消えてしまう?

 意味はわからない。たとえそれが全部本当だとしても、ひとつ疑問は残る。

「でも何で俺なんだ? 未来で俺と知り合いなのか?」

「いいえ。全然関係ありません。全然関係ない人がよかったんです」

 小さく首を振り、彼女は口角を上げる。

「地球温暖化ってあるでしょう」

「え?」

 唐突な聞き慣れたワードに俺は訊き返す。

 彼女は淡々と続けた。

「あれって夏しかみんな騒がないんですよね。夏は暑いから。冬に温暖化の議論をしてる人がいますか?」

「まあ、確かにいねえかもな」

「大きな問題だって、実際に身近に無ければ他人事みたいに心がこもらなくなる。それと同じです」

 缶ジュースを両手で持って彼女は続ける。

「私は最期の5分に「世界滅亡なんて自分とは何の関係もない」と思ってる人と話をしたかった。元の世界には、もう絶望した人たちしかいないから。一緒に絶望なんてしたくなくて」

 そのまま彼女は缶の底を空に向けて、喉を鳴らしながら一気に飲み干した。

 ぷは、と息を吐いて、空を見る。

 

「他人事みたいに、世界が終わってほしかったんです」

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