第42話 哀れな人魚姫の恋の結末

前半 ミア視点

中盤 クリフ視点

後半 クリスティーナ視点

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もう何度も何度も同じことを聞かれている。

何度も何度も同じことを話したのに。


嘘をつくなと何度も言われ

答えは相手が話す筋書き通りじゃないと許されない。


私はただ……ジョシィが欲しかったの……

そのままの私を認めてくれるジョシィが……



もう叫び過ぎて声が出ない。水がほしい。

手の感覚も足の感覚もない。眠りたい。パンを食べたい。


「哀れなローレライ。具合はどうだ?」


あの時、偉そうにソファーに座っていた男の声がした。声がした方に目を動かすと、ジョシィよりも淡い金の髪をした貴族らしい服を纏った男が立っていた。


声を出そうにも、空気が掠れるばかりで声が出ない。


「おや、もう歌えないのか。残念だ。もうそろそろ眠ってしまいそうかな。では、ローレライが眠りにつくまでに"お話し"を聞かせてあげよう。


人間の男に恋をしてしまった、哀れな人魚姫の恋の結末は……まあ、どうなるのかローレライはもう知っているね。その人魚に人間の脚という魔法をあげた魔法使いの正体を知っているか?


その魔法使いはね、なんてことない。貴族のご落胤だ。娼婦の子として産まれ、母親から聞く父親に救いを描いていたんだろうな。いつか自分を迎えに来ると。まあ、そんな日は来ず、やっと見ることが出来た父親には自分と同じ年頃なのに自分とは全く違う息子がいた。父親に愛され、信頼されている姿を見ていたら壊したくなったそうだ。


同じ貴族の落胤であるアデルの容姿に目をつけ、アデルを父親の元に送り込み薬を飲ませ続け廃人へ。その息子にはお前を送り込むことにしたそうだ。


──だが、こんなありきたりな話し。つまらないだろう?」


男は腕を組み、なんてことない風に話し続ける。


「クピドは西の国で産まれ育ったそうだ。ちょうどよかったよ。まだ話を肉付けする必要はあるけれど、西の国に仕掛けるきっかけが出来た。王女を押し付けて来た隣国にも早速ご協力頂いて、力を削いでおかないと。──今回の件はアデル、ルートン領主、それにローレライも仲間だから。ちゃんと覚えておいてね」


ちがう、と声にならない空気が抜けていく


「……もうローレライは歌えなさそうだから言うけれど、アドラー公爵家はルートンでの事業で横領しているんじゃないかって疑っていたんだ。

現当主が倒れても怪しい資金の流れは変わらないから、黒幕はジョエルかって目星をつけていたんだけれど。まさかアデルとルートン領主がグルだったとはね。ジョエルには悪いことをしたよ」


ふーっと細く長い溜息が聞こえた。


「──ジョエルが黒幕だったら、まとめて掃除してティーナにはクリフをあげたかったんだけど……男女ってわからないもんだね。ティーナはジョエルがいいんだって。クリフの方がお似合いだと思うんだけど。


お前もそう思うよねえ?……あぁ、眠ったのか。おやすみ。ローレライ」





「眠ったよ」


地下牢から、その場には到底似つかわしくないオーラを放つ人物が出て来た。


「本件は、さっき話した通り"西からの間者"で進めてくれ。ティーナにも同じ説明で頼む」

「はい」


王太子の顔をしたマクシミリアンは、そう言い残し去って行った。



後姿を見送り、懐から小袋を出した。

あの日、あの女からもらった"魔法"だ。



結局、あの日

俺は使わなかった。


ティーナの幸せはティーナが掴むものだから。


あの日のティーナの表情を思い出し、自然と頬が緩んでいた。


その魔法の小袋を、地下牢に明かりを灯す松明の中へと放り込み、地下を後にする。


光差し込む出口を目指して足を進めた。







ソワソワして何度も、何度もステファンにまだかと聞いてしまう。


やっと知らせが入り、邸の前まで急ぐ。


エントランスを過ぎ


扉を抜けた。


馬車が入ってきた。


思わず足が止まる。


ドクドクと体が揺れる。


馬車の御者がうやうやしく扉を開けると

中から長身の男性が降りてきた。



旦那様



旦那様は、私を真っ直ぐ見ている。


あの蒼い瞳に私を映し、私の元へと歩いてくる。


自然と私の足も旦那様の元へと進む


一歩、一歩と近付いていく。



「クリスティーナ。戻ったよ」


「おかえりなさい。旦那様」


吸い込まれるように、旦那様の腕の中へと包まれた。





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旦那様。寂しいですが、お幸せに。〜記憶喪失は終わりか始まりか〜 コーヒー牛乳 @CoffeeMILKmug

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